発行 当麻町

                                       監修・文 笠井 稔雄

むかし むかし、このあたりは うっそうたる原始林が おいしげり、

 

いたるところに 大きな沼や湿地が ありました。

 

はてしなくひろがる 北国の青い空。

 

みどりの まぶしい光線が 全身をつつみ、すんだ空気 からだの中まで

 

しみこんできます。 四季のうつりかわりは 万華鏡のように 変化します。

 

アイヌの人々は 山や川で 狩りをし、屯田兵の家族は 木をきりたおして

 

田や畑をつくり、アイヌも屯田兵も みんななかよく 暮らしていました。

 

そのころ 大雪山には さまざまな神様が すんでいましたが その中には

 

おそろしい魔神もいて、村人を こまらせるのでした。

 

魔神は 三年ごとに 秋の刈り入れどきになると、とつぜん 空から くろ雲を

 

わきおこして あらわれます。

 

空は まっくらになり、稲妻が 光って ものすごい嵐と なるのです。

 

この 三年に一度はおとずれる 災難のたびに、村人は 丘の上にひなんして

 

がたがた ふるえているよりほかに どうしようもありません。

 

洪水が おさまってから、丘をおりて、土砂にうまった 田んぼを ほりおこし、

 

家を たてなおします。

 

こんなことの くりかえしですから、村人が 安心して 暮らすことなど、

 

とてもできませんでした。

 

さて、村はずれの 小さな家に、音松と 妹のあやが、年老いたばあさまと

 

しあわせに くらしていました。

 

音松は、これは人のためになる と思ったことは 人がなんといおうと 

 

夜の夜中でも かけだす 勇気ある男の子。

 

あやは、人のつらさがよくわかり、涙をいっぱいためて 

 

しんぼうする やさしい女の子。

 

でも、ふたりは、三年前の洪水のとき、村の田んぼを まもろうとして死んだ

 

とうちゃんと かあちゃんのことを 思い出すと、今でも 小さな胸が

 

はりさけそうに いたむのです。

 

その年の秋も、まあず ひどい大雨つづきの 毎日でした。

 

石狩川は はんらんし、せっかく作った田んぼは 海のように 波だっています。

 

「米が とれなければ、来年は なにを食ったら いいのだ。」

 

柏が丘に ひなんした 村人たちは、滝つぼに 立ったように ずぶぬれになって

 

くろ雲の低くたれた 空をあおいで、ため息を ついていました。

 

音松は 思わず じだんだをふみ、はらのそこから さけびました。

 

「ああ、おら つよくなりてぇ。大雪山よりも でっかくなって 大きな山を

 

あちこちに なげとばし 石狩川の流れをかえて 洪水のない

 

ひろい土地をつくりてぇ。安心してくらせる村にしてぇなぁ!」

 

村人たちも

 

「まぁず、あばれんぼうの石狩川を むこうにおしやって、

 

おとなしい川が こちらに ほしいなぁ。夢みたいなことだがよぅ。」

 

といって、ふぅっと ため息を つきました。

 

音松は 村人の顔を じぃっと あなのあくほど 見つめました。そして、あやの

 

手をひき 当麻山の頂上めざして いっさんに かけだしました。

 

頂上につくと、音松は 力のかぎり さけびました。

 

「とうちゃーん!おら、つよくなりてぇー。でっかくなりてぇー。」

 

あやは、涙いっぱいためて しずかに 祈りました。

 

「かぁちゃん。村を救って・・・。どうぞ・・・。おねがい・・・。」

 

二人は、いつかアイヌのおじさんから 聞いた話を 思い出していました。

 

―えぞ地にすむ人々を 守ってくれる 龍の神様カンナカムイが、

 

どこかの地の底に ひそんでいるはずだ!―

 

すると どうでしょう。

 

とつぜん 東の 二又山のあたりから、二頭の龍が たかだかと 空へ まいあがり

 

ゆっくり ゆっくり ちかづいてきた。

 

おそろしい形相をした二頭の龍は 二人になにか話しかけているようだった。

 

そして、音松が 大きな龍の背に、あやが 少し小さな龍の背に

 

ひょいっと とびのると、

 

二頭の龍は ひゅるるっと うなりをたてて、

 

大空に おどりあがった。

 

空いちめんが にわかに かきくもり

 

ごごーん ごごーん

 

と 大きな音が 、天と地を ゆるがしはじめた。

 

二頭の龍は、満身の力をこめて 大雪山に ぶつかっていった。

 

山は ぐらぐらゆれ、岩や土が とびちった。

 

しかし、なかなか くずれない。

 

龍のからだからは 血がながれ、はく息は 炎となって 山はだを 焼きつくした。

 

二頭の龍が 最後の力を ふりしぼり、どっと からだを うちつけたとき

 

はげしい 山鳴りとともに 大雪山はくずれ、ぱっくりと くちをあけた。

 

二頭の龍は、その山を すぽん すぽん と引きぬくと、村のあちこちへ

 

なげとばした。

 

ざばーっ  どどーん

 

と 石狩川を まッ二つに割ると、その水は くろ雲まで とびあがり、

 

ふってきた 川の水は ざばざば ざばざば

 

って 遠くのほうへ にげていった。

 

雨が やみました。

 

はじめて くろ雲がきれ、 太陽の光のすじが 地上を さぁっと 

 

てらしはじめました。

 

あたらしく 生まれた 当麻川と牛朱別川(うしゅべつがわ)が きらきら光って

 

どこまでもつづき、かがみのように しずかです。

 

そのまわりには、よくこえた 豊かな土地が しだいに あらわれてきました。

 

このとき 柏が丘の村人たちは、さっていく 二頭の龍の背に すわっている

 

音松とあやの しあわせそうな顔を はっきり 見たそうな。

 

「きっと あの龍は、死んだ とうちゃんと かぁちゃんの 生まれかわりだべ。」

 

「音松とあやは、わしらを 救ってくれたのじゃ。」

 

村人たちは、口ぐちに そうさけびながら、両手をあわせ、

 

いつまでも、いつまでも おがんでいたそうな。

 

その後も、村びとたちは 東の空に 二頭の龍を ときどき見たそうな。

 

「きっと あの龍は、いつもどこかで この村を 守っていてくれている。」

 

村びとたちは、そう信じて 一生懸命 はたらきました。

 

だから、村は どんどん 豊かになりました。

 

 

そして、音松の勇気と あやのやさしさは、この村の 人びとの

 

こころのなかに 今もなお 生きつづけているそうな。

 

しばらくして 二又山の すぐそばに、神秘的な洞窟が 発見されました。

 

まるで 龍が 二頭横たわっているような鍾乳洞で、人びとに

 

「えぞ蟠龍洞」とよばれるようになりました。

 

そして、今では 毎年 たくさんの人びとが ここを訪れています。

 

当麻町の許可をいただいております。ありがとうございます