あたしの恋心はまだ、森の中で眠っています。
その緑の茂みを掻き分けてあたしに会いに来てくれる王子様は、まだいません。
眠りの中で何度も聞いた、夢の中のあたしの台詞。
レコードであれば擦り切れてしまうほどに再生する台詞。

「あたしがここにいることを、どうか、忘れないでください。」



あたしの目はまだ開きません。

近づく足音はまだ、聞こえません。











月 並 み 恋 物 語 [ 4 ]










「おはよー」
「やぁ、おはよう」
「おはよう」
「ジェームズ、リーマス。あれ、ピーターは?」
「まだ部屋で仕度してるよ。寝坊したらしくてね…朝食に間に合いそうにないから、何か取ってきてやるのさ」
「あらら、大変だねピーター…」

そこまで会話を交わして、ジェームズ達より少し前にいるシリウスに声をかける。
「シリウス、おはよう」
黒髪が揺れて、彼が振り向いた。
「おう、。今日はしゃきっとしてんな、感心感心」
にっと笑うと傍に来て、栗色の髪をよしよしと撫でてくる。髪に神経なんて通っていないのに、さらりと触れ合うその一本一本がくすぐったくて仕方がない。前回シリウスを冷たくあしらってしまった事を、もったいないとさえ思った。

そんな幸せの中でも…なにか、そう、なにかが違和感を生んでる。

いつもならあたしが隣を歩くときは歩調を合わせてくれるのに、今日のシリウスは普段より若干足が早いように見える。さっきからずっと、彼の後姿しかまともに見られないなんて。
普段と同じように見えるシリウスが、そんな風にどこかおかしいと思えるのは、あたしの気のせい?
彼がいつもより少しせわしなく歩くことに、ジェームズ達も気付かないの?
こういうことは、好きになってしまったからこそ気付くことなのかしら。

今のシリウスを見てると…なんだか、あんまり良い予感がしないの。気のせいであればいいけれど。


「ねぇ、リーマス」
あたしはシリウスに聞こえないよう、自分の隣を歩くリーマスにそっと声をかけてみた。先日彼に不安を沢山ぶちまけたせいか、何だかリーマスには秘密を共有する親友のような感情を抱いていて、この人にならシリウスの事を色々と相談できる、そんな気になっていたから。
「なに、?」
リーマスが正面に向けていた顔をあたしに見せて、にこりと笑った。あたしの小声に合わせるように彼も小声で話すのが妙に可笑しかったけれど、歩調も声もちゃんとあたしに合わせてくれるのが少し嬉しかった。

「あのね…なんだか、シリウスさ。いつもと感じが違わない?」
「そうかな?」
「あたしの気のせいかもしれない。でもなんだか、いつもよりせわしない感じなんだよね」
「せわしない、ねぇ…。そういえばそうかもね。シリウスにはここを歩いてるお姫様が見えないのかな?」
リーマスの瞳がいたずらっぽく、くるりと動いてあたしを捕らえる。なんだか照れくさくなって、その言葉には触れずに足を進めた。ちょっと動揺しちゃったのなんて、きっとリーマスにはばれているだろうけど。

「なんだか、あたし置いてかれそう」
リーマスは黙って隣を歩いている。
「せっかく勇気が出てきたのにな」
シリウスに一歩でも近づこうと思っていた。それなのに、背中だけしか見せないシリウスを前に、あたしの気持ちは手折られた花みたいに萎れていってしまった。リーマスが暖めてくれた手は、とうの昔に冷たい。

「愚痴ばっかで、ごめんね」
「いいよ」
リーマスならそう言ってくれるだろうと思って、あえて謝った。そんな甘えた自分を、嫌だと思った。


いつも通りの速さで進むあたしの足。
この前まであたしと同じ速さで歩いていたシリウスの足。
二人の距離がそのままあたしの不安を表しているみたいで、それ以上足を速められない。

足音は近づくどころか、どんどん遠ざかっていくよう。
大広間の扉に手をかける後姿に、唇だけ動かして投げかけた台詞。



あたしがここにいることを、どうか、忘れないでください。
シリウス。











リーマス絡みすぎ!(笑)しかもこれ偽リーマスですね!まるで犬や鹿のような性格というか何というか…。
お姫様ですってギャハー!(やばい)


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