インフルエンザについて
インフルエンザウィルスにはA、B、Cの三つの型があります。人ではAとBが流行します。
ウィルスの表面には2種類のとげがあり、HA(ヘマグルチニン)NA(ノイラミニダーゼ)という名前の糖タンパクです。
A型ではその組み合わせによってH1N2というように呼ばれます。
Hは1から16(18)まで、Nは1から9(11)まであります。よって16x9=144(198)種類の組み合わせがあることになります。いままでに人で流行したA型としてはH1N1、H2N2、H3N2の3種類です。
1997年から何度か香港を始め各国でH5N1が鳥から人に感染し心配されました。また2013年には中国でH7N9が鳥から人に感染しています。人から人への感染は今のところほとんどないようですが、近いうちに世界中に広まることも予想され、各国で対策が取られてきています。
B型ではHA、NAとも1種類の抗原型しかありません。
HAは人の気道粘膜上皮細胞のレセプターに結合し、細胞内にウィルスRNAを入り込ませる働きがあります。
NAは細胞内で複製、増殖したウィルス粒子が細胞から遊離するときにレセプターを分解、切断する働きがあります。
A型はブタ、ウマ、トリにも感染するため不連続変異(大きな変化で世界的流行となる)と連続変異(小さな変化)の両方がありますが、B型は人のみに感染し、連続変異しかありません。
症状
インフルエンザウィルスを吸い込んでから平均2日ほどしてから症状が出ます。
人によって症状は違いますが、いわゆる"風邪"よりも急激な発症で重症感があります。
のどの痛み、頭痛、さむけを伴って39度から40度台の高熱が急激にやってきます。筋肉痛、関節痛で体のいろいろなところが痛んだり、強い倦怠感を伴います。みんなではありませんが下痢、腹痛もおこりうる症状です。しだいに咳、鼻水も強くなり、後半は中耳炎、肺炎の合併も多くなります。乳幼児での脳症、高齢者での肺炎は命を落とすことのある合併症です。発熱期間は成人で3日間、小児で5日間くらいがよくみられます。
また感染力が強く家族全員とかクラスの大半とか短期間にまわりに広がります。
診断
少し前までは以上のような症状の特徴からたぶんそうだろうという程度の診断でした。血液の抗体検査はあとでそうだったということはわかっても治療に役には立ちませんでした。
でも現在ではのどや鼻からとった液をその場で調べてインフルエンザかどうか、さらにはA型かB型かが15分程度で大体わかります。これは治療に直結する大きな進歩です。
治療
現在次の5つの薬があります。
1.ザナビル(商品名リレンザ 吸入粉末)
2.オセルタミビル(商品名タミフル カプセル、ドライシロップ)
3.ラニナミビル (商品名イナビル 吸入粉末、初日1回のみ)
4.ペラミビル (商品名ラピアクタ 点滴静注、初日1回のみ)
4つすべての薬剤はノイラミニダーゼを阻害する薬剤で、A,B型ともに有効です。
どの薬も2日以内に開始するとウィルスの増殖が弱くなり、症状が弱まったり、短期間で済みます。
予防
インフルエンザHAワクチン
現在使われているHAに対する抗体を作らせるワクチンです。HAはさきに述べたように変異をくり返すため、流行するウィルスの予測が大事です。今はかなり科学的に正確な予測がされ、またA型2種類とB型1種類が含まれるため全くはずれるということはありません。
新ワクチン
鼻に噴霧する経鼻ワクチンが開発されていますが国内承認はありません。
注意点その他
抗ウィルス薬が使えなかったり、時期が遅れて効かない場合は高熱などの症状で苦しむことになります。またボルタレンという強力な解熱剤はインフルエンザ脳症に禁止となったこともあり、小児では事実上使用できません。必要な場合はアセトアミノフェンという解熱効果の弱い薬を使用することとなります。熱は下げない方が生体防御の面では良いという意見が強くなってきていますが、高熱でうなされ、ぐったりした子供をただ見ているのはつらいものです。また水分、栄養もとれずに、脱水になったり、重症化する一因にもなりうるでしょう。このようなときは点滴や入院が以前より増えることが予想されます。
ですからインフルエンザかもしれないときには早めに医療機関を受診し、適切な早期診断、治療をしてください。
インフルエンザの高熱に伴う熱性けいれんはめずらしい症状ではありません。ふつうは心配のないことが多いです。しかし乳幼児では非常にまれですが、インフルエンザ脳症の初期症状の可能性がありますので、必ず受診してください。けいれんの終わったあとの状態によってはすぐ入院をすすめることがあります。
インフルエンザウィルスそのものには効きませんが抗生剤を使用することがあります。これは特に後半に細菌感染(肺炎、中耳炎、扁桃炎など)を合併しやすいためです。