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不動産鑑定業界三つの未来
               
(不動産鑑定'99.8)

 

 

  シナリオプランニングという未来予測の手法がいま注目されています。我が国ではなじみが薄いのですが、欧米では企業や団体、国家などの長期戦略立案のために広く使われている手法です。
 以下、シナリオプランニングの手法にもとづいて鑑定業界の三つの未来についてシナリオを作ってみました。

 〈ステップ1〉

 鑑定業界の将来を考える上での関心事、懸念されることの洗い出し

@業界を支えている今の基盤は何か

   →試験制度・資格制度によって成り立ち、守られていること
   →法体系・行政の中に組みこまれた需要、公的評価が存在すること
    ・公示地・基準地評価
    ・競売評価
    ・固定資産評価
    ・相続税関連評価
    ・公共事業の用地取得
    ・公共団体の用地取得
    ・裁判上の評価
    ・国土法関連の評価
   →民間の取引に伴う評価
   →日本経済の中に占める「土地」の比重の大きさを反映した業務の存在

A基盤の変化はどのようにして起こるのか
   →資格制度
    短期的変化 ………………特に変化なし
    中期的変化(10年)…… 士業の試験合格者数を飛躍的に拡大させ、業者間の競争を強める
               (行革本部規制緩和委員会答申)。
   長期的変化(20年)…… 有資格者の増加により競争激化
   →公的評価
・公示地・基準地
    短期的変化……地点数漸減・精度の高い評価・商業地は収益価格中心となる
    中期的変化……一部から存在意義に対する疑問・批判が提起され、情報開示に耐えうる内容
          の充実が求められる。
   長期的変化……土地評価の一物四価体制は消滅し公的評価は何らかの型で一体化する。

・競売評価
   短期的変化……件数は増加するが、不動産不況に対応した内容の充実が求められる。
   中期的変化……個別事務所に占める競売評価の比重は大きくなり、専門化・特化する
          事務所もでてくる。
   長期的変化……日本経済の中で不動産担保金融の比重が低下し、競売件数は少なくなる。

・固定資産評価
   短期的変化……すぐれたソフトの出現で手数料のダンピング競争が激化し、「自由競争化」
          が進む。
   中期的変化……不服申立ての増加で、精度の高い評価、成果品が求められる。商業地につい
          ては収益価格中心の評価が行なわれる。
   長期的変化……市、町、村の税収の柱(40%〜60%)であり固評の必要性、重要性は一層強
          まる。

・公共事業に伴う用地取得
   短期的変化……数量は減少し、地価下落を反映することの難しさへの対 応が求められる。
   中期的変化……数量は減少し、市街地再開発、区画整理に伴う土地評価、 建物補償案件は増
          加する。
   長期的変化……公共事業に割り当てられるパイは減少する。国、地方の行政の役割変化に対
          応したキメ細かな需要は増加する。

・相続税評価
   短期的変化……質、量ともに現状維持
   中期的変化……固定資産評価との連動、一体化の可能性が検討され商業 地は収益価格中心と
          なる。
   長期的変化……地方財源化し、固定資産評価と一体化する

・訴訟に伴う評価
   短期的変化……質、量ともに大きな変化はない
   中期的変化……弁護士数の増加、訴訟扶助制度の拡充、強化に伴い訴訟関連の案件
          は増加する。
   長期的変化……日本もアメリカ型訴訟社会になり、不動産をめぐる訴訟も増加し鑑
          定需要も増える
・国土法に伴う鑑定
   短期的変化……添付鑑定、第三鑑定ともに激減
   中期的変化……国土法そのものが実効性を失う
   長期的変化……国土法が廃止されることもありうる

 

  →民間の取引に伴う評価
   短期的変化………土地取引に伴う評価は激減
           簡易鑑定は一部で増加
           不動産証券化に伴う評価の増加
           不良債権処理に伴う評価の増加
   中期的変化………土地取引に伴う評価は減少するが「難しい物件」についての需要は生き残
           る
           簡易鑑定の一般化
           証券化に伴う需要増加
日本経済の中での「不動産」の位置づけが下がり、そ の影響を受ける
   長期的変化……… 日本の不動産業界がどのような姿になっているか。この変化に対応し、こ
            れを先取りした鑑定士のみが繁栄 する。

