わが国におけるバイヤーズ・エージェント(買い主代理)

事業展開の課題と展望

 

不動産鑑定士(NPO福島住宅学校理事長) 高橋 雄三
(不動産鑑定 '05.1)

 

(1)はじめに

不動産鑑定業界とその主な構成員である不動産鑑定士はいま大きな転換期を迎えている。

 公共事業の大幅削減に伴う用地買収案件の激減。十余年続く地価下落と民間土地取引の減少。規制緩和と受注単価の低下、明るい未来はなかなか見えてこない。だが、変化を求められているのは不動産鑑定士だけではない。不動産流通業界も大きな転換期を迎えている。大きく見れば、世の中全体が構造改革という大変化への対応を迫られているといえる。変化を恐れ、逃げの姿勢・守りの態勢に入った組織や人に先途はない。不動産鑑定士の変化への対応策の一つとして不動産に関連したコンサルティング分野への進出が求められて久しい。

不動産鑑定士が専門職業家としての知識と経験を生かして、世の中が求めているものに応えていく、その分野の一つとしてコンサルティング部門がある。

本稿では、コンサルティング分野の具体的な展開手法の一つとして、NPO法人「住宅学校」と、不動産取引における買い主(借り主)の立場に徹したバイヤーズ・エージェントの事業展開について述べてみたい。

なお、NPO法人「福島住宅学校」は2004年8月末に、県当局から認可を受け業務を開始した。バイヤーズ・エージェントも近々スタートさせる予定である。

読者諸兄の忌憚のないご意見、ご批判、ご指導をお待ちしたい。

 

 

(2)不動産流通業界の現状と課題

十年余りになる地価下落の時代を反映して、住宅を中心とした不動産の流通市場は、売り手市場から買い手市場に根本から変化した。

従来、不動産流通業者は、売り主・貸主との密接な関係さえ保てれば、多くの物件情報を集めることができた。物件を多く抱えてさえいれば、買い主はいくらでもいた。こんな時代はもう、とっくに過ぎ去っている。なのに、市場の変化に対応したビジネスモデルは未だ見えてこない。

買い手本舗、バイヤーズ・エージェント(買い主代理)等々を看板にしていても、実体は伴っていないケースが多い。今や、米国では不動産流通業の主流といわれているバイヤーズ・エージェントが日本ではなぜ普及しないのか。売り主本位の流通業者が大部分を占め、仕事のスタイルも売り主の代理人としての立場に慣れきった業界にあって、はたして買い主の立場に立ったバイヤーズ・エージェントは成り立つのか。頭では理解できても、バイヤーズ・エージェントという営業スタイルでビジネスが成り立つのかというとピンとこない。

こんな現状を分析しつつ、買い手市場という時代に適応したビジネスモデルといわれているバイヤーズ・エージェントとNPO法人「住宅学校」について若干の検討と展望を試みてみた。

 

 

(3)バイヤーズ・エージェントの存立基盤

従来、不動産流通業者は売り主・貸主との良好な関係を構築し、多くの物件情報を集めることができれば、経営は安定していた。売り主の希望価格と物件概要を表示した程度の折り込み広告か店頭広告で経営が成り立った。買い主が本当に知りたい情報についてはほとんど記されていないのが今にいたるも実態である。

売り主と媒介契約を結んだら、時々広告を打って客が付くのを待つ。これが売り主代理(セーラーズ・エージェント)の普通の営業手法である。客が付けば物件の説明をし現場に案内し、なるべく早く契約させる。これで売り主から3%+6万円、買い主からも3%+6万円手数料が入る。2,500万円の戸建て住宅を仲介すれば(売り主から81万円+買い主から81万円)計182万円の仲介手数料となる。いわゆる「両手」のオイシイ話である。

物件に多少の問題があっても、契約するまで黙り通して契約してしまえば何とかなるという安易な気持ち・・・。これは成約報酬制から生じることであり、不動産の右肩上がりの時代だから許されたことである。

