〈土地問題〉
はじめに
1.東京地裁民事21部の評価運用基準(草案)について
2.底地の評価が必要となる三つのケース
3.底地評価にあっての基本的な考え方
4.金融機関での取り扱い
5.底地評価の具体例
この事例では、計算を分かりやすくするために、土地、建物をそれぞれ1千万円とし、合計2千万円の物件を想定しているが、これは地方の中都市の住宅としては、平均的なものといえる。このほかに、底地の評価のためには、法定地上権割合、地代、必要諸経費等を査定しなければならないので、これらは以下のとおり想定した。
土地について想定した条件(事項)
・法定地上権割合 35%(更地価格の)
・標準的地代(年額)
800円/u(月額220円/坪)
・諸経費(税金等) 200円/u(年額)
ここで土地について、想定した条件について若干の説明をすると、法定地上権割合は、当該地域(近隣地域)における標準的な借地権割合をベースにして定められるものであり、この点には、大きな異論はないと思われる。問題なのは、法定地上権の地代は新規賃料(正常賃料)なのか、継続賃料(限定賃料)なのかという点である。この点に関しては、関係者のあいだで、必ずしも十分な議論はつくされていないが、私の考えでは、法定地上権割合を査定する場合に、標準的借地権をベースにして定めている実情からみて、その場合の地代も継続賃料としての標準的なものを、想定するのが妥当だと思う。
昭和55年10月に開かれた、第4回争訟鑑定シンポジウムにおける議論においても、「法定地上権は、従来からありました抵当権設定者と抵当権者の土地利用をめぐる合理的意志を推測して、その潜在的な敷地利用権を顕在化して定められた制度であるということを前提として考えますと、やはり新規の正常賃料よりも限定賃料に近いのではないでしょうか」(注4)という考え方が有力であったようである。この点に関する判例の立場は、「裁判所が地代を決定するにあたっては、必ずしも経済的観点からの客観的地代(新規賃料)のみを標準とすべきでなく、一切の事情を考慮して決定すべきである」(大判大11.6.28)となっており、実務上のあつかいも「法定地上権の地代等を問題とする場合には、当然のことながら、建物所有目的の賃貸借契約における相場そいうものが反映しているかと思うわけです」(注5)となっているようである。
つぎに、この設例を基にして運用基準方式と、私が実行している底地減価(収益性・市場性減価)の考えをとり入れた方式とを対比してみる。
【運用基準方式】
更地価格 地上権価格 地上権価格
10,000,000円× 35% = 3,500,000円
更地価格 地上権価格 底地価格
10,000,000円−3,500,000円 = 6,500,000円
物件(1) (底地) 6,500,000円
物件(2) (法定地上権付建物) 13,500,000円
一括評価額 20,000,000円
この方式による底地の価格が、実態といかにかけ離れているかは、底地の収益価格を試算してみれば一目瞭然となるので、設例を基にして物件(1)「底地」の収益価格を試算してみる。
物件(1)「底地」の収益価格
地代 諸経費 地積 純収益
(800円/u−200円/u)×200u=120,000円(年額)
純利益 利回り 底地の収益価格
120,000円÷0.05 = 2,400,000円
ここで試算された2,400,000円は、純収益120,000円を利回り5%で還元して得た、いわば純粋な収益価格であり、将来において、底地が更地となる可能性(建物の朽廃・契約の解除等)を加味すれば、2,600、000円〜2,700,000円が底地としての妥当な価格といえる。
ところが、運用基準方式で底地「物件(1)」を評価すると、6,500,000円となり、収益価格の倍以上となり、理論的にも実体的にも妥当性のないものであることがよくわかる。
そこで次に底地減価(率)の考え方をとり入れた方式を基にして物件(1)、(2)の価格を試算してみる。
【底地減価(率)を導入した方式】
更地価格 地上権割合 地上権価格
10,000,000円× 35% = 3,500,000円
更地価格 地上権価格 底地減価(率)※
(10,000,000円−3,500,000円)× 40
100
底地価格
=2,600,000円
※低地減価(率)
