〈インフレ情報〉
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大型インフレの足音が聴こえる PartU
'99−9−9
もしかすると日本経済が底を打ったのかもしれない。財政出動・経済下支え策が有効なうちに何とかして自律回復の軌道に乗って欲しい。そんな祈りを反映するかのように株価と円が動いている。大型インフレ必然論者の一人として、この春から秋にかけての動きを振り返ってみたい。
前稿を公表以来「デフレの最中にインフレ論を唱えるとは大した眼力・聴力だ」とか「偏光レンズ付のメガネで世の中を見ているのではないか」といった声をいただいている。自分としては長期デフレの真っ只中に「大型インフレの足音が聴える」の題名は夢を感じさせていい言葉だと気に入っているので、PartUとしてそのまま使うことにしたい。
この7ヶ月の間、インフレ期待論・必然論は一層高まり、かつ広がっている。誤解を避けるために記しておくが、自分はインフレ必然論者ではあるがインフレ期待論者ではない。なぜそんなことを強調するかといえば、インフレ期待論は「敗者の論理」だと信ずるからだ。いいかえればインフレ期待の人々は「倒産予備軍だ」と言ってもいい。彼らは自分の力で長期デフレというこの現実を切り拓く努力をしないで、インフレという他力に依って行動しているからだ。「地価下げ止り」「地価の再上昇」に期待と運命をかけ、敗れ去った銀行・ゼネコン……と同様に敗者の道をたどるしかない。
インフレ必然論者は経済の現実・実態・トレンドをみつめ、その行く先を深く考えぬいた結果としての「必然論」であり、「期待論」とは決定的な違いがある。必然論者はこの不況・デフレがこれから一層深まると分析し、その先にインフレの大波が日本経済を襲うと予測するのである。
現実への対応・対策としては、この大不況をきちんと乗りきることである。この現実を乗りきった先に、インフレの大波が訪れるのである。デフレの大波を乗り切り、次なるインフレの大波を予測していた人のみが、インフレをビッグチャンスととらえることができるのである。
なお、前稿で、インフレで損をする人、インフレ弱者についてふれたが、インフレ弱者として「公務員」と「一部の金融機関」を追加しておく。公務員がインフレにいかに弱いかは旧ソ連崩壊後にロシアの公務員が6000倍のインフレの下でどんな生活をしているかを見ればよく分かる。超低金利(=高価格)で国債などの債券を買いまくっている一部の金融機関もインフレの中で債券価格は暴落し、大損をするという意味でインフレ弱者である。
○日銀のスタンス
速水日銀総裁の機嫌が最近、すこぶるいいらしい。短期市場金利を実質ゼロに引き下げる「捨て身のカケ」が長期金利の上昇抑制、株価の回復という期待以上の効果を上げているからだとされている。かつて日銀は、アメリカの言うがままに金融を緩め続け、1988年からの大バブル経済化の引き金を引いてしまったという苦い苦い思いがある。新生日銀にとって、国債問題で政治の要求を一方的にのむ事態だけはなんとしても避けたかった。それを拒否するためには、別の政策を持ち出す必要があった。それが「ゼロ金利」だった。ゼロ金利の副作用がどうなるか、走りながら考えていく、というのが本音であり、薄氷を踏む思いで踏み切った「ゼロ金利」が株価上昇を招いたことがよほど嬉しかったらしい。
だが、「ゼロ金利」に至るプロセスもその副作用も考慮せず、無邪気に喜ぶその姿をみて、日銀内外に静かな危機感が広がっていることを総裁は知らないらしい。日銀マンは優秀だとされている。通貨の番人としての責任を果たすだけの能力も識見も権限も十分に備えている、と国民から見られている。
そんな日銀マンの一人がつぶやいた。「現在の状況が『乾いた薪の表面にオイルが塗られている』ように思われしかたがない。足元のデフレを見ていると荒唐無稽の笑い話のようだが、火がつけばハイパーインフレーションだって発生しかねない。
理性はこう語りかけてくる。日常業務に追われている間は、エコノミストとしての勘と現実が一層デフレを警告する。しかし、一歩下がって現状をみると、経済学の良識がインフレを警告する。感性がデフレ傾向で、理性がインフレ傾向にある」と。
インフレという禁断の木の実を食べても、日本経済をデフレから救い出せという声が大きくなっている。この声に押されて大型の財政出動が続いている。このまま進んで国債を日銀が引き受ければ将来、経済がハイパーインフレで死ぬかもしれないが、今デフレで死ぬよりはいいだろうというわけだ。金融業界もデフレよりもインフレ時に利益が増える典型的な業界であるので、本音としては、日銀にもっと踏みこんで積極的にインフレ政策をとってもらいたいと、皆思っている。
追加的な財政出動は、財政赤字の拡大とそれに伴う長期金利上昇(=国債の値下り)を招き、対策の効果を減殺してしまうだけでなく、不良債権のさらなる増大を招く恐れ大である。これを回避するため、政府が日銀に対して一層の金融緩和を求めてくるのは必至だ。公約である「プラス成長」に黄信号がともれば、日銀の国債引き受けなどの「禁じ手」を求める声が再び強まると予想される。日銀がインフレ政策に転換するのは、不況(デフレ)がどうにもならないところまで深刻化した時である。
米国株式の急落、大規模な企業破綻、大量失業発生の中での長期金利の高止りなど、他に打つ手がない極限状況に追いこまれて国債の直接引き受け(=インフレ政策への公然とした転換)に踏みきる。それも政治主導、「調整インフレ」の美名の下に行なわれることになろう。それまでは「日銀による国債の直接引き受けには断固反対する!