IT(情報通信技術)革命の大きな流れは、供給者サイドから需要者サイドへのパワーシフトであるといわれている。これは、サービス業の原点に立ちもどって仕事を考え直すことを求めているのであり、この原点を忘れた中間業者・仲介業者は時間の経過とともに排除される。これをIN(インターネット)に則していえば、今までのBI時代(Before Internet)は買い手に手の内を見せない建前のみの顧客中心商法で実体は一方的な売り手主導・売り手市場であった。しかし、AI時代(After Internet)のこれからは、不動産流通市場はまちがいなく買い手市場に変わる。これは、需給関係(価格をめぐる力関係)での「買い手市場」という現実に加えて、「情報関係」(情報をめぐる力関係)でも買い手主導、買い手市場となる。この「二重の意味での買い手市場」が今後、不動産流通業に及ぼす影響の大きさは予測を超えたものになるであろう。

従来、不動産流通業、とりわけ住宅関連については、「情報の非対称性」が指摘されていた。住宅の安全性、耐久性など住宅の質について、消費者と供給者との間に情報の非対称性=大きな情報格差が存在するということである。

しかし、これからはインターネットがこの情報格差の量の面での格差を解消し、質の面での格差を、消費者・顧客の立場に立った代理人、つまりバイヤーズ・エージェントが解消することになる。つまり、これからは、住宅についても、その生産、流通、修理(リフォーム)の各段階での透明度が求められるのであり、その透明性を確保するための役割の一端を担うのが顧客の立場に徹した代理人=バイヤーズ・エージェントということになる。

わが国の不動産流通業界は、暗黒大陸、ブラックボックスといわれていた。たしかにそういわれても致しかたのない部分も一部には存在していた。

しかし、この業界において、永続的にビジネスをしていきたいのであれば、不動産流通業界を真っ当にしなければならない。そのためには、一時的にはお客様や同業者から不評を買ったとしても致しかたない。逆にいえば、その心意気をわかってもらえる方々だけお客様になっていただければ良い。真っ当なことをやればそれなりに報われる―――そうでなかったら、この業界は真っ当ではない。この業界の前途は真っ暗だ。しかし、真っ暗だからこそ、ミッション(使命)を持つ真っ当な起業家にとって絶好のチャンスだといえる。

これからのビジネスは「御用達業」でなければ生き残れないと言われている。これを不動産流通業に当てはめれば、顧客に最も近いポジションで仕事をすること。つまり、不動産に関するあらゆるニーズを、顧客の代理人として充足する。「顧客の御用達業」がバイヤーズ・エージェントということになる。

 

 

(4)バイヤーズ・エージェントの事業特色とNPO「住宅学校」

 

競争がはげしく、変化もはげしい業界にあって、最も強いものや、最も賢いものが生き残るのではない。ましてや、最も大きいものや、最も資金力のあるもの、最も業歴が長く、ノウハウを持っているものが生き残るのでもない。

生き残るのはただ一つ、最も変化に適応したものである。では、「最も変化に適応する」にはどうすればよいのか。

一つには、変化の方向とその先を予測し、仮説を立て、考えぬくことである。

二つには、ビジネスの原点に立ち返り、自社のミッションは何であったのかを再度確かめることである。

住宅流通業の原点は、「快適な環境に住みたい」という顧客の声・要望・ニーズにいかに応えていくかにあったはずだ。ただ、カネを儲けるだけの会社ではない。お客様に本当に喜んでもらえる会社と仕事。お客様の役に立ち、しかも地域や社会にも貢献していると胸を張って言える仕事をすることにあったはずだ。しかも、この場合のお客様は、従来のように売り主や貸主でなく、汗水たらして稼いだおカネを払ってくれるお客様、つまり買い主、借り主が本当の意味でのお客様ではないか。ここで本当の意味でのお客様が住宅取得について悩み、行動し、考え、相談し、体験するストーリーを実例を基にしたモデルケースとしてご紹介する。

仮に、彼の名を石橋渡としよう。

彼は、その名のとおり物事を慎重に考え、行動するタイプである。年令は40歳、家族は妻と子供2人の4人、年収は600万円余である。地元資本の流通業に勤めて18年。3LDKの公営住宅に住んでいる。家賃は現在5万8,000円だが、年収にスライドするため来年は7万円を超えることは間違いない。住宅は市の中心部から3キロほどの郊外住宅地に建つ10階建ての公営住宅の9階であり環境も良いし、広さも24坪あり満足している。