「標準的地代を想定した場合の底地の収益価格、当該地域における低地利回り、底地市場性、完全所有権への復帰可能性等を総合的に考量して査定」するものであり、案件により30%〜60%程度の幅の中でとらえることができると考える。
なお、底地減価(率)について収益性、市場性減価(率)としてとらえ、表示すべきであるとの主張もあるが、底地減価と表示して※印で注をつける方式が、内容としても正確であるし、わかりやすいのではないだろうか。
物件(1)(底地) 2,600,000円
物件(2)(法定地上権付建物) 13,500,000円
物件(1)(2)の一括評価額
(更地価各+建物自体の価格) 20,000,000円
物件(1)(2)を合算した金額 16,100,000円※
※物件(1)2,600,000円(底地)、物件(2)13,500,000円(法定地上権付建物)とを、単純に合算した金額は16,100,000円となるが、この価格と一括評価額20,000,000円との差額3,900,000円は、物件(1)が法定地上権の制約を受けることにより、本来の価値の潜在化する部分が、建物と一体としての評価(一括評価)することにより顕在化したものである。
この方式の特徴は、底地の価格を収益価格を基として試算しているので、鑑定理論の立場とも矛盾しないし、価格面での妥当性も保てることである。
つまり、論理的一貫性と、結論の妥当性という二つの命題にこたえうる簡便な方式であるといえる。なお、この方式だと土地「物件(1)」と、建物「物件(2)」の一括評価額は、個別(独立)評価額を合算した額を大幅に上回ることになり、実務上割付(抵当権設定の順位、額等による配当額の配分)が困難になるとの見解(注6)もあるが、民事執行法86条2項はその問題に解決策をあたえているので、特に問題はないと思う。
ここで、一括評価額が個別評価額を合算(合計)したものを大幅に上回ることについて、すこし考えてみたいと思う。これも、理解しやすくするために、前記の設例を基にして図解すると、更地としては、1,000万円の価値のある土地を、法定地上権と底地に分割(権利として分離)すると下図のようになり、それぞれの価値は分割以上に小さいものになってしまう結果である。
この図は、現在の我が国における法制、及び不動産市場における実態からいえば、更地(完全所有権)が法定地上権(利用権)と、底地(所有権)とに分離することは、あたかも間に10m×奥行20mの使いやすい土地を、相互に利用しにくい三角形の土地に分割するのと同様に、結果として、不合理な分割となり、分割されたそれぞれの土地の価値は、分割の割合以上に小さなものとなってしまうことを示している。
つまり、上図のような不合理な分割により、本来1,000万円の価値のある土地が、個別の価格を合計しても610万円にしかならなくなり、390万円の価値は潜在化することになる。もちろん、この2筆の土地が同一所有者に帰属すれば、本来の1,000万円の価値となることはいうまでもない。
完全所有者(更地)を利用権(法定地上権)と所有権(底地)とに分離することが、「不合理な分割」であるとする考え方には、異論があるかもしれないが、我が国の実情からはそういわざるを得ないと思う。
この点に関して、私は法律の専門家ではないので、深入りした議論ができないが、「土地と建物を別個独立の不動産とする法制が、特に抵当制度において矛盾を露呈する」(注8)、「土地抵当権と土地利用権とが、建物所有を間にはさんで深刻な対立を見せるのは、そもそも、現行民法が土地と建物とを別個の不動産とする比較法上類のない建前をとったことに原因がある」(注9)ことの評価への反映であるとみることが正しいのではないだろうか。さらにつけ加えるならば、底地の評価額を収益価格を基準として試算しているので、現在の我が国の土地の価格が、その収益性を基にした価格(収益価格)を大幅に上回っているという現状を反映して、底地の価格が更地価格との対比において、相対的に低いものとなっているということである。
つまり、我が国の土地の価格水準が、その収益性を基にした価格(収益価格)から大きく乖離している実態が、更地(完全所有権)の法定地上権と底地への分割という過程で、その姿の一部を現したといえるのではないだろうか。
6.競売不動産の評価手法の一層の発展をめざして
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