しかし、目先はおカネを出し続ける……」というのが日銀のスタンスであり、それ以外の選択肢はない。
○円安(為替変動)とインフレ
為替の変動がインフレといかなる関係・関連にあるかの要点をおさらいしておく。一言でいえば、円安がインフレを生み、インフレは円安を招くということになる。円安になると海外から国内に入ってくるモノの価格が上がり、日本からも輸出しやすくなる。そうすると景気も上向いてインフレに向かっていく。一方財政出動が続き、日銀が輪転機を高速回転で回し続ければ、円の通貨価値は次第に低下していく。いずれ大幅な円安局面が到来する。つまり円安とインフレは相互加速関係(インフレスパイラル)にあるといえる。
日銀は「デフレ懸念の払拭を展望できるまで金利ゼロ政策を続ける」というのが基本スタンスである。日銀にとっては、円安による輸入インフレが国内のデフレ圧力を緩和する効果が好都合なわけだ。目の前に見える現象としては、「デフレの世界」であるが、国際商品の専門家は世界経済全体のトレンドとしては、需要急増の時代とみている。どこかで何かの価格急騰が発生すれば、瞬時に世界中に伝播する。他の商品にも飛火する。
日本の場合、資金が有り余って行き場がないところへ、輸入価格が急騰すれば、輸入インフレが国内インフレに燃え広がるのは避けられない。しかも、中・長期としては円安傾向である。輸入インフレが、我が国の大型インフレのきっかけになる可能性は無視できない。ニューヨークの金融界の一部も見切り発車的にインフレシナリオにしたがって、動き出したといわれている。流動性の大幅な増加が株高、市況の底入れ、生産拡大へと、景気拡大サイクルの緒についたというシナリオである。
日本でも、日銀のゼロ金利導入によりインフレ政策が始まったとみた一部の投資家は、株式、ゴルフ会員権、マンションなどに走った。素材関連株を物色する動きも始まっている。しかし、広く国民の間にインフレ期待が起き、人々がお金でなくモノを選好するようになるためには、金融緩和だけでは不十分である。当局によるドル買い、円売りによる大幅な円安誘導、地価下支え策の継続の結果として土地神話の復活、一層の財政出動の継続・拡大、ペイオフの延期と実効ある銀行貸し出しの増加策の追加などの大がかりな対策が必要である。これらの対策は一部採用・検討されているが、本格的・全面的な採用には至っていない。
'99年9月現在、最大の注目点は米国株の動向である。仮に、米国株が暴落ではなくても本格的な調整局面に入っただけでも、それをキッカケとして世界デフレ傾向が本格化する可能性が高い。その場合、最大の貿易黒字国たる日本に対する批判は高まり、大幅な円高となる。輸出減少、輸入増加がさらに日本の生産水準を押し下げる。本格的なデフレの深刻化である。本格的なインフレ政策がオープンな型で検討されるとしたら、そうした苦境に遭遇した時であろうか。そんな局面の切り札として「日銀の国債引き受けは、それまで温存すべし」とは天の声か。
○インターネット時代のインフレ
通信白書 '99年版によれば、我が国のインターネット人口は約1,700万人、世帯普及率は10%を超えた。インターネットで株の売買注文を出す人はすでに10万人前後とされている。数年後には、約4割の人がインターネットを使うまでになる。その時、インターネットを使う4割と、それ以外の6割では想像できないほどの情報格差、所得格差、貧富の差が生まれる可能性がある。
インターネット先進国米国では、世帯の収入と、コンピューターやインターネットへのアクセス手段の有無が、密接に関連している。収入の異なる階層間と、学ぶ能力の差と、人生における成功を掴めるか否かの機会の不平等を生んでいる。つまり、インターネット時代の特徴点の一つは、インターネットを利用する人と利用しない人との情報格差=所得格差が大きいということである。これをインフレ対応という側面から見れば、インターネットを利用して、インフレ情報・インフレトレンドをしっかり掴んだ人と、それ以外の人では格差は決定的なものになるということだ。
特徴点の第二は、インターネット時代の市場はより開かれたもの、情報はオープンなものになる。消費者・投資家は正確な情報をほぼリアルタイムで入手することが可能になる。情報のブラックボックスはありえない。価格決定権を含め、インターネットを利用する消費者・投資家がビジネスの主導権を握ることになる。インターネットを使えば米国の穀倉地帯の気象条件も居ながらにして分かる。先読みの情報(読む能力のある人には)が手に取るように分かる。情報の量・質・速さが飛躍的に変わる。インフレ情報・インフレトレンドも速く、正確なものが、投資家や一般消費者に伝わる時代となる。インターネットを活用する人と活用しない人では、決定的な差ができるといわれるもう一つの理由がここにある。
