好きな子が泣いていたら、悲しい。
それが自分ではどうにもできないものなら、もっと悲しい。



俺も泣きたいよ。

































今日の天気は雨。朝からちっとも止む気配を見せず降り続けている。
談話室には人気がなくて、雨の音が聞こえる以外には耳が痛くなるほどの静寂しかなかった。
こんな日は少し、憂鬱になる。

ざあざあと降る雨を窓から眺めていると、横目にが談話室へと入ってくるのが見えた。
大好きな子だから、視界に入るか入らないかくらいの場所にいても彼女だと分かる。
振り返って声をかけようとして、あれ、と思った。
いつもなら賑やかにリズムをとる彼女の足音は、今日は赤い絨毯に吸い込まれてしまっていた。
このままだと足音どころか自身が消えてしまいそうで、それはいいことじゃないと思った。



名前を呼んで、手を伸ばした。
は俺の手をとってはくれなかったけれど、傍に来てくれた。

「シリウ、ス」

触れられるほど近くに来たところで、俺はようやくが泣いているのだと分かった。



「ふら、れ、ちゃった、わたし」

一語も上手く言い切れないほど涙で喉を引きつらせて、がことばを搾りだした。

「だれ?」
「セブル、ス」

黒髪と眉間に寄った皺が、目に浮かんだ。
そうだ。図書館で会ったすてきな人がいると、前にが話していたっけ。
とても嬉しそうに話していたのを、嫌というほど覚えている。


「結構、仲良かった、ん、だよ?
だから、頑張って…すごく、頑張って、打ち明けた、の。
そしたら…そしたら、セブルス…」
そこまで口に出したところで喉の奥から悲しいことが一度にこみ上げてきたらしく
が裏返ったような声でクウクウと泣いた。

「セブルスが、ごめん、って、言った」

そう言ってが何度か目を瞬くと、瞬きの数だけ涙がこぼれた。
俺はの小さな身体を引き寄せて、ふんわりと壊さないように抱きしめてみたけれど
それでは何の解決にもならないことが悲しかった。


「なんでだめなの?」

が俺の腕をきゅっと掴んだ。
力は少しも篭っていないのに、掴まれた痛みは腕の神経を通り、脳まで響いてくるようだった。
痛い。かなり、痛いよ。

「なんで、わたしじゃだめなの?」

わからない。
でもその台詞なら、俺も言いたいと思った。

、どうして俺じゃだめなの?
って。

なんで、俺にしなかったの。
俺ならにそんな顔させないのに。そんな風に、大粒の涙をぽろぽろと零させたりしないのに。
でも今この子を慰められる奴は一人しかいなくて、そいつはを泣かせたのだ。

「なんで」

どうして全てはこんなにも不条理なんだろう。


はただ泣きじゃくるだけで、もう何も言わなかった。
の頭がある俺の胸の辺りがずきずき痛んで、もう少しで血が出るのじゃないかと思った。



雨足は去り際を忘れたように強くなった。
の嗚咽も止まなかったし、俺の胸も痛いままだった。

明日には、この大粒の雨がみんな去ってしまえばいいのに。
そうすればきっと俺も、俺の大好きなもまた笑えるだろう。



ずぶぬれの二人に、明日はどうか太陽を。











失恋話。よ、読みにくくてごめんなさい…!!
半分詩のようなお話が好きです。まさに夢を見ているような。
この話をその分類に入れるにはまだボキャブラリーが足りませんが…。


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