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     事業協同組合の今日的意義とはなにか

                    「商工ふくしま」'70.10月

はじめに

 近年急速に進展した科学・技術の発達に伴って、社会世相もまた大きな変動を余儀なくされている。この中にあって、中小企業者によって組織される事業協同組合(以下「事協」と略す)は、牧歌的であり、時代遅れであって、すでにその有効性は失われているとする意見は、極論としてさておくとしても、「事協」活動に携わり、その発展に、日夜苦慮している者にとっても、このめまぐるしく変化する経済環境にそれを適合させ、その事業を繁栄させるための方策は何か、またその今日的意義は何か、と問われて、即答できる人は多くない。
 
 それは事業協同組合といっても、その地域、業種、業態、組合員などの差違により、当然ながら内臓する問題もまた大きく異なるわけで、この多様さを一括し、一般化して論ずることに大きな困難さが伴うという事情に基づくものと考えられるが、それにも増して、「事協」そのもののあり方を考えるにあたって、従来の問題と違った、その根底にかかわる何かがあらわれてきており、それが何であるかが明確になっていないために、いっそう困難さが増し、とまどいが大きくなるといえるのではなかろうか。
 
 思うに、現代は中小企業のみならず、他のあらゆる社会階層・勢力が、根底からその「存在意義」を問われている時代でもある。自由資本主義は、好むと好まざるとにかかわらず、弱肉強食の形態をなすため、中小企業者の組織する「事協」は、その変動の影響を最も強く受けるわけで、「この時代をいかに生きるか」に眼を閉じることは、もはや何人にも許されない。
 
 小論は「事協」の今日的意義について、真剣に考え、今後の方向をいわば「体当たり」的に模索してきた多くの「事協」関係者の努力にいくらかでも役立つことを願って、筆をとったのである。

 

 組合法制定時の背景

 「事協」について規定した中小企業等協同組合法(以下「組合法」と略す)が制定されたのは昭和24年であった。当時の経済情勢はといえば、財閥解体・農地改革・労働組合法の公布などの一連の経済民主化政策の進行する過程で、経済憲法ともいうべき独占禁止法が制定され、特定の独占的大企業が経済社会において競争の実質的な制限・排除をもたらすほどの支配力を持つことが禁止・制限された。
 
 他方では各種の協同組合法の制定により、経済的に力の弱い中小企業者、農民、一般消費者などが協同組合を設立し、共同経済事業などを行なうことを認めて、全体として「公正かつ自由な競争」の場を設け、日本経済の新しい発展の道を切り開こうとするのが当時の経済政策の基本方向であったといえる。言いかえれば、経済的強者に対しては独占禁止法をもってその手を縛り、経済的弱者に対しては各種協同組合法により互いに手をつなぐことを認め、それによってはじめて日本経済という土俵の上で公正かつ自由な競争が可能となるという考え方である。
 
 一方、当時に経済の実態は、戦争により疲弊しきった経済を建て直すためには戦時経済同様の国家による直接的物資統制が必要とされ、各種の統制法・公団法によって官僚統制が全国的に行なわれていたのであり、産業の面でも傾斜生産方式とよばれる鉄鋼・石炭中心に政府が強力なテコ入れを行なう復興政策が進められていたことなど、経済に対する国家の直接介入が強く行なわれていたのが実情であり、昭和24年3月に発表されたドッジ・ラインにより経済安定策への質的転換をみせつつあったとはいえ、実態はまだ統制経済であり、それを当然とする考え方が根強く残っていた時期でもあった。

 

 協同組合の変遷

 このような背景・流れの中で「中小企業者の、中小企業者による、中小企業者のための組織」を理想として制定された組合法は、@設立その他につき行政庁の監督を極力排するとともに、A員外役員を禁止し、外部からの組織に対する介入を防ぎ、B加入・脱退の自由、組合員直接奉仕の原則、議決権の平等と代理議決の厳しい制限を明定したほか、役員等に対するリコール制の採用等組合員の意志を十分に反映させてその民主的運営を確保する、ための制度としてわが国における協同組合史上画期的な内容をもつものとなった。
 