しかし、心配なことが一つある。この団地にずっと長く住んでいるのが良いのか否かということだ。80戸ほどの団地だが、年に7〜8人は転出していく。家賃が年収にスライドするため、子供が成人になり、奥さんも働いている家庭では年収が800万程度となると家賃が9万円を超えてしまう。家賃が8万円を超え、10万円近くになると、少し無理をして家を建てるか、安い民間アパートを探して転出してしまう。そのようなケースが年に10件近くある。

彼の場合も長女が来春は高校生だし、妻も教育費のためパート勤めを始めた。会社の業績も良いので妻と合わせれば来年は年収800万に届くかもしれない。そうすると家賃は9万円を少し超える。幸い、健康にも恵まれ、妻と合わせれば年収も地方都市としては恵まれたほうだ。そろそろマイホームを手に入れることを考えてもよい年になっている。戸建て住宅やマンションのチラシもよく見るようになった。しかし、気になることが一つだけある。8年前に5歳年上の兄が郊外に3,500万円で戸建て住宅を買い、今、毎月16万円強の返済で苦労しているのを見ているからだ。

年収700万で子供2人の兄夫婦が支払っている年間192万(年収の約27%)のローンは楽ではなさそうだ。その上、ローン残高は3,200万円残っているのに、その自宅は今売るとなると1,200万円程度だという。万が一、兄が病気になったり、勤めている会社が傾いたりすれば、大ピンチになることは目に見えている。全国に200万人いるといわれている自己破産予備軍の一員であることは間違いない。

そんなある日、「NPO福島住宅学校」の設立を伝える新聞記事が目にとまった。これから住宅を買うことを考えている人々のため、買う人の立場に立って、住宅のことを考え、学べる非営利法人(NPO)が、住宅に関連する各分野の専門家が中心になって設立されたという内容だ。

次の日の夕方、早速NPO福島住宅学校の事務所を訪ねた。前の日に約束の電話を入れておいたので、彼の相談内容にピッタリの担当者が待っていてくれた。一抹の不安を持ちながら訪ねた彼に、年配の担当者はNPO設立の意義と目的について熱っぽく語り始めた。

「普通の人にとって一生一度の大きい買物である住宅を手に入れることは大変楽しく、夢見るような体験です」

「土地を見に行ったり、モデルハウスを訪ねたり、間取りを家族みんなで考えたり、老後の過ごし方を考えたり、家賃の支払いとローンの支払いを比較計算したり、楽しいことばかりです」

「しかし、過去10年で夢のマイホームを手に入れた人が約500万人いますが、そのうち約200万人が自己破産予備軍といわれています」

「実際に自己破産した人は平成15年で24万人余りとなっています。もちろん、自己破産を申し立てる原因のすべてが住宅ローンにあるわけではありませんが、半分程度は住宅ローンの借り過ぎが破算原因の一つになっていることは間違いありません」

石橋渡氏は、頭をガツンとやられた気がした。兄の家族が住宅ローンを毎月16万円余も返済して苦労しているのを見聞きしているだけに、全く他人事でないと思った。彼が話を頷きながら真剣に聞き理解したのを確かめて、担当者は穏やかに話を続けた。

「自分は不動産鑑定士として30年近く仕事をしてきたが、バブルの頃にはずい分とまちがいもおかしました。特に、リゾート開発やゴルフ場開発でお手伝いした案件は全滅です。企画した会社も個人もすべて破綻しました」

「最近は、住宅ローンを組んでマイホームを買い苦労している人を数多く見ています」

「幸い、身近な人は自己破産までは至っていませんが、裁判所の競売事件の評価を通して数多くの住宅ローン破産者の実情を見てきました」

「自分としても、元気で仕事ができるのはあと10年程度と考えているので、余生の一部をNPO住宅学校を通して世の中のために役に立つことに使いたいと考えて、住宅NPOの設立に参加したのです」