  →日本経済の中に占める「土地」の比重の大きさを反映した業務
   短期的変化………「土地本位制」の崩壊過程が進行する
            地価下落が続き不良債権は一層増大する
   中期的変化……… 不動産担保金融の量的・質的変化が進む
            収益重視の評価
            精度の高い評価
            GDPに占める土地総額の比重は現在の1/2に低 下する
   長期的変化……… GDPに占める土地の比重は1/3に低下し、担保評価は減少する。

B不動産業界がどう変わるか
   短期的変化………取引件数が激減し、開発・分譲業者の倒産が増大する。
           大手(およびそのチェーン店)と零細仲介専門業者の 二極分化が進む。
   中期的変化………少子化、高齢化社会、物件過剰時代を反映し、借り手 主導、
           買い手主導となる。店舗の近代化が進み賃貸の仲介はインター
           ネットを介して行われ不動産業者は契約書作成の立会人的存在
           になる。賃貸仲介の手数料は 0.5ヶ月分、売買の手数料は1%が
           一般的になる。
   長期的変化………駅前や街中に不動産業者の店舗らしいものは見られなくなり郊外
           S・Cに隣接した近代的オフィスがその店舗となる。
           自分の住む家を探す客はインターネットを通じて関心のある物件を
           次々とみることができ、間取りや内装を あたかも自分の目でその
           家や部屋を視るように点検で きる。床、カベ、天井などをデジタル
           カメラで撮った 写真で細部にわたりチェックできる。
           外部環境、周辺環境もビデオの画面で手にとるように 分かる。
           客はインターネットを通して仲介業者にその画面で確認したとおり
           であれば契約したいとの申し込みを行い(仮契約、オプション契約)
           仲介業者の店舗を訪ねる日時など約束してその物件について他の客の
           申し込みを一時中止させる。数時間後に店舗を訪れ、カギを預かって
           物件の所在する場所に行き気に入ったら0.5ヶ月分の仲介手数料を
           支払い契約書を作成する。家賃は月末に家主の口座に振り込む。
           (家賃月末払いが普通になる)            

C土地についての日本人の価値観はどのように変化するのか

   →土地神話の復活はありうるか。一時的逆流はあっても土地神話は復活しない。

   →土地本位制に代わるものは何か、金融機関だけでなく一般人もリスクとリターンを見抜く力が                                                                       
    求められる時代となる。

   →借金をして土地を買っておけば、誰でも儲かった時代の「刷りこみ」が一部の人には残る。

D国際化、情報化が進む中で、鑑定士は新たな現実に対応できるか

   →鑑定業は国際化(グローバル化)と共に特定の地域に絶対的な強さを持つ地域的特化(ローカ    
    ル化)の両特性(グローカル化)が求められる。

   →情報公開の進展にいかに対応するか

   →地価情報の「完全公開」にいかに対応するか

〈ステップ2〉

 一般的に考えられている鑑定業界の将来像の確認

@楽観的な見方とその根拠

   →土地が日本経済に占める比重は大きく、土地本位制は変わらない。それに係る鑑定業の
    将来性はバラ色だ。

   →日本人の土地に対する執着心は強く、土地神話は必ず復活する

   →権利意識の高まり、弁護士数の増加等により訴訟が多くなり、鑑定評価 の需要も拡大する。

   →四次産業(情報産業)としての将来像は明るい

A悲観的な見方とその根拠

   →土地本位制の復活はありえない

   →土地価格が1/2、1/3になれば手数料も減少する

   →地価情報の完全公開により土地の価格は誰でも手軽に無料で知ることが できるようになり、
    鑑定需要は減少する。

   →海外鑑定機関が日本に進出してくる

   →公示地、基準地の地点数が大幅に減少する

   →固評受注の完全「自由化」,「価格競争の激化」が進む

 〈ステップ3〉

 ドライビングフォースを探す

 (鑑定業界の未来に作用する最も重要な力、いわゆる「ドライビングフォース」 は何かを検討する)