 しかし、明治の準則組合・同業組合以来、戦時中の統制組合まで組合という言葉からは統制・強制といった「権力的」イメージがまず浮かんでくるのが普通であったわが国の中小企業者にとって、自主性を発揮し、民主的に運営される協同組合の設立といわれてもピンとこない点があり、すぐには応対動作に移れなかったこともあった。あるいは経済の実態もまだ統制経済であって、「権力」を持たない協同組合では「やりにくい」「何ができるのか」と受けとめられたこともあったりして、画期的といわれた協同組合も当初は期待されたほどの数は設立されず、組織化の盛り上がりはみられなかったといえる。
 
 その後、物資の統制も次第に解除され、統制経済から自由経済への移行が進むにつれて、中小企業者にとっても物資の必要性よりも資金の必要性が増し、商工組合中央金庫(以下「商工中金」と略す)よりの資金の借入れを主な目的とした、いわゆる「金借り組合」にかぎらず、当時は公証人によって定款の認証さえ受ければ簡単に協同組合を設立できたので安易に作られたあやしげな組合が相当生まれ、その後の不振組合、休眠組合の大量発生の一因となった。
 
 その後、組合法による組織化が進み、その運用経験が蓄積される過程で業界の実情に合わせるため制度改正が逐次実施されてきている。主な改正点は、昭和26年に代理議決権行使制限を従来の1人までを4人以内と緩和し、定款も公証人の認証から行政庁による認証へと変ったこと、27年には員外役員も3分の1まで迎えることが可能となり、出資配当制限も従来の年6分までが1割までとなったこと、30年の改正では行政庁が設立認可権、業務改善・解散命令権を持つことになり、中央会も法制化されたこと、などである。

 これらの改正は経済情勢の変化および組合法の目ざす理想と業界の実情の矛盾の調整という2つの問題を反映してなされたものであるが、これらの改正によっても自主的かつ民主的な協同組織としての「事協」の基本的性格・原則は変らず、中小企業者のための最も普及した、代表的な組織として今日まで中小企業の振興に少なからず寄与してきているといえる。

 しかし、「八幡」・「富士」の合併承認がいみじくも示したごとく、独占禁止法は「経済の国際競争力強化」という大義(経済基本政策)を前にしてその影がうすれてきており、経済憲法といわれた独占禁止法の有効な支配のもとではじめてその力を十分に発揮し、発展すると考えられてきた「事協」は、気づいてみると、自力でその発展の道を切り開かねばならない場面に立っていたのであり、振り返ってみれば、すでにかなりの道のりを独力で歩んでいたのであった。

 

 協同組合の現状

 「事協」の数は昭和43年12月末現在で32,436組合あるといわれ、製造業をはじめとして卸・小売、サービス業などの産業分野で広く組織され活用されている。中小企業庁が41年3月末現在で行なった「事協」実態調査によると、調査対象28,333組合のうち回答したものは11,713組合だけであり、回答のない16,000余りの組合はいわゆる休眠組合とみられる。回答をよせた11,713組合について階層分布法により平均的「事協」像を描いてみると以下のような姿が浮かんでくる。
  
   組織形態  ………… 同一業種    …………70%
   地  区  ………… 一郡(市)以下   …………43%
   組 合 員 ………… 6人 〜20人   …………32%
   組合の従業員……… 1人 〜 5人   …………54%
   出 資 金 ………… 100万〜500万  ………30%

 その後も毎年1,000〜2,000の新設組合が誕生しているが、最近の特徴としては、特定の機能、たとえば工場・卸商業の集団化、共同給食・宿舎の建設・運営、官公需受注、などを目的とする「機能別組合」ともいうべきものの設立が目だっている。

                                                
 

 事業の現状と今後

 次に実施事業の主なものについてその現状をみると、最も多く実施されているのは資金の貸付(信用補完を含む)事業および共同購入事業であり、これに次いで教育情報、事務代行、共同販売、福利厚生、共同生産(加工)などの事業の順となっている。
 