○インフレとビジネスチャンス
今は、既存の価値観・価格体系(土地本位制・右肩上がりの経済成長)が大きく崩れる時代である。見方を変えれば、すべてがゼロから始まるのであるから、誰にでもチャンスが与えられる素晴らしい時代である。
人間は本能的に儲ける機会を求めている動物であるといわれる。いい話しがあれば飛びつこうと虎視眈々としている。ならば儲かりそうな予感・ニオイはどこから出てくるのか。それは価格からだ。はや10年になろうとしているデフレの時代にあって、勘のいい人、ハナの利く人は「なにか変だぞ」と気づいて、対応策を考え行動を起こしている。それは金地金(ゴールド)を買う、株を買う、不動産を買うという具体的な行動ではなく、インフレに備え情報を集め、勉強を重ねるという行動として現れている。
インフレをビジネスチャンスとしてとらえ21世紀の勝ち組となるために、もっとも大切なものは、ただ一つ、本物の情報を手に入れることである。他人の持っていない本物の情報をいかに手に入れ、どう使うかである。
「本物の情報」は秘密の場所にあるのではない。新聞・雑誌・マスメディアの記事・報道から時代のトレンドをいかに読みとるか,その洞察力・想像力である。ビジネスチャンスを掴むために必要なことはただ一つ。将来に対する読みである。トレンドを読み切ることである。トレンドをしっかりと掴めればチャンスは向こうからやってくる。
我が国はこれから、国家破産=インフレも含めてたいへんな時代を迎える。これを苦難ととらえるか、チャンスととらえるか。その人の生きざまがためされる。なお、巷間伝えられる21世紀最初の10年のトレンドは@デフレ→インフレ A不況→国家破産 Bツケの先送り→本物の構造改革 C成長第一主義→環境食糧問題の重視である。
○インフレ対応策
インフレへの対応策・対策は個人としての対応と企業としての対応でやや異なるが、基本的な部分は同じである。国家財政が破綻し大インフレになった時、国家は国民を助けてはくれない。否、助けたくても助けられない。国民の側は、経済トレンドを読む能力を身につけて自衛する以外にない。個人にも企業にも共通の、基本となるインフレ対応策はインフレトレンドを読み抜く能力を高めることである。
不況になったから、デフレになったからといって、いまごろデフレ対策を考えるのでは手遅れで、いまはもうインフレ対策を考え、準備行動を始めなけらばならない。そのぐらいでないと、実際にインフレが始まったときに主体的に、主導権を持った対応ができなくなる。
しかし、言うまでもないことだが、10年にならんとする不況の下で、いまなすべきことは本格的な大不況・景気の二番底に備えることである。インフレ期待論・インフレ待望論=敗者の倫理に陥ってはならない。インフレもデフレも自分の力と知恵で乗り切れない人はまちがいなく負け組である。頭の中に不況下のインフレつまり、スタグフレーションのシナリオをしっかりと描きながら、目前の大不況への対応策を確実に具体化することである。
インフレの時代に、どんな企業がいちばん元気があるかといえば、それは規模ではなく、”強い”ところである。21世紀はこの強いところが切り拓くことになる。
強い企業とは@業界・業種でオンリーワンの会社になること。A資産管理の基本を身につけた企業。B情報を収集しシナリオをつくれる企業。Cリスクをネットワークで軽減できる企業。Dトレンドをしっかり掴むことのできる人材のいる企業。E国や他人を頼らないで生き残れる企業,である。
個人でのインフレ対応策・個別対策としては資産の組み替えをいかに行なうかであるが、インフレ時代の原則はキャッシュで持たず、モノで持つことである。ドル預金・ドル建てファンド・金(ゴールド)は底値を見きわめての「買い」である。金(ゴールド)はいかなる政府の権威にも無関係に貨幣の価値の基礎になるものであり、混乱の時代ほどその価値は輝くものである。
金が上がると考えれば金の鉱山株を買う。銅が上がると思えば、銅の鉱山株を買う。インフレに強いとされている素材関連株、食糧関連株を買う。株式もインフレ対策の重要な柱である。