   →経済、政治、社会、技術等の激変、革命的変化を業界として、個別事務 所として受け入れる
    ことができるか否かの度合い

   →鑑定業界がどれだけ外に開かれた社会であるか否かの度合い

   →経済情況の変化の度合い

   →少子化、高齢化の深刻化の度合い

   →経済、政治、社会、行政などの制度改革の度合い

   →日本人の土地に対する伝統的な価値観の喪失の度合い

 

   ●鑑定業界の直面する問題とは何か。

   ●鑑定業界は自らを世の中のどこに位置づければよいのか。結論として「経 済」や「制度」に        
    左右される依存型の業界であるといえる。

   ●次に向かうべき方向性を見いだせないでいる鑑定業界であるが、世の中 に役立つ「情報」を
    持ち、「ノウハウ」に磨きをかければ世の中は決して 見捨てない。世界に通用し、地域に役
    立つグローカルな業界になれれば日 本経済の中で一定の基盤は確保できる。

 〈ステップ4〉

 初期シナリオを探す

 (前人未踏の分野を切り拓く、大胆な仮説を立てる)

 

 「これこそ鑑定業界の将来を左右する」というドライビングフォースは何かを考えぬくと、この業界がいまだ「他者依存型」、「経済状況、経済制度直結型」、「行政制度組み込まれ型」であり、日本の政治、経済に全面的に影響され、依存していることが分かる。よって、予測される経済状況の変化に対応して三つのシナリオを想定する。

 

@ 2年間の冬の時代の後にくる超繁栄のシナリオ  ………      
赤字国債の大量発行、公共事業の大盤振舞が続くが、景気は底を打たない。銀行や企業の整理・統合は多発する。鑑定業界も冬の時代が続く。Y2K問題での混乱に加えてペイオフ解禁の2001年3月31日に向けて銀行間の預金の大移動が始まる。それをきっかけに日本経済はインフレの時代になる。

 インフレヘッジ商品としての土地は上昇を続け、土地本位制、土地神話は復活したかのごとき状況が生まれる。不動産業界は大繁盛、鑑定業界も大ウケの時代となるが……。

インフレの時代は2010年には終わりを告げ、日本経済は筋肉質の強い企業が生き残り、主体となる。鑑定業界も世の中の変化に対応できた「強い事務所」は一層繁栄する。

 

A 危機を契機に日本経済が再生し、鑑定業界も質的変化をとげるシナリオ     ……… △

 日本政治が指導力を発揮し、土地、住宅税制の大改革(不動産取引に伴う障害的税制撤廃,住宅ローン利子の全額税額控除等々)が行なわれる。不良資産(担保不動産)の公的機関による全面買い上げとそれを基にした「生活空間倍増計画」の全国的展開で、日本経済は活力を取りもどし、地価は下げ止まる。鑑定業界は市街地再開発、区画整理、公的買収、不良資産買い上げなどで出番が多くなり、質の高い評価の需要が増大する。

 

B 日本経済はデフレの坂をダラダラと下りてゆき、ついには平成大恐慌となるシナリオ                   ……… 

 アクセルとブレーキを交互に踏む経済運営が続き、地価も底を打たない。鑑定業界は既存の仕事を守るのがやっと、惰性に流され、マイナーな存在になっていく。民間発注、公共発注も漸滅し、競売評価と固定資産税評価で糊口をぬらす時期が続く。

 そんなある日、米国株式が5,000ドル台に暴落し、中国が元の自由化(切り下げ)に踏みきる。日本の輸出産業は大打撃を受け、平成大恐慌に突入。

 民間・公共発注ともに激減し、競売評価の件数は激増するが、実際には売れないので、評価制度の見直し気運が強まる。

 

 土地取引も激減するので地価水準がつかめない。固評の評価額が高すぎるという批判が強まり、毎年見直しがなされる。鑑定業界に見切りをつけ、他の分野に転進する鑑定士も出てくるが、地域ごとの賃料を足を使って収集し、精度の高い収益価格に強い事務所は生き残る。

 地域に精通し、「強い土地」「収益性の高い場所」の判定ノウハウを持ったグローカルな鑑定事務所は、平成大恐慌をビジネスチャンスととらえる企業(外資系も多いと予測)と連携して業務を拡大する。鑑定業界でも二極分化が進む。

 

 

    ◎ ……………60%

    ○ ……………30%

    △ ……………10%

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