2000年7月16日皆既月食観測報告

 今回の皆既月食は月が地球の本影のほぼ中央を通るというすばらしいもので、皆既継続時間は1時間47分と非常に長いものでした。

 月食のしくみについてはよく知られていますが、念のために簡単に説明しておきます。月が光るのは太陽の光を月が反射しているからです。月食のときには地球が太陽の光をさえぎるために月に太陽の光がとどかなくなります。これが月食のしくみです。地球の影に月が入ってしまえば月はまったく見えなくなるはずですが、実際には地球の薄い大気の層を通った太陽の光が月にとどき、暗く光ります。空気は可視光では赤い光をよく通すので、月は赤く光ることになります。これは夕焼けが赤いのと同じ理由です。月と地球の軌道面が完全に一致していれば、満月のときには必ず皆既月食が起こりますが、実際には一致していません。

 月が部分的に本影に入る月食を部分月食、月が完全に本影に入るものを皆既月食といいます。月が地球の半影に入るものを半影月食といいますが、見た目はほとんど普通の満月と同じで気付きにくいです。

 今回は雲が多く、食の前半は月が雲に入ったり、出たりという状況で心配でしたが、後半では晴れて写真も撮影しやすくなりました。以下では写真とともに月食の様子をお伝えすることにします。なお、画像はフィルムやスキャナの特性、および画像処理などのために色再現が正確でない場合があることをご了承ください。

20時57分

月が欠け始める時刻ですが、月は雲の中です。

21時25分

21時25分

すでに月はかなり欠けています。写真ではわかりませんが本影部分は赤く光っています。よくこういう形の月がテレビドラマや映画に出てきますが、普通の満ち欠けではこのような形になることはなく、月食のときにのみこのように欠ける月を見ることができます。

21時40分

21時40分

ずいぶんと欠けてきました。欠けるスピードは、目で見てわかるほどではありませんが結構はやいものです。

21時55分

21時55分

あと7分程度で、皆既になります。もうすでに本影に入った部分は赤く光り、皆既月食の雰囲気です。

22時6分

22時06分

皆既に入りました。まだ月は地球の本影の端の方にいて、明るさにかなりのむらがあります。

22時26分

22時26分

月は地球の本影の中をずいぶんと移動しました。皆既月食中は月にあまり変化がないと思われがちですが、月の明るさは大きく変化します。まだ月の右側が明るく、地球の本影の右寄りいることがわかります。

22時57分

22時57分

ほぼ食の最大です。月が地球のほぼど真ん中にいます。空には赤い月が浮かび、なんか別の惑星に行ったような気分になります。空も暗くなり、星の数が多くなりました。

注目したいのは、皆既中の月の明るさです。1993年の皆既月食はピナトゥボ火山の影響で大気の透明度が下がっていたので、皆既中は月がはとんど見えないぐらい暗くなりました。今回は成層圏に噴煙が達するほどの大規模な火山活動はなく、成層圏のチリの量は1993年の5%ほどと観測されていて、明るい皆既月食が予想されていました。結果は予想通り、皆既中の月は1993年に比べてずっと明るいものでした。

23時25分

23時25分

月は地球の本影の中をさらに移動し、月の左側が明るくなってきました。

23時54分

23時54分

皆既終了後5分を経過しています。太陽の光が月に届きました。この瞬間はなかなか感動的なものです。

24時11分

24時11分

月はどんどんもとの姿に戻っていきます。写真ではわかりませんが、目で見ると、まだ右側は赤いです。

24時39分

24時39分

この形に欠けることも月食の時以外ありませんね。月のウサギも姿をだいぶ現してきました。

24時57分

24時57分

本影食はすでに終わっています。いつもの満月に戻りました。でもちょっとだけ違いますね。実はまだ半影月食中で、月は地球の半影の中にいるのです。

 月食という現象はそれほど派手なものではありませんが、皆既月食中には非常に幻想的な光景を見ることができます。そして、地球の影が丸いことを目で見て確認できるのは月食のときだけです。月食ひとつ見るだけでも、月と地球の関係がわかります(ただ見るだけではダメですが)。学術的には月食はあまり価値のないもののようですが(もちろん昔は価値がありました)、教育的または趣味的には非常に価値のあるものだと思います。今回の皆既月食を見た方で、天文に今まで興味を持っていなかった方はそんなことを考えて見てください。

 見ていない方はご安心ください。2001年1月10日明け方に、月は再び地球の本影の中に入ります。食の最大は5時20分です。この皆既月食は明け方なので、日本からは食の終わりまで見るのは辛いかもしれません。でも皆既月食はそれほど珍しい現象ではないので、その後も何回もあります。

 月食に関連してとても見てみたいものがあります。皆既月食のとき、月から地球を見ることです。白い月の世界は赤の世界に変わり、空には太陽を隠した太陽の4倍の大きさに見える黒い地球がその輪郭を真っ赤に染めていることでしょう。今回の皆既月食は私にそんなすばらしい光景を想像させてくれました。

2000.7.29(小高裕和)

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