「手さぐりで始めたNPOですが、必ず皆様方のお役に立ち、世の中のお役に立てるものと信じています」

「あなたは相談者の第1号ですから、何でも聞いて下さい。一緒に勉強していきましょう」

話を聞いていて石橋渡は、ああいい人にめぐり会えたなと感じた。マイホームを買うことで悩んでいる人は自分だけではなく、実際に苦労している人が多いことも分かった。世の中は、何か問題をかかえ困っている人がいれば、それを解決するために役に立つサービスが必ず現れるものだということをつくづく思った。自分は駅前の老舗デパートの紳士服売り場の主任として仕事をしているが、顧客の望んでいるもの、フトコロ具合に応じて、お客様に満足していただくということをモットーに仕事をしてきた。お客様とは一生を通しておつき合いいただくことを心がけてきた。

しかし、考えてみれば、不動産業界に本当にお客様のことを考え、お客様と一生おつき合いする姿勢の会社や人ははたして何人いるだろうかとフト思った。売り主や貸主は大切なお客様として扱っているようだが、買い主や借り主は一度のお客であり、契約さえ終われば縁の切れる人と考えているように思えてならない。

 

 

ここで、パンフレットを渡された。そこには概要以下のことが記されていた。

 

 

 

 

NPO福島住宅学校がお客様にサービスを提供させていただくにあたってのポリシー・ミッションは以下のとおりです。

 

『中立的な立場からお客様(買い主、借り主)本位のアドバイスを行う』

 

『買い手の気持ちを理解し、リスクを軽減し、不安を除き、安心を買うという立場を貫く』

『住宅地の下落はこれからも続きます。地価下落時代の住宅取得について本物の情報を提供し、これ以上住宅ローン地獄に落ちる人を作らないということも使命の一つです』

 

『不動産のプロと言われる人たちは、個々の不動産物件の動きだけに目を奪われて全体の流れを見ることに弱いのが実情です。当NPOはこれを補うことができます。』

 

 

石橋渡氏はこの説明を聞きパンフレットを読んで、NPO住宅学校へ参加する決心をした。

以上は2004年夏、福島盆地に生まれたNPO福島住宅学校の第1号の相談者を基にしたものです。

 

(5)NPO福島住宅学校が目ざすもの

ハイタッチ・サービスを可能にする

インターネット利用で顧客一人ひとりに対して懇切丁寧な専門的アドバイスをすることや、気配りあふれるサービスが提供できる。

そして、顧客から物件に関する問い合わせメールが届くと、専門知識を持つ担当者が48時間以内に懇切丁寧なアドバイスをメールで提供する。顧客は、自分だけのためにサービスをしてもらっている感じの、満足度の高いサービスが低コストで受けることが可能になる。

 

顧客の声を反映するシステム作り

住生活の原点である快適な環境に住みたい、というお客様の声に応えるビジネスモデル作りを目ざす。そのためには、顧客のアイディア・ヒントを直接聞き、顧客の知恵を借りながら商品やビジネスモデルを開発していく。そして、買う側、借りる側の事情、とらえ方、ニーズ、相互の関係や影響の与え方を調べつくし、研究しつくし、考えぬく。さらには、インターネットやデータベースを活用し、バイヤー(買い主)、レンター(借り主)の満足度を上げるノウハウを考えぬき、ビジネスモデルを作り上げる。

 

既存のビジネスモデルなどとの違い  

宅建業の本質は顧客に認知してもらい、来店してもらい、トラブルがないように十分に調査し、契約をすることである。

 

(1)顧客に認知してもらうためにはインターネットを活用して選びぬかれた物件情報のみを提供する。しかも、マイナス情報も含めた情報の完全提供を行う。そのことにより、住宅に関する中立的立場の専門家・識者の「高い評価」と一般の顧客の「良い評判」を獲得する。

(2)来店してもらった顧客に対しては、顧客の立場に徹する姿勢を貫き対応する。

 

(3)トラブルがないよう十分に調査する。調査するのは物件だけでなく、買う側の事情についてもお互いに協力して調査し、いかなる経済変動にも対応できるか否かを検討する。価格変動リスク、支払い能力変動リスク等が大きすぎる場合は、購入を中止し、当面は借家で対応することを勧める。

 

(4)購入契約を進めるのは双方が十分に調査検討し、納得がいった場合のみとし、決して契約を急がせるような対応はしない。

 