資金の貸付(保証)事業は65%余りの組合が実施している。これは、中小企業者にとって悩みのタネはやはり金であり、「事協」には商工中金という政府資金の太いパイプが通じていることを反映して実施率が高いことを示している。この事業の今後については、経済機能体としての「事協」がその機能・事業ともに多面的に発展するものと思われるので、この事業の比重は相対的には低下するものと予想される。
 
 しかし、「@事務能力や信用が不足しているため、単独では正常な金融を受けられない小零細企業者の存在。A一般金融機関からの借り入れだけでは量的に不足している比較的規模の大きい中小企業者の存在Bさらに、規模が小さいために独力では市場競争にたえられないような中小企業者が、共同経済事業を実施し、その延長として金融の共同化に取り組んでいるもの」などを考えあわせればその比重は他の事業に比べて圧倒的に大きいことに変りはないとみられる。
 
 共同購入事業は39%余りの組合が実施している。業種別では食料品、繊維製品、木材・木製品などの製造業、建設業、卸・小売業において実施率が高い。しかし、最も手がけやすく共同の力を発揮できるはずである共同購入事業を営まない組合が60%もある現実は、その理由はさまざまであるにせよわが国の「事協」関係者がまだまだ努力すべき余地があることを示している。
 
 教育情報事業は25%余りの組合が実施している。製造業、小売業などの業種では、同業者も多く、競争がはげしいことや、キメ細かな経営情報を必要としていることもあってか、他の業種に比べて高い実施率である。中小企業の存立条件が急激に変化し、その対応策も従来に増して機敏さが要求されている今日、経営・技術方面の最新情報をいち早くキャッチし、市場の知識や一般経済情勢の認識を深めることは、自己の事業発展のためだけでなく「事協」の新しいあり方を追求するためにも、いっそうその必要性を増すものと思われる。教育情報事業が重要であるもう一つの理由として、「事協」にかぎらず協同組合は、組合員の自発性・積極性を基礎とした相互扶助の精神の発揚が大前提であるが、実際には協同組合の趣旨や精神に対する個々の組合員の理解にはかなりの差があるのが現実であり、協同精神の発揮も同一水準ではないのが普通である。これを同じ水準に引き上げる方向での不断の組合員教育が必要とされるのである。
 
 共同販売事業は18%余りの組合が実施しており、製造業が大部分である。その内容は共同生産したものの販売が主であるとみられ、競争関係にある中小企業者が販売という最もシノギをけずる部門での共同化には困難が多いことを示している。
 
 福利厚生事業は16%余りの組合が実施している。この事業は、はじめは組合員の福利を目的としていたが、最近の人手不足を反映して、組合員の従業員対策として実施されることが多くなった。すなわち、従業員獲得の困難さが企業経営のあい路となってきた昨今、個々の組合員が独力では行ないにくい従業員用の福利施設などを共同で設置しようというわけである。
 
 共同生産・加工を実施している組合は11%近くあり、製造業では比較的多いが全体としては低い実施率である。生産性の向上、「規模の利益」実現の必要性がさけばれて久しい今日、しかも製造業関係の「事協」ではほとんどがその事業の第一にかかげている共同生産・加工事業が、実際には11%足らずの実施率にとどまっていることは、共同化・協業化、特に生産・加工面でのそれは「言うは易く、行なうは難し」の言葉どおりであることをよく示している。中小企業、特に製造業分野でのそれが技術革新の成果をとり入れて発展するためには、その業種・製品の最新の生産方式・機械設備の要求する最小の規模に達することが前提となるが、そこまで達しない企業は何らかの形で共同化しなければ存続はできても発展の道は見いだせなくなると思われるので、「事協」による共同生産・加工は今後いっそう増加するものと期待される。

 商工中金が41年に行なった実態調査によれば、各種の共同事業を実施している商工中金所属「事協」のなかで約54%の組合にあっては「事協」の共同事業が組合員にとっていまや欠くことのできない存在になっており、共同事業に依存しなくては企業維持が困難な組合員が半数以上を占める「事協」が全体の31%にものぼっているといわれている。この数字は、「事協」が中心となって展開している共同事業が、わが国の中小企業の振興に少なからず寄与していることを示しており、高く評価されなければならない。
 
