〈土地問題〉
                                                  
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           福島の土地をめぐる気になる話                          
                                 
生活ジャーナル’851

 福島盆地を舞台の宅造ドラマ

 土地神話が崩壊して3年、投げ売り現象こそ出ないが、客足は止まった。
 ローン金利8%、インフレ率7%、地価上昇率12%、賃金上昇率7%と、実効金利がマイナスで地価上昇による「利益」をあてにできた神話の時代がすぎ、一挙に乱世に突入。福島盆地もその例にもれない。
 
 しかしそこにいま、大手デベロッパー、住宅供給公社、住宅生協、地元中堅業者、小零細業者、加えて得体の知れないグループがうごめいている。かの小針暦二氏もこの10年来、福島が主な舞台。役者はそろっている。
 
 ドラマに筋書はない。知力、金力、胆力、時に腕力で筋書は作られる。福島盆地の北斜面を宅地造成した「しのぶ台団地」がこの九月に分譲を開始した。千百余区画というから福島市の世帯増加数のちょうど1年分になる。中央大手業者の大和土地建物、共栄土地建物、地元中堅の若松ガス不動産の共同企画に三井建設がカタ入れし、造成工事の一手引受となったとか。

 

 笛吹けど踊らずの買い控え現象

 だがその結果はどうであったか。例年このあたりで「カッコウ」が鳴くのは五月中旬だが、なぜか今年は「しのぶ台団地」周辺では九月ごろから「閑古鳥」がしきりに鳴いている。
 
 坪当り12万円台、福島駅までバスで20分、大手業者の造成。条件はそろっているはずなのになぜか売れない。地元業者はホッとするやらニンマリするやら、反応は複雑だ。
 
 そういえば4年前に小針暦二氏が社長をつとめる福島交通不動産が開発造成した「桜台団地」は造成完了と同時に東急不動産に坪当たり7万円で一括売却(こんな売り方を日本酒のオケ売りにならって面売りというらしい)。面買いした東急不動産の売値は坪当たり13万円台、毎週欠かさずチラシ攻勢をかけたが、総区画数500区画のうち売れたのは半分程度。これが4年間の戦果である。
 
 分譲価格が坪13万円の土地を坪7万円でまとめ買いするのだから中央大手業者はずい分とアコギな取引をするものだとそのころは言われたものだが、今になってみると小針暦二氏の方が一枚上だったとの評。
 
 土地はおかしなもので値段を下げると売れなくなるらしい。たしかに団地の造成分譲の場合、途中から値下げをすると先に買っていた客は、だまされた、損をしたという気になるらしい。値下げをするような土地はこれからもっと下がるのかと不信、不安をもつ。新しい客はもう少し待ってみようということになるのもむりはない。不動産業界では値下げはタブーである。
 
 途中から値下げをするよりは、当初は低めの価格を設定し、家並みがそろうにつれて値を上げる方策が良いとされている。が、これは建前論。これからは建前もタブーもかなぐり捨て、売りぬけを図る業者が出ないという保証はない。現に中小業者のなかには一括して引取ってくれるなら3割は値引きするという話もチラホラ。東急不動産が売っている「桜台団地」も今年は坪当たり11万円。1億総不動産屋論、列島改造論とニギヤカな話題の多かったこの業界も冬の時代をむかえて体質の改善と頭の切りかえが急がれている。
 
これからの時代を氷河期とみるか、戦国時代とみるか、「選択の時代」などとシャレたみかたをするかによって、その対応には違いがあるが、厳しい時代であることは間違いない。

 暗躍するグループの思惑は?