NPO住宅学校の競争力・成功のカギは何か

競争の時代の勝ち組の条件は、価格競争にまきこまれないことである。価格競争ではなく、価値の競争を相手に仕掛けることが生き残りの方向である。

宅建業界における価値競争は、いかにすれば顧客満足度を高め、1人の顧客が次の3人の顧客を連れてきてくれるかである。そのためには、ノウハウ力、アドバイス力、コンサルティング力を高めることである。

普通の日本人は住宅を買うのは一生に一度である。住宅について夢は大きく多く持っているが、顧客が自分自身のニーズを知らないというのが実態である。顧客の「潜在的ニーズ」「本当のニーズ」を引き出し、それにどう応えるのかのアドバイスや、コンサルティングまでできるようになれば申し分ない。

インターネット時代、消費者は多数の宅建業者からの情報を受信し、その中の数社に情報を発信する。その数社からの情報返信を待って、自分の気に入った会社・信用できる会社を選択するといわれている。NPO住宅学校はその窓口となる可能性が非常に高い。

 選択の際には情報の透明度が決定的な力となる。つまり、透明度の高い情報提供はそれだけで大きな付加価値である。

不動産価格の下落が続くこれからは、価格は「売り主の希望価格」だけで決まることはなくなり、多くが「買い主の希望価格」で決まるように変化する。ここにNPO住宅学校の出番がある。

 

 

(6)当面の目標と将来展望

宅建業者を訪ねる買い希望者の大半(アメリカの例では70%)はその店が売り主の代理人であることを知らない

わが国では、ほとんど知られていないバイヤーズ・エージェントという言葉の認知と内容の理解・普及に力を注ぐこと。そのためにはNPO住宅学校との連携によりバイヤーズ・エージェントの認知度を高める。

 

 

宅建業におけるインターネット利用の限界と対応策

ブロードバンド(高速・大容量)時代になっても、地域限定でかつ高額で一生一度の買物である住宅購入については、インターネット利用だけでは限界がある。当面は、客層をインターネットに相性の良い20代、30代の主婦・女性・学生にしぼり、そこをメインターゲットにする。

宅建業は地域限定のローカル産業であるという本質をよくとらえて、地域の物件情報・関連情報について、ゲートウェイ(主要入り口)となる手法を考えぬき、地域の主流としてネットワークを形成する。

 

住宅購入についてのゲートウェイとなり、そのゲートウェイ間の競争で勝つための手法

顧客の求める情報ならば、どんな情報でも届けることができる体制づくりと顧客の囲い込み、顧客情報の貯め込みのシステムを確立する。

 

同業者とのネットワーク、異業種のネットワーク作り

バイヤーズ・エージェント展開の事業ノウハウを得るために、地域内の未来志向の同業者や他地域の同業者とのネットワークを作り、ビジネスモデルを確立していく。さらに、宅建業の周辺業種・関連業者とのネットワーク(NPO住宅学校の構成員と大部分で重なる)により、相互利益(Win−Win)の計れるグループ作りに全力を注ぐ。                

ノウハウやビジネスモデル作りの理念は、ウィンドウズ型(囲い込み、独占、秘密主義)ではなく、リナックス型(公開、全員参加、開放)で行う。

ニーズの変化を先行的に把握し、宅建業界の夜明けを切り拓く意気ごみで、先進的企業のグループ・ネットワークであるという評価を地域で得るよう全力を注ぐ。

 

バイヤーズ・エージェントの将来展望

今までの延長線上には、住宅流通業の21世紀、明日はないことを再度認識して、こと住宅に関しては、顧客の生涯価値(LTV=Life Time Value)を高めるために、一生お付き合いをする顧客代理人としての使命を果たす。そのためには、インターネットとGIS(位置情報システム)の活用により、顧客のあらゆるニーズに応えるべく、オール・イン・ワン(一店ですべて解決する)またはワン・ストップ(一度に全部解決する)のシステムの構築を目ざす。

 ユーザーフレンドリーのビジネスモデル、つまり顧客との強い信頼関係をつくる。そのためにはNPO住宅学校と車の両輪としての関係を確立する。

 