 しかし、前にみたとおり、共同事業は、内容的にも、量的にも、まだまだ十分とはいえないのが実情である。とくに「事協」本来の目的達成のための中核となるべき経済事業活動が、総じて振わないことは当面の最大の問題であるといわねばならない。

 

 協同組合における問題点とその根源

 「事協」のあり方を論ずるにあたっては、当面する問題点と原因を明らかにすることが不可欠であるので、以下、若干の問題点とその根源についてふれてみたい。
 第一に前にものべたとおり経済事業の不振という問題であるが、その理由としては次のような点が指摘される。
 
 @ 中小企業者は、一般に独立してその事業を営んでおり、当然のことながら「営利本位」であるため、同業者への排他的な感情や、利己主義的な色彩が前面に出やすい。このことが、「事協」を組織した場合でも、組合は個人的もうけの手段にすぎないという考え方にとどまらせ、共同の力で、仲間とともに繁栄しようという相互扶助・協同の精神を身につけるのは容易ではないこと。
 
 A 「事協」が人的共同体であるという側面を反映した原則、その非営利的な性格と、事業実施にあたっては、やはり経済合理性が追求されねばならないということのあいだに矛盾・対立関係が生じる場合が多いこと。すなわち、共同施設の問題でいえば、員外利用の制限と施設の稼働率向上のあいだに矛盾が生じることであり、運営面では議決権の平等という原則が迅速な意志決定の妨げとなってあらわれる例がしばしばみられることである。また、資本充実の面からは出資および配当の制限が資金的に余裕のある組合員の出資負担力とその意欲を十分に引き出せない原因となったり、安定した経営という点からは加入・脱退の自由の原則が経営基盤強化の妨げになる場合があるなどのことなどである。
 
 B 組合運営の未熟さ、組合員の認識不足、自助努力の不足などに指摘さるべき問題点は多いが、それに加えて昭和30年代の経済の高度成長の過程で大企業の系列化方式、選別方式による支配が強まり、中小企業内部の階層分化が進み、その格差が大きくなっている問題である。格差が開いた結果として、一口に中小企業といっても上層と下層ではその置かれている立場や将来に対する見通しも大きく異なる場合が多く、共同経営事業の選定や運営に困難さを増す一因となっている。
 
 C 「事協」はその制度が生まれた時の事情からして独占禁止法との関連が密であり、その有効な支配のもとで、はじめて力を十分に発揮できるものとされてきたが、いまや独占禁止法はわが国経済に対する有効な支配力を失ってしまったといっても過言ではなく、独占的大企業の手を縛る役割よりも、むしろ一定の要件を備える場合にはその適用を除外されているはずの「事協」の共同事業に対し、最近しばしばその除外規定を厳格に適用し、「事協」の機能発揮を阻害する場合があること。
 
 D 事実上、独占禁止法の拘束を解かれた独占的大企業が、わが国経済において支配的力を持つにいたった現在、中小企業者にとっては原料高の製品安という傾向は否めず、加えて大企業の中小企業分野への進出もあり、過当競争はいっそう激化して、共同化の条件をさらに困難にしていること。
 
 E 積極的に経済事業を行なおうとすれば、行政庁や金融機関の指導・統制を受けざるを得ない場合が多いなどの事情があり、一方、中小企業者の側にも指導まち、助成まちという姿勢が多分にみられ、自主性・積極性が十分に発揮されているとはいえないこと。
 
 以上「事協」における主要経済事業が振わない原因として考えられることを列挙したが、これらすべてが経済事業実施の場合の消極要因としてばかり作用するのではなく、積極要因の中での消極的側面としての問題点も含まれていることはいうまでもないことである。
 次に問題であるのは休眠組合の存在である。経済事業が不振であることは前にもふれたとおりであるが、それよりもさらに問題なのは、全く事業活動を休止しているいわゆる休眠組合が、「事協」の半数以上を占めていることである。これからの中小企業の発展を支える柱ともなるべき「事協」の半数以上が「休眠」している現状は決して放任されてよいものではない。それは「事協」への不信感・安易感を増長させるだけであり、何ら積極的な意味がないからである。
 