 この厳しい時代にあって新たに1200区画という大規模団地「絵馬平」の開発造成工事に着手した企業グループがある。郡山市に本部をおく福島県勤労者住宅生活協同組合、略して「勤住協」とといわれている組織と、中央大手の間組だ。「勤住協」とそれをとりまく得体の知れないグループが、10年も前から福島市の東方4キロに所在する「絵馬平」といわれる約50ヘクタールの丘陵地の宅地開発計画を持ち回っていた。
 
 地図をひろげてみるかぎりでは、市の中心部にも近いし、南に傾斜した丘陵地でもあり、宅地開発の好条件を備えているようにみえる。造成費用を度外視すればである。
 
 開発構想をきれいな絵図面に仕上げて、地権者宅を回り、かたや、この開発計画に一口乗せるからと、スポンサーから億単位の金の引き出しにかかる。事業費が百億程度の開発計画だと、絵図面を持ち回るだけで4〜5人のグループが10年は食えるらしい。

 

 ”政治力”頼みの”ウルトラC”?

 「絵図面」も色あせて、開発構想を世間が忘れかけていた今年の始めごろから、にわかに大手デベロッパーから「絵馬平」の開発計画に関する照会・問い合わせが多くなった。長引く建設不況のなかで、大手業者といえども、手をこまねいて待っていたのでは仕事はとれない時代であり、構想・計画の段階から積極的に参加する姿勢を強めていることのあらわれであろう。開発計画の技術的な検討は大手業者にとってはお手のものであろうが、販売予測は苦手らしい。素地(山林・農地)を買い、造成費用をかけ、金利を払って、販売費を計上すると、坪12万円台になるという。この値段で売れるかどうか、宅売するには何年かかるかという、まさに命がけの飛躍についての相談である。
 
 福島市近辺の宅地需給の現状と見とおしからいって、「絵馬平団地」はよく売れて年に100区画程度、つまり、完売するには10年から15年との答が出る。私の事務所に相談にきたデベロッパーは全員この開発計画からおりた。住宅団地の開発造成の場合、工事完成後2年程度で完売しなければ採算は合わないといわれているので、今の時期に開発計画からおりるのは正解である。
 
 おりるタイミングを失い、ドップリつかってしまったかにみえる間組とて赤子ではない。団地のまんなかに国道のバイパスを通し、交通条件を飛躍的によくしようという秘策だ。バイパスの早期実現を地元有力代議士の力も借りて強力にすすめている。これが団地完成時のウルトラCとなりうるか。2年後に答はでる。

 理性ではとめられない供給過剰現象

 こんなある日、在京の高名な消費者問題評論家の訪問を受けた。福島周辺の土地問題について日ごろ考えていることを聞きたいとのこと。ちょうどよい機会なので福島盆地を一目で見渡せる信夫山の展望台に案内する。南方正面に住宅供給公社が10年前に造成分譲した「蓬莱団地」。第1期分譲分1400区画はほぼ完売し、その後第2期分譲地を毎年小出しに売り出している。その東側に隣接して、東急不動産の「桜台団地」。そのまた東方手前に問題の「絵馬平団地」予定地。ここはまだ手つかずの雑木林。目を西方に転ずれば季節外れのカッコウならぬ閑古鳥が鳴くという「しのぶ台団地」。耳をすますと聞こえてくるのは閑古鳥の鳴き声ではなく、開発業者のウメキか悲鳴。北方を見渡せば地元生協連などが五年前に造成分譲した「平野団地」。ここは家並みもそろっており、完売に近い。
 
 大規模団地をざっと見渡しただけでこれだけある。20〜50区画程度の小規模団地にいたっては数えきれない。中小から大手まで含めての開発業者が造成し、買い手をまっている宅地は福島市内だけで2000区画は下らない。あきらかに供給過剰だが、さらにここ数年で3000区画程度が造成分譲される予定。過剰供給だからといって新たな宅地開発計画をすべて中止というわけにはいかない。造成分譲のウマ味は忘れられないし、立地条件と価格設定がよければ売れる可能性は残されている。
この可能性を現実性に転化すべく、総力戦が展開される。
 
 新たな開発計画をもたない開発業者は急激に力を落とすといわれている。銀行筋から金を引き出す名目が失われるし、百戦練磨の社員の士気が衰えてしまう。イバラの道でも退くわけにはいかない。
 
 かくて生産(供給)の無政府性は貫徹されるというわけだ。       
                                      
                           

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