星の明るさについて
「星の明るさ」って、いったい何なのでしょう?「明るさ」は「明るさ」ですよね。いや、そんなことじゃないんです。確かに、「明るさ」は「明るさ」です。でも、それで終わってしまったら、どうしようもないじゃないですか!
1.「明るさ」
「明るさ」とは、ずいぶんと抽象的な言い方ですね。とりあえず、在り来たりにはなりますが、広辞苑でこの言葉を調べてみましょう。
あかるさ【明るさ】明るいこと。また、その度合い。
で、「輝度」とか、「光度」とかをひくように誘導がありました。そこで、馬鹿正直に、これらの言葉を調べてみました。
きど【輝度】発光体の単位面積あたりの明るさ。国際単位系での単位はカンデラ毎平方メートル。
こうど【光度】@発光体の放つ光の強さの程度。光源からある方向に向かう単位立体角に含まれる光束の大きさで表す。
単位はカンデラ。A天体の実視等級または絶対等級。
ここでは、「カンデラ」という単位についてもっと詳しく説明するべきでしょうが、気が進まないのでやめておきます。
分かってほしいのは、「星の明るさ」には、2種類ある、ということです。「光度」の2つ目の意味です。
ただし、「光度」という言葉をAのように使うのは、正確な使い方ではありません。「絶対等級」の方を「光度」呼ばわりするのは、別に構わないのですが、「実視等級」の方を「光度」というのは、あまり賢くなさそうです。まあ、そのわけは、読んでいくうちにわかるでしょう。
では、次は、その、「絶対等級」だの「実視等級」だのの言葉についてみていきましょう。
2.等級
星を実際に見ての、見た感じの明るさを示す等級を、ふつう、「見かけの等級(実視等級)」と呼んでいます。この等級は、昔むかし、夜空に輝く星々を1等星から6等星までにランク分けをしたのがはじまりで、現在ではもっと精密な定義付けをされています。
1等星が6等星の100倍の明るさ、というのは、中学受験でもやるような基本的な事項ですから、みなさん御存じでしょう。つまり、5等級の差で100倍の違い、ということですから、1等級の差だと倍(≒2.512倍)違う、ということです。正比例のグラフしか知らないはずの、中1以下の人たちにとっては、このあたりは見慣れない議論かもしれませんが、がんばってついてきて下さい。
今まで説明してきた、見かけの等級は、当然、その星の本当の明るさではありません。同じ明るさの星でも、遠くにあれば暗く、近くにあれば明るく見えるからです。そこで、その星の実際の明るさをあらわす等級として、「絶対等級」というのが定められています。これは、その星が10pcの位置にあった場合の等級として定義されています(距離の単位は大丈夫ですか?1パーセクは、年周視差が1秒の天体までの距離で、3.26
光年、30856776000000 H)。つまり、「絶対等級」こそが、その星の本来の「明るさ」をあらわすのに最も適した物差しなのです。
星の明るさは、観測者からの距離の2乗に反比例するので、絶対等級は、次のような公式によって計算できます。
(M : 絶対等級、m : 見かけの等級、π : 距離(pc))
対数を習っていない人は、わからなくてもいいです。一応、証明ものせておきましょう。飛ばしてもいいですけど。
まず、基本事項を確認しておきます。
・絶対等級とは、その星が観測者から10pcの距離にあった場合の見かけの等級。・・・@
・星の明るさは、観測者からの距離の2乗に反比例する。・・・A
・1等級の差は倍(≒2.512倍)の違い・・・B
それらを踏まえて、対数の計算のルールを知っていれば、次のように証明することができます。
この証明において、大文字は10pcの場合、小文字は任意の場合(実際の場合)とします。
光量の値を、L、l、距離の値をR、rとします。
@、Bより、次のことが言えます。
∴
理解できましたか?式変形だけは丁寧にやったつもりなので、問題があるとすれば、途中の説明でしょうが、素人がやっているのだから、仕方ないでしょう。中学生は、独学で対数を学んで、この証明を理解できるようになることをお勧めします。対数は面白いです。保証します。
話をもとに戻します。この公式は、年周視差を用いると、次のように変形できる、というのは分かりますか?
(p : 年周視差)
こっちの証明もしようと思ったけどやめた。Dの式が微妙にかわるだけなので、同じようなものです。ヒマな人は、証明してみては?
3.具体例
例えば、太陽は、見かけの等級は-26.8等なのに対して、絶対等級にすると4.8等になります。4.8等というのは、非常に平均的な数値です。太陽以外の構成のうち、最も明るいシリウス(地球からの距離は8.7光年≒2.7pc)は、見かけの等級が-1.5等なのに対して、絶対等級は1.5等くらいです。これらの星は、地球からの距離が近いので、10パーセクの位置に持っていくと、実際より遠ざかってしまうため、「みかけの等級
> 絶対等級」となってしまっているのです。930光年(≒290pc)の彼方にある、はくちょう座のデネブは、見かけの明るさでは1.3等と、1等星の中ではあまりぱっとしない(夏の大三角で一番暗い)ですが、絶対等級にすると、-6.2等という、素晴らしい明るさになります。ちなみに、ベガの絶対等級は0.5等、アルタイルは2.4等、といったところです。
4.おわりに
疲れたので、これくらいで終わりにします。最後まで読んでくれた人、どうも有り難うございました。証明に間違いがあったりするかもしれないので、何か、お気付きの点がございましたら、機会があったらつっこんで下さい。そんなもんです。
(石田千郷)