 経済事業不振の理由の大半がそのまま「休眠」の理由にもあてはまり、加えて「事協」制度の発足当初いいかげんな組合が多数誕生した時期があり、それらの組合が形のうえでは存続しているために、全体としての休眠率を高めているなどの事情があるにせよこのまま放置してよい理由にはならない。休眠組合とは精神面・意識面からいえば組合員のあいだに協同精神や自発性・積極性が全くないか、ごく一部にしかないことであり、物質面・事業面からはその組合に適する経済事業を見いだしていない組合であるということができる。
 
 この対策としては、どんなに深く眠りこんでいる組合でも設立当初には必ずその目的があったはずであり、不十分とはいえ協同精神もあったはずであるので、その「初心」を現在の条件にあわせてよみがえらせ、具体的な経済事業に結びつける努力を地道に行なう以外にない。たしかに組合員の数も少なく、事業規模も大きなものは望めず、職員の人件費をはじめとして組合経費を組合員が負担しえない事情のために眠りに落ちこんだ組合も多い。このような組合はいくつかの組合が共同で職員を雇い、経費が少なくても始められる教育情報事業などからまず始め、組合員が現在置かれている状況を明らかにするとともに、それに対処するための方策の一つとしての「事協」の必要性の再認識、協同精神の高揚が必要である。このような努力が休眠組合をよみがえらせるだけでなく、今後、組合が休眠に陥いらない保証ともなろう。
 
 このほか商工中金などから金を借りて転貸事業を行なうだけのいわゆる「金借り組合」や、親会社の手形割引を唯一の事業とする「下請組合」の存在、実態が商工組合や協業組合に近いものなど「事協」をめぐる問題点は多い。

                                              
 

 わが国経済の構造変動と協同組合の新たな役割

 昭和30年代から急テンポで進行したわが国産業構造の高度化は、労働力不足の深刻化、技術革新の進展、所得水準の向上にともなう消費パターンの変化となってあらわれ、中小企業の存立分野と地位の変動、階層分化、下請・系列の再編成をもたらし、加えて外には発展途上国の追上げ、商品および資本の自由化の進展などがあり、いまや中小企業の存立条件はその根底から変りつつあるといっても過言ではない。もとより中小企業の存立条件が変化し、その基盤が変動しているといっても、中小企業がいっきょに消滅することではない。それは一方で消滅しつつ他方で新生するという状況が進行する過程で、その存立分野が変り存続の余地がしだいにせばめられるという姿で進むものと思われる。
 
 このような変化に適応する方策として昭和43年度の中小企業白書は、@設備の近代化、製品の高級化・多様化、共同化・協業化などによる生産性の向上、A技術水準の向上と技術開発力の強化、B成長の高い分野への転換をあげている。続けて白書は「設備の近代化、製品の高級化・多様化は個別企業では解決困難な問題が多い。そこで、相互に協力して共同の力でこれに対処すること、すなわち共同化することが有効な方策のひとつとなっている」と共同化の重要性を強調している。ここでいう共同化は「事協」方式によるものばかりではないことはいうまでもないが、わが国の中小企業者に最もなじみが深く、一般的かつ現実的な方式としての「事協」による共同化がその主流を占めることになると期待されている。
 
 中小企業施策の設定にあたり、組織はその前提であり基本であるともいわれている。前提であるというのは400万とも450万ともいわれている中小企業者の一つ一つに対し、直接これを政策の対象としてとり上げることは事実上不可能であり、その集団すなわち組織を対象とするのでなければ普遍的、効果的な政策は及ぼしえないからであり、中小企業者の側からいえば組織化により施策受容能力が高まるからである。基本であるというのは力の弱い中小企業者は協同し団結しなければその存立の基盤を確保しえない宿命を負っているという意味においてである。
 