フルターンキーとしての機能を果たす

 住宅流通産業の中で生き残る情報ネットワークと生き残るデータベースと結びつき、地域でしっかりしたネットワークを組むことにより、フルターンキー(設計・製作からアフターサービスまですべてを請け負う方式。キーを回せば、すぐに使える状態にするまでの責任を負う)を顧客に提供できる企業となる。

 

宅建業をフェアートレード・ビジネスの世界に

 イギリスで始まった参加型資本主義といわれるビジネスモデルで、その概要は、適正な仕入値で買い、仕入先と問題を共有し、消費者には品質について納得してもらって買ってもらうビジネスモデル。

 NPOやバイヤーズ・エージェントと相性が良いとされるビジネスモデルであり、わが国の不動産流通業のイメージを根本から変える手がかりとなる。

 

 

(7)バイヤーズ・エージェント立ち上げの問題点と今後の研究課題

立ち上げの基本戦略

NPO住宅学校をまず地域で発足させる、そして相談業務を続けながらノウハウを蓄積し、情報発信を続け、メンバーを募り、全国の先進的部分と交流を深める。お客様はどんなサービスに対して喜んでお金を払ってくれるのかを、全国の経験から学び、ノウハウを蓄積する。

 

立ち上げのノウハウを考えぬき、蓄積する

インターネットを活用した使い勝手の良いデータベースをいかにして開発するかが決め手となる。そのためには、リナックス方式のデータベースの可能性の追求、既存データベースの問題点・弱点の徹底研究を。そもそも宅建業が地域限定・ローカル産業であることを反映したデータベースシステムはまだない。

地域限定・地域特化型のノウハウ・ビジネスモデルを確立し、全国との交流をはかる。

 

主婦層にインターネットがどこまで普及するか

宅建業界に独自の全国ネットが本当に必要か否かを再検討する。

そのためには、既存の全国ネット展開を試みた業者の失敗から学ぶ必要がある。物件仲介の全国ネット展開という考え方、ビジネスモデルは間違っているのではないか。物件はローカルであり、買い主、借り主もローカルである。密度の濃いローカルネットの全国的結びつきが正解ではないか。

全国ネットをまず作るのではなく、地域限定の質的にも量的にも充実したネットワークを作ることが基本ではないか。

地域限定のデータベース・ネットワークが全国的なネットを組むことで「宅建業全国ネット」が勝ち組となるのではないか。

一般消費者にとって使い勝手の良いネットワーク・データベースがない現状から出発して、当面いかに対処するかがポイントである。

 

 

   

住宅ネットワーク・データベースが具備すべき要件

・ 網羅性・一覧性  ・・・ 地域内の物件情報の90%以上を網羅し、一覧性のあるデータベースとする。

・ 即時性・双方向性 ・・・ 問い合わせに対する迅速なレスポンス、対応により客の心証良くし、信頼性を高める。

・ 比較可能性 ・・・ 地域間の比較、地域内の物件比較可能性を容易にし、データベースの信頼性を高める。

・ 信頼性、透明性の確保 ・・・ 信頼性を高め、透明性を確保することで不動産流通業におけるネットコミュニティが成立する。

・ 向上性、学習性 ・・・ ネットワーク・データベースへのアクセスにより顧客の「住宅」についての理解力を高め、一生のつき合いを可能にする。

 

 

バイヤーズ・エージェント普及の今後の研究課題

バイヤーズ・エージェントは自ら新たなマーケットを開拓するような先進性が求められている。「ソフト」、「情報」、「ノウハウ」をどこが、どのような形で提供できるのかでバイヤーズ・エージェントの将来は決まる。

過去は参考にならない。市場の変化、市場の原理を洞察し、仮説を組み立て、チャレンジすることがポイントとなる。

バイヤーズ・エージェント立ち上げ成功のカギは、周辺の第三者、関連業者の利益になるシステムを作ることである。そのためには、リフォーム業者、建築関連業者、不動産関連専門職、金融機関との協力関係作りが重要となる。

バイヤーズ・エージェントが提供するのは顧客との「約束」であり、信頼の提供である。単なる売り物件や貸し物件の情報提供ではない。約束への信頼を提供する。信頼とは、別の言葉でいえば銘柄、つまりはブランドの価値である。

 

 




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