ここでは、天体望遠鏡で天体観測をはじめてから間もない方に、望遠鏡での月、惑星の観望について紹介したいと思います。なぜ月、惑星かというと、はじめは月や惑星の観望が簡単だからです。星雲や星団を見るのは月や惑星の次のステップだといえます。なお、ここでは口径75〜100mm程度の望遠鏡で見ることを想定しています。それでは、太陽系の星々を見ていきましょう。
望遠鏡を買って、多くの人がはじめに見るのは月だと思います。そこで、まず月を見てみましょう。望遠鏡への月の導入は簡単ですね。ファインダーの十字線に月を合わせて、望遠鏡を固定します。まず低倍率のアイピースをつけて、望遠鏡をのぞいてみましょう。月全体が大きく見えているはずです。
それでは月の欠け具合による見え方の分類をしてみましょう。
欠けている部分も暗く光っていますね。これは地球の反射光が月にあたっているからで、地球照といいます。地球も太陽光をずいぶんと反射しているわけです。欠け際にはクレーターがたくさん見えるでしょう。欠け際にクレーターが多く見えるのは、光が真上からあたるより、横からあたったほうが地面の凹凸が目立って見えるためです。
このころの月はクレーターがとても見やすくなります。月面図などがあれば、図と比較しながら見るのも面白いでしょう。
このころは月に真上から太陽光があたるので、クレーターは見ずらくなります。ティコやコペルニクスなどのクレーターから広がる光条(レイ)という明るいすじを見ることができます。満月は非常に明るく、望遠鏡で見続けていると目を悪くするので、ムーングラスなどをつけて減光をしてください。ただ私の経験ではムーングラスをつける程度ではあまり暗くならないようです。必要に応じてNDフィルターなどを使うとよいでしょう。
このころもクレーターが見えやすくなります。同じ場所を上弦の月のころとくらべてみてください。太陽の光が反対からあたるとずいぶんと地形の見え方がかわることがわかります。
次にもっと倍率をあげて見てみましょう。望遠鏡の最高有効倍率ぐらいにしてください。(最高有効倍率は口径の約2倍ぐらいと言われています。例えば口径100mmなら200倍です)すると、その月面の迫力に驚かされます。まるで、月の上を宇宙船で飛びながら、下を眺めているというような錯覚に陥ります。この倍率でしばらく興味のあるところを散策してみてください。
なお、高倍率に上げたときは、シーイング(Seeing)が見え方を大きく変えます。シーイングは見え方の良し悪しを表すものですが、大気の状態に大きく関係しています。シーイングが悪いときは、高倍率にすると像がゆれて細かい部分がみえません。なるべく好シーイングのときに観察したいものです。
金星は宵の明星、明けの明星として知られる地球のすぐ内側をまわる惑星です。夕方西の空か、明け方東の空にひときわ輝いて見えるのが金星です。金星を望遠鏡で見るとわかることは、月と同様に満ち欠けすることと、見かけの大きさが時期によってずいぶんと変わることです。というのは太陽、金星、地球の位置関係を考えればわかることです。金星と地球が近くにいるときは三日月形になり大きく見えます。遠ざかると、半月状、さらに遠ざかると、さらに小さくなり半円の弦の部分がふくらんだ形になります。太陽と同じ方向になるので円形に見ることはできません。
金星が見えやすいのは、太陽と金星のみかけ位置がもっとも離れる最大離角のころから最大光度のころにかけてです。最大離角のころは半月状に見え、最大光度のころは大きさが大きくなり三日月状に見えます。金星の暦に関する情報は天文年鑑や天文雑誌等を参考にしてください。
火星を望遠鏡で見ると不気味なほどに真っ赤に見え、なかなか見ごたえがあります。しかしこのように見えるのは地球に接近したときだけで、普段はあまり目立ちません。さそり座の赤色巨星アンタレスの名は火星の敵という意味ですが、戦況は普段は火星に勝っているけれど、火星接近時は完敗するというような感じです。火星と地球が接近するのは2年2ヶ月ごとです。特に15年おきの大接近時には小望遠鏡でも表面の模様がよくわかります。次の大接近は2003年です。
さて、火星の表面で目立つものは白い極冠です。これは実際には二酸化炭素の氷、ドライアイスだと言われています。これが季節によって融けたりして変化するのがわかります。また、火星の表面の薄暗い模様も目が慣れてくれば、わかります。