 世界の協同組合史上、新時代を画し、その後の協同組合運動の基礎ともなったロッチデール公正開拓者組合(The Eguitable Pioneers Society of Rochdale)が生まれてからすでに120年余りになり、わが国でもそのロッチデール原則を忠実に反映した協同組合制度が生れて20年になる現在、わが国の「事協」はいかなる局面に立たされており、またその負うべき課題は何であろうか。この問題を考えるには、まず現代の資本主義は「自由放任」という18〜19世紀にかけての資本主義と異なり、国家の役割が経済の細部にまで及ぶものとなっている現状をみなければならない。すなわち、国家が経済政策・産業政策をもち、その時々の情勢によってその方向や内容を決定しており、それが国民経済に決定的な影響を与えるものとなっているのが現代の資本主義の特徴の一つである。わが国の中小企業問題およびその組織問題としての「事協」も、その経済政策の一環として位置づけられているのであり、その意味では「枠」があり限界があるといえる。
 
 では、現在の経済政策の内容・方向はどのようなものであろうか。いうまでもなく、わが国における現在の経済・産業政策の基本は産業再編成・合理化の推進による産業構造の高度化であり、中小企業においては広い意味での「構造改善」である。「構造改善」とは中小企業が産業構造の高度化に対応することを目的としたものであるが、その内容を一言でいえば育成と転廃業の同時推進であるといえる。これを組織の面からいえば、組織化の推進と組織の解体とが同時に提起されているということである。むろん、そのあらわれる形は業種、業態、地域などにより異なることはいうまでもないが、ともかく現在の中小企業者とその組織のおかれている立場の厳しさを示すものであることに変りはない。「事協」にかぎらずすべての企業体は、客観情勢の変化に機敏に対応することなしには生き続けることができなくなっているのが「現代」であり、協業組合制度の制定や「事協」運営面での企業性、経済機能充実の強調はその意味において行なわれているのである。このようにみてくると、「事協」の現時点での課題とは、組織化・共同化により既存中小企業の合理化・近代化が可能であるか否か、またその条件をいかに作るかが、その最大のものであるといえよう。

 

 協同組合のあり方と今後の方向

 では、その課題を遂行する道、方策はなんであろうか。それを考えるにあたり、まず昭和30年代のいわゆる経済の高度成長期以来、わが国の「事協」関係者がいわば「体当たり」で切り開き、描いてきた軌跡をたどり、その変化の特徴を振り返ってみることもむだではあるまい。それは端的にいって、機能の高度化と多様化の十余年であったといえる。前者は、高度の共同化を実現したいわゆる協業化組合が各地に続出したこと、および共同事業における経済合理性・企業性の強調などにみられる現象であり、後者は、従来みられなかった、工場・店舗などの集団化、宿舎・給食の共同化などの機能をもつものが次々と出現したことや、技術革新の時代を反映した、共同研究、技術・商品開発などの機能をもつ組合の増加、さらに最近は共同求人・技能工養成などの労務管理面の共同事業や公害防止処理事業の共同化などの必要性が強まり、注目を浴びていることなどの事実である。
 
 以上のような一連の動きや事実がはっきりと示しているとおり、「事協」の今後のあり方、方向とは、まず第一に、協同組合精神、原則の再確認、再認識であり、それを基礎にした協同事業のいっそうの発展、すなわち、精神の共同から物・資本の共同への方向をさらに一歩進めることである。第2は、経済構造変動下における中小企業のあり方、その組織のあり方などについて組合員相互の知恵を出し合い、情報を持ちよりあって、深く考え、研究・指導する場としての役割を「事協」が果すことである。すなわち、業界の現状、見とおしなどについての情報を共同化し、経営・労務の管理、コンピューターの利用、流通革命対策、技術向上策などについて共同化すること、いわゆる知恵の共同化の方向である。このことは必要によって将来、経営そのものの共同化にまで進む場合も大いに役立つものと思われる。

                                             
 