しかし、土地・不動産は'99年9月現在でいえば、インフレ対応策としては買ってはならない。よほどの優良物件・安定した収益を生む物件であれば別だが、どんなに安くてもボロ土地やキズのある物件は買ってはならない。投資物件としてワンルームマンションを変動金利で買うことなどは経済的にみれば自殺行為である。金利が2〜3%上がるだけで収支決算がガラリと変わる。借金をして衰退企業の株を買うのと同じ行為である。
個人レベルでの最良のインフレ対策・インフレヘッジはやはり「自分への投資」である。インフレの時代に入った時、互いの生活を支え合う、生活に必要なものを提供できる、世の中が必要とするものに応えられる能力を身につけることである。そのような人は、物価上昇に合わせて収入も増え、給料も増えるからインフレなど怖くない。さらにインフレへの対応力・情報力を高め、インフレをビジネスチャンスととらえる力をつけることが、現時点での最大の個人レベルでのインフレ対応策である。
○インフレはいつ始まるか
インフレがいつ、なにをキッカケとしてどんな型で始まるか。これを正確に予測することは難しい。しかし、インフレトレンドをしっかりと掴んでさえいればインフレ予測を大きくはずすことはない。以下インフレトレンド・予兆現象の一部を要点のみを紹介する。
………日本株の外人買いはインフレ期待………
日本株を買い漁る外国勢が見込んでいるのは、日本経済再建でもなければ、銀行再生でもない。ゼロ金利と公的資金という二つのパイプを通じて銀行に流れ込んだ資金が、バブル(資産インフレ)ムードを再燃させることを期待しているのである。
…………… インフレの底流 @ ……………
すでに物質文明を満喫している先進国の10億人に加えて、新たに発展途上国の48億人のほとんどが、猛烈な勢いで豊かな生活を求めて動き出した。供給不足はいずれ爆発する。
…………… インフレの底流 A ……………
世界全体が成長スピードを落とそうとしない。供給不足で価格が上がっても、何とかモノを確保しようと努力する。かくして需要急増・供給不足・価格高騰・モノ確保の買い急ぎ現象がどこかで爆発することになる。
…………… インフレの底流 B ……………
円紙幣を意図的に増刷するか、しぶしぶ増刷に追い込まれるかはともかくとして、国内金融市場だけでなく海外金融市場でも、円のマネーサプライは増えるほかはない。
…………… インフレの底流 C ……………
経済の流れはひとたび動き出すと勢いがつき、必ず行き過ぎるところまで行ってしまう。インフレの兆しが見え出すまでデフレ対策(インフレ政策)が続けられれば、正真正銘のインフレに突入して行くだけである。
……… インフレはいつ始まるか @ ………
通貨への不信・不安はあっても、デフレが進んでいる最中はもっと値段が下がると思うから、まだ現金で持っているが、不良債権の処理が終わり、銀行や企業の整理が進んで、もうこれ以上整理するものがないとなったら即、モノに変えようとして、パニック的にインフレが始まることになる。インターネット時代、スタートさえすればインフレの足は速い。
……… インフレはいつ始まるか A ………
資産デフレや不良債権問題が片付いた頃にインフレ圧力の勢いは本格化する。
……… インフレはいつ始まるか B ………
日銀がさらなる量的緩和に追いこまれるのは、時間の問題だ。アメリカ株が調整局面に入れば、アメリカ政府の強い意向を受けて日本は一層の量的緩和に追いこまれる。そしてインフレが始まる。
……… インフレはいつ始まるか C ………
激震のスタートは2000年3月31日、この日の株価と債券と為替レートが重大な意味を持つ。
5月末には金融機関の決算は確定する。国民はその決算書をよく見て、資金の大移動を始める。
……… インフレはいつ始まるか D ………
ペイオフ開始直前の頃には、政府はヨレヨレの大赤字だ。その時、ペイオフに備えて預金をおろしてきた人々が思うことは、「この現金の札束を持っていて一生安心して暮らせるだろうか」という不安だ。紙を持っていてもその発行先があやしいから、必ず買い物をして実物に換える。
……… インフレはいつ始まるか E ………
考えたくないことだが東京直下型地震、あるいは東海地震が起きれば、その経済的損失は阪神・淡路大震災(10兆円)の10倍、100兆円と推定されている。これを契機に円安とインフレに火がつく。
………… インフレはいつまで続く …………
インフレもそう長くは続かない。せいぜい5年ぐらいだ。激しいインフレは長く続かないものだ。長めにみても、2010年ぐらいにはすべて終わるだろう。
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