木星は月についで見やすい天体ではないでしょうか。さすが、太陽系最大の惑星としての風格は十分で、小望遠鏡でもその偉大な姿を見ることができます。木星は星空の中でもマイナス2等の明るさで輝いているので、見つけやすいです。
まず、木星のまわりにある4つの小さな天体に注目してみましょう。これは木星の衛星です。木星と重なったり、木星に隠れたりするので、常に4つが見えているわけではありません。ガリレオ・ガリレイがこの4つの衛星を発見したのでガリレオ衛星とも呼ばれています。木星には10以上の衛星が発見されていますが、小望遠鏡で見えるのはこの4つで、内側から順にイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストといいます。
毎日見ていると、この4つの衛星が木星の周りをまわっていることが確認できます。ガリレイはこれを発見し、すべての天体が地球をまわっているわけではないことを知り、地動説を確信したと言われています。
次に木星本体を見てみましょう。明らかに球ではなく、赤道方向に膨らんでいるように見えます。これは木星の自転周期が約10時間と短いためです。地球の約11倍もの大きさで、この自転速度なので、赤道部分がふくらんでしまうのです。
木星表面で目立つのは縞模様と大赤斑と呼ばれる楕円状の斑点です。どちらも口径8cm程度の望遠鏡で見ることができます。特に太い2本の縞模様は目立ちます。しかし注意したいのは好シーイングのときに見るということです。シーイングが悪いと何も見えません。逆にシーイングがいいときは非常によく表面の様子を観察することができます。このようなときは、しばらく見ていると、自転のために模様が移動するのもわかります。シーンイングがいいときは、高倍率で何本もの縞模様がきれいに見え、すばらしい眺めとなります。
天体望遠鏡を買ったなら、絶対見なければならないのが、土星の輪です。宇宙空間に浮かぶ土星をしばらく見ていると、その愉快な姿に思わず笑ってしまいます。
土星を望遠鏡で見るためには、土星を見つけなければなりません。0等ぐらいの明るさで十分に明るいのですが、木星にくらべるとずいぶんと暗く、はじめての人は見つけずらいかもしれません。ここでは惑星と恒星の見分け方を紹介しておきましょう。
まず、惑星の軌道面は黄道面(地球の軌道面)とだいたい一致しているので、惑星は黄道上に見えます。そして、惑星は恒星のように瞬かないのです。星の瞬きは大気のゆらぎが原因なので、大気の状態が安定していれば恒星も瞬かないし、大気がひどく不安定な場合は惑星も瞬くのですが、普通は惑星は瞬きません。その理由は、惑星は肉眼では点に見えますが、実は視直径が恒星にくらべてずっと大きく、大気の影響を受けにくいからです。
以上をまとめると、黄道上にあり、それなりに明るく(0等くらい)、瞬かない星が土星ということになります。黄道とはみかけの太陽の通り道です。
土星が見つかったら、望遠鏡で見てみましょう。美しいリングを見ることができます。シーイングがよければ、高倍率で見てください。カッシーニの間隙と呼ばれるリングにあるすき間を見ることができます。これも口径8cm程度で確認できますが、シーイングがよいときのみ存在がわかります。土星の近くには、土星最大の衛星タイタンが見えます。
月や惑星は天体望遠鏡の経験が浅い人でも、十分に楽しめる天体です。しかし、これらの天体を何度も見ているうちに、さらに細かい部分が見えてきて、月や惑星の観測の奥の深さがわかるでしょう。好条件のときは、同じ天体でも細部までとてもはっきりと見えて、同じ望遠鏡で見ているのが信じられないくらいです。
惑星では見やすい金星、火星、木星、土星を取りあげましたが、水星、天王星、海王星も小望遠鏡で見ることができます。ただし、これらは見つけにくいので、天体観測の解説書や天文雑誌などを参考にしてみてください。冥王星は約14等級と非常に暗く、存在を確認するだけでも口径30cmクラスの望遠鏡が必要です。
惑星は時期によって見えたり、見えなかったりと見え方が変わります。惑星の暦については天文年鑑や天文雑誌などを参考にするとよいでしょう。