天体写真入門 〜固定撮影法〜

はじめに

 みなさんは美しい星空を見て、それを写真におさめたいと思ったことはありませんか?ここでは誰にでも簡単にできる天体写真の撮り方についてご説明します。ここで紹介する方法は固定撮影法といって、とても簡単な方法です。しかし方法が簡単だからといって、たいした写真が撮れないというわけではありません。固定撮影法は非常に奥が深いのです。みなさんもすばらしい天体写真を撮って下さい。

§1 準備

1.1 カメラとレンズ

 写真を撮るためにはカメラとレンズが必要です(あたりまえですが)。そこで、どのようなカメラとレンズが天体写真に向いているのかを考えてみましょう。

 まずカメラですが、これは一眼レフカメラで長時間露光が可能なものでなければなりません。コンパクトカメラやレンズ付きフィルムでも工夫すれば撮影できますが、一眼レフで撮った方が簡単で、きれいな写真が撮れます。長時間露光というのは、カメラのシャッターを開けっぱなしにすることです。星の光はとても弱いので短い露出ではフィルムに感光されません。一眼レフのカメラでシャッター速度にB(バルブ)かT(タイム)が選べるものなら問題ありません。B(バルブ)はシャッターボタンを押している間シャッターを開けっ放しにするもので、T(タイム)ではシャッターボタンを押すとシャッターが開いたままになります。

 基本的には上に書いた条件で撮影できるのですが、さらに欲をいうとメカニカルシャッター(機械制御式シャッター)を搭載したものが望まれます。というのは、現在多くのカメラに使われている電子制御式シャッターは電池が必要だからです。メカニカルシャッターは電池がなくても動きます。とくに露出時間が長くなると電子制御式では電池がもちません。とはいうものの、そのようなカメラを持っていないのであれば、電子制御式のカメラで撮影して大丈夫です。ただし、予備の電池は用意しておいたほうがいいでしょう。ちなみに現在発売されているカメラで機械制御式の35mm一眼レフカメラにはNikon FM3Aなどがあります。

 次にレンズです。レンズはなるべく明るいものがいいでしょう。つまりFナンバーが小さいものです。できればF2.8より明るいものが望まれます。これは星という被写体が非常に暗いものだからです。もし、F4程度の暗いレンズしか持っていないのであれば、とりあえずそのレンズを使ってもかまいません。

 レンズの焦点距離ですがこれは自由です。どんな目的で撮るかによって変わってきます。でも最初は50mm程度の標準レンズが扱いやすいのではないでしょうか。また周りからの光が入らないように、レンズにはフードを付けましょう。レンズフードはレンズの保護にも役立ちます。

1.2 フィルム

 写真を撮るためにはフィルムが必要です。ではどのようなフィルムが天体写真に向いているのでしょうか。暗い星を撮るのだから高感度のフィルムが必要だ、と思われるかも知れませんが、実際には普通のISO100〜400のフィルムで十分です。高感度のフィルムは画質が悪くなるので特別な場合を除いてはあまり必要ないでしょう。感度と画質のバランスがとれているのは、ネガフィルムなら400、ポジなら100〜400ぐらいだと思います。ネガを使うか、ポジを使うかは自由です。ポジの方が発色はきれいですが、ネガの方が露出の許容範囲が広いので扱いやすいです。最初はネガで、慣れてきたらポジにするとよいかも知れません。

1.3 三脚

 天体写真では長い間シャッターを開くので、ぶれを防ぐために、三脚が必要です。それもなるべく大型の丈夫なものがいいです。

1.4 ストッパー付ケーブルレリーズ

 カメラのシャッターボタンを直接おすと、ぶれてしまうので、シャッターを切るときはストッパー付ケーブルレリーズを使います。最近のAFカメラでは電子式のリモートコードを使ってください。

1.5 その他

 懐中電灯や星座早見盤、星図、時計などがあると便利でしょう。

§2 撮影

 さて、いよいよ撮影です。三脚にカメラを取り付け、レリーズも付けます。そして、撮影したい方向にカメラを向けて、構図を決めます。

 ここでシャッターを切る前にチェックしておくことがあります。まず、シャッター速度をB(Tでもよい)にして下さい。そうしないと長時間露出ができません。次に絞りを一絞り程度にします。そして、フォーカスを無限遠点∞にあわせます。ピントを∞にしないと、星がぼけてなにも写りません。撮影中にフォーカスリングが回らないようにテープで止めた方がいいと思います。レンズに夜露がつく場合もあるので、これも撮影前に確認しましょう。以上の点は現像してからがっかりしないように、念入りにチェックしましょう。けっこうこのような単純な失敗は慣れてきてからもくり返すものです。

 それでは撮影しましょう。露出時間は空の状況で変わってきます。空が暗くて(光害が少なくて)星がたくさん見えるところでは、10分以上露光すればかなりたくさんの星を撮ることができます。露出時間が長ければ長いほど暗い星まで写せます。また、星は日周運動をしているので(地球の自転のため)だんだん動いていきます。それが写真では光の軌跡となります。露光時間が長くなるとこの軌跡が長くなります。

