誰もが知ってるお伽話といえばこれ、魔法使いの力でお姫様になった女の子のお話。 でも女の子にかけられた魔法はすぐ解けて、女の子はその場から逃げ出してしまうの。 ドレスはぼろぼろの服に戻り、きれいな靴もどこかで失くして、お姫様は哀れな女の子に戻ってしまう。 いえいえ、あの子は哀れじゃないのですよ。 王子様はちゃんと、お姫様のことを覚えていて、想い続けているんだから。 最後に女の子はいとしい王子様に会って、今度こそ本当のお姫様になるの。 ほらね、幸せでしょ?めでたしめでたし。 そんな、お馴染みのお話です。 幸せすぎて嫉妬しちゃう。 何も生まない、不毛な嫉妬よ。 そんなこと知ってるわ。 月 並 み 恋 物 語 [ 2 ] 「おい、」 「何よ」 どんなに早足で離れようとしてもついてくる。離れる理由も知らず、ただ追いかけてこられるのは残酷だわ。 「なんでそんな冷たいんだよ。お前たまにそうなるよな」 「そうなる、って何よ」 「ちょっと、俺にそっけなくあたるだろ?」 ああ。これが甘い響きを含んだ、恋人なる人へと向けられた言葉だったならここで、何も迷わず立ち止まるのに。 そうじゃないことをあたしがよく知ってるから、耳障りのいいシリウスの声もあたしの足を止めるには及ばないの。 「じゃあ、あちらの方々に構ってもらったらどうですかーシリウス君!」 見てみろというように視線を横に流して、廊下の間に2、3人でかたまっている女の子達を視界の中に捉えた。 青や緑の瞳はまるで甘いお酒にでも酔ったみたいな色と光をともして、熱っぽくシリウスを見つめてる。シリウスとお互いを交互に見比べながらきゃあきゃあと黄色い声をあげる姿は、同性のあたしにも可愛いと思える光景だった。 その女の子達をちらりと見やった後そのまま視線を当の美男子に向ければ、シリウスはばつが悪そうに苦笑いしていた。 15になったシリウスのその表情はまだ、幼い頃に見たあの顔を彷彿とさせるだけの面影を残していて。 あたしはまだ、あなたのそんな表情も覚えてるよ? 聞こえないように、おくびにも出さないように、心の中でそっと囁きかける。 お姫様でなくなった普通の女の子は、王子様に拒絶されるのが怖いのよ。 いつ来るのか…本当に来るのかも分からない王子様が来るのを、身動きもできずに待ってるの。 だから今この唇は、きっちりと結んだまま。 「の方が、一緒にいて面白いから」 困ったように眉根を寄せて、唇の端を持ち上げて笑う。本人は無意識の、女の子を惹きつけるカオ。 「だから?」 「お隣を歩かせて頂いても?」 「…構わないわよ」 嬉しいのに、切なくて死にそうだよ。 隣にある熱はのぼせそうな程にあたしを煽るのに、触れないし自分のものにも出来ない。 なんて中途半端で、歯痒い位置なのかしら。 「あんたね、女の子に興味はないわけ?」 軽い口ぶり、だけど心臓は気持ち悪くなりそうなほどに脈打ってる。だけどこの歯痒い状態から抜け出せるなら、こんな思いをしてでも訊く価値はあると思ったから、あたしはきゅっと結んでいた口を開いた。 その途端、シリウスの顔つきがほんの少しだけ変わった気がした。良いようにも悪いようにも捉えられなかったけれど、少なくともいつもと同じ顔はしていないみたいだった。その僅かな変化に、あたしの心臓が身震いする様にびくりと跳ねる。 「気になる奴なら、いるよ」 「え」 期待しないようにと自分に言い聞かせていても、飛び跳ね回る鼓動を抑えられない。 でも、それもすぐにおとなしくなった。 「だから話すんだぜ、誰にも言うなよ」 シリウスの台詞はまるで、ジェームズやリーマス、ピーターにでも秘密を打ち明けるかのような…そう、友達に向けられるような、ちょっとくすぐったいけれど甘くもなく切なくもない、なんともないものだったから。 「ふーん…シリウス、好きな子、いるんだ…」 少しの間をおいてやっと搾り出されたあたしの台詞は途切れ途切れで、シリウスにもあたしの動揺が分かるんじゃないかという程に不自然、滑稽だった。でもそこは恋の力とでも言うのかしら、お目当ての女の子の話になったものだからそちらに夢中で、あたしの変化にはあんまり気付いてない様子のシリウス。 「好きっつうか、気になるんだって。もしかして俺のお姫様はあの子かな?なんてな」 「お姫様?シリウスって案外メルヘン趣味」 自分のことは棚に上げてでも、厭味を言ってみせるの。こうしてなきゃ、すぐにでも泣いちゃいそうで。 「おい、そりゃー少なくとも褒めてるようには聞こえねーな…?」 「当たり前よ、褒めてるつもりないもん」 「こら!!」 「あーん忘れ物しちゃったーそれではシリウス君またお目にかかることにしましょーごきげんようー」 「棒読みだ!!」 もう限界。涙を堪える魔法が切れそうな元お姫様は、追いかけられることもなくこの場を後にするのです。 …あんなこと、訊くんじゃなかったな。 身体を強張らせながらぶつけた勇気は、跳ね返ってあたし自身を傷つけただけだったんだから。 |
4、5話くらいで終わりそうな月並み恋物語です。 シリウスに女として見られてないかも!?なヒロイン。悪戯仕掛け人(野郎共)とひとまとめです。んな殺生な。 でもとりあえず最後はハッピーエンドですから!(とりあえずってなんだー) n e x t b a c k |