組織強化策

 最後に、経済事業のいっそうの活発化、さらには一段と高い水準での共同化を目ざす組合におけるそのあり方、組織強化策を考えてみることにしたい。
 
 第一は適切かつ綿密な事業計画の策定である。それが共同生産設備であれば、組合員の設備・技術面での現状と今後の見とおしを多面的に分析し、その中からいかにして最大公約数的なものを見いだすかがポイントであろうし、共同購入・共同受注の場合は、いかにして多くの組合員に利益を均分させるかなどであろう。要するに共同の利益に奉仕できる事業を厳選し、適切な規模と内容にすることが事業計画策定の眼目である。そのためには十分に時間をかけ、「事協」のもつ民主性という長所を大いに発揮して、みなが納得するまで論議をつくすことが必要であろう。その際に企業性を重視するあまり、組合員の独白事業の自主性や個別利益を犠牲にして、後に共同事業と組合員の事業が対立するようなことは厳にさけなければならないことはいうまでもない。
 
 第二に、これからの経済事業の実施に必要なことは協同原則に市場原則を加味した運営である。資本主義社会という競争社会にあって、「事協」がその共同経済事業を発展させるためには、協同精神・協同原則だけでは不十分であり、経済合理性・市場原則が加味され、追求されねばならない。さらに、加えて、共同化により大規模化が実現される場合には、それにふさわしい経営管理手法の導入が研究課題となる。
 
 第三に、組合と組合員の関係を密接にし、一体感を強めることである。そもそも組合とは、人と人の関係、すなわち組合員相互の関係・結びつきが具体的な形をとったものであり、その実態・本質は組合員相互の関係が基軸となっているといえる。したがって組合と組合員の関係を密接にするということは組合員相互の関係を密接にし、協調性をもたせることであると換言してもよさそうである。協同組合は上下の序列を重んじる伝統的な日本のタテ社会とは異なり、ヨコ社会の人格的に平等な結合法則で動く組織であるともいわれる。たしかにそのとおりであり、それだけに運営に習熟するにはまだまだ困難も多いといえるが、共同事業を遂行する過程で生じるあらゆる問題をとらえて、組合員相互の結びつき、連帯感を強め、組合は物心両面にわたり、そのよりどころとするに足るものであるという信頼を得る段階にまでもっていくことがなによりも必要であろう。
 
 第四に、指導者の育成と事務局の強化である。全国中央会が先年行なった協業化組合の実態調査でも、その成功した例に共通する原因として「有能かつ強力な指導者の存在」が第一にあげられている。たしかに、組合目的はややもすれば高遠であると受けとられやすく、その効果が現われるまでに時間を要したり、間接的である場合が多く、いきおい指導者には、理想に燃えた、手弁当覚悟で組合事業に挺身するに十分な熱意・実践力・資力を持つ「人物」が要求されることになる。しかし、そのような人材が前もって用意されている例はまれであり、多くは、組合員の自発性・積極性を引き出しながらの地道な組合事業の中から生み出されたものであり、組合員多数の力で盛り立て育成されるものであるということもいえよう。
 
 事務局の強化、事務局に人材を得ることも組合運営にとっては重要なことであるが、ともすれば、給与その他の条件で一般企業より劣る場合が多く、人材を確保しにくいという問題が生じている例も多い。これからは「人手不足経済」のなかで、いかにして「総合戦力」を強めるかが問題となる時代であり、組合事務局の強化も基本的にはそのような方向ではからなければならないが、その際にも、従来多くみられたような「経済事業が不活発なために支払能力が小さく、給与水準も低くなる。そのため有能な人材は定着せず、それがまた経済事業不振の一因にもつながる」といったような悪循環をこのあたりで断ち切ることが肝要ではなかろうか。
 
 以上、今日の「事協」について不十分ではあるがふれてみたが、結論としていえることは、激しい変転する現代社会において、事業協同組合もその影響から免がれることはできず、環境の変化に対応して、そのあり方も変らざるをえないということである。しかも、その中で変らずに貫かれていることは、中小企業者は個々の持てる力は小さなものであり、その小さな力を何らかの形で結集することがいつの時代でも必要だということである。まして、激動の時代といわれている70年代にあっては、その必要性はいっそう強まりこそすれ、弱まることはあるまい。その力を結集する最も有力な方法の一つが事業協同組合であり、その今日的意義もやはりそこにあるということが、あらためて確認できるのではなかろうか。
                       

                     (協同組合法施行20周年記念入賞論文)

 

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