 光害がひどく空の明るいところでは、長く露出すると、空が露出オーバーで、写真は真っ白になってしまいます。そこで、露出時間を切り詰めなければなりません。どのくらいの露出時間にするかは光害の程度によるので、いろいろな露出時間で試してみる必要があります。10秒、20秒、30秒、1分、2分、5分と撮影してみるとよいでしょう。このとき、あとで比較できるように撮影データは記録しておきましょう。

 また露光中はレンズに余計な光が入ると写真が台無しになるので、懐中電灯などをつけてはいけません。また、ぶれの原因になるので、露光中にカメラのまわりを歩き回るのもやめたほうがいいでしょう。

§3 さらにいい写真を撮るために

 ふつう天体写真というものは1回でうまくいくということはありません。何回も練習することでいい写真がとれるようになってきます。ここでは、よりよい写真を撮るためのアドバイスを簡単に書いてみます。

3.1 構図

 どんな種類の写真でもよい写真は構図がしっかりしています。これは撮影者のセンスの問題もありますが、やはり経験が必要です。最初はひとつの星座でまとめたり、地上の風景と組み合わせたりしていろいろやってみるのが一番です。とくに被写体として面白いのはオリオン座や夏の大三角、冬の大三角、北斗七星などでしょう。北の空に向けて、北極星を中心に星がまわる様子を撮るのも面白いと思います。構図は撮影者の自由なのでいろいろ試してみましょう。

3.2 撮影地

 天体写真は空の暗いところで撮ったほうが有利です。というよりも空の明るいところで天体写真を撮るのは極めて困難です。周りに外灯などがなく、なるべく空の暗いところで撮影するようにしましょう。

 構図の問題とも重なりますが、地上風景と組み合わせる場合は撮影地もよく検討する必要があります。

3.3 露出時間

 これはいろいろ試してみるしかありません。空が暗いところでは思いきって露出時間を長くしても大丈夫ですが、光害のあるところでは1分の露出でも写真が真っ白になることがあります。

3.4 星を点に写す

 固定撮影法では星は日周運動のために弧を描きます。しかし、目で見えるように星を点に写したい時もあるでしょう。星を点に写すには短い露出時間を選んで日周運動を目立たなくする必要があります。広角レンズで30秒以下なら星はだいたい点に写ります。ただしレンズの焦点距離や星の位置によって星のフィルム上での移動距離は変わってくるので、いろいろと露出時間を変えて写してください。焦点距離の短かめのレンズを使うと星の移動は目立たなくなります。また、天の赤道付近は星の日周運動が速いです。短い露出時間でたくさんの星を写すために高感度フィルムを使った方がいいでしょう。

3.5 絞りの調整

 一般撮影では絞りは露光量と被写界深度(ピントが合っているように見える範囲)によって決定します。天体写真の場合は、露光量は主に露出時間で調整し、被写界深度は特に気にしません。(近景と星空を組み合わせる場合は被写界深度も考える必要がある)ですから、露出時間が短くなるように、基本的には絞り開放で撮りたいわけです。

 しかし、写真のレンズは絞りが2、3段絞られているときのほうが画質がよくなります。天体写真は、一般撮影にくらべて、結果がレンズの性能をシビアに反映します。そのため、画質を優先する場合は、暗くなることを我慢して、2、3段絞ったほうが結果はよくなります。

 とはいうものの、絞ると確実に露出時間は長くする必要があるので、バランスの問題です。まずいろいろな絞り値で試してみるとよいでしょう。

3.6 ぶれ対策

 失敗の原因として多いのがピンぼけやぶれです。シャッターを切る前にピントは必ず確認しましょう。ぶれを防ぐためには丈夫な三脚を使い、風の弱い時に撮影することが必要です。レンズの前に黒いボール紙をあてておいて(レンズに触れないように)、シャッターを開け、ミラーの振動がおさまってから、その紙を取ることで露光を開始するようにするとミラーショックによるぶれをなくすことができます。この方法は、真っ黒なうちわで行われることが多いことから、通称うちわシャッターと呼ばれています。また、シャッターが開いているときは絶対にカメラに触れないようにしましょう。

3.7 現像のとき

 ラボに現像を頼むときは天体写真である旨を伝えないと、何も写っていないと勘違いされることがあります。特にネガの場合はプリントしてもらえません。

おわりに

 以上が固定撮影の方法です。この方法で撮る写真はおもに星景写真と呼ばれていて、天体写真の重要な一分野を形成しています。この分野は高度な技術や高級な機材を必要としないかわりに構図などの決定においてセンスを必要とします。星景写真は風景写真に近いものがあり、風景写真を撮る人はその延長で星景写真に挑戦するのもいいと思います。

 天体写真には他にガイド撮影や望遠鏡を使った撮影などいろいろあります。ガイド撮影は星の日周運動にあわせてカメラを動かす撮影法で、長い露出時間でも星を点に写すことができます。この方法では赤道儀という機械が必要になります。また望遠鏡を使うと月や惑星、星雲、星団などを拡大して写すことができます。これらの方法はやや高度なものですが、機材さえそろえば誰でもできるものです。もっといろいろな写真を撮ってみたくなったら、天体写真の本を読んでチャレンジしてみて下さい。

(小高裕和)

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