〔随想・他〕                               HOMEへ戻る

        「お売りするものは満足感、モノではありません」 
                             
(繁盛店'98.3)


 郊外大型店の進出・価格破壊・商店街の衰退・銀行の貸し渋り、小売商業をとりまく環境は厳しい。そんな中にあっても元気な店はあるし、儲かっている店も少なくない。

 自分は不動産関連のサービス業(土地・建物の目きき、値ぶみという情報提供サービス業)をなりわいとして県内外を飛び回っている。繁盛する店、にぎわいのある商店街、人かげまばらな街……、世の中は広いし、多彩だとつくづく思う。

 以下は個人的体験と独断・偏見による「商売」論。

○あたりまえのことだが、今は戦中、戦後のモノ不足の時代ではない。モノは家の中にも、店にも、街にもあふれている。こんな時代に、店にモノを並べておけば売れるものだと信じているとしか思えないやり方で商売をしている店が意外と多い。
こんな店主に売るのは「満足感」です。などといってみても分かってもらえるはずがない。

「売るのはモノではなくて、満足感」そう言い続けて30年、その裏付けの体験談。

○30年前に家を建てた。建売りの安普請だが、東京の知人から掛時計をお祝いに贈られた。当時としては最新型で、ネジを巻く必要もなく、正確で重宝していた。それが半年もすると止まってしまった。東京のデパートが発行した保証書はあるが困っていた。ダメでもともとと思いながら県庁前の「木村時計店」に持っていった。店主いわく、……「これは修理ができません。店にある同じ時計と取り替えましょう。」ニコニコ笑いながら即座に新品と取り替えてくれた。困って相談に来店した客に商品ではなく、大きな満足感を売ってくれたわけだ。この店が地域一番店として大いに繁盛していることはいうまでもない。

○浜通りの相馬で育ったので新鮮な魚には目がない。コープ・マート福島の新町店(鮮魚売場)。周りに飲食店が多く、業務用の需要が多いということもあるが、よくこれだけ新鮮で豊富な魚を並べているものだといつも感心している。

 さすがに、その日に仕入れた魚をその日に売り切るとまではいかないようだが、頑張っているのがよくわかる。

 鮮度のよし悪しなど、わからない時は迷わず高いものを買う。まずはずれたことがない。この店があるため福島の魅力が一層増したといってもいいすぎではない。

○ヨーク・ベニマル笹谷店のはす向かいに新鮮野菜市場という八百屋がある。その隣の美容院へ92才の母の手を引いてよく通った。送り迎えの2〜3分の間、車を八百屋と美容院の中間に置かせてもらうだけなのに、八百屋のお兄ちゃんが威勢のいい声で「ご苦労さまです!」と声をかけてくれる。なぜかその一言で世の中が楽しくなる。

 息子達にその話をしたら、笹谷の若者達の間でもその八百屋のお兄ちゃんは有名なのだそうだ。3回に1度くらいは店の中ものぞいてみる。品揃えも豊富だし、品質もいい。すすめられるままに2〜3品買って帰ると女房にほめられた。物も味もいいとのこと。自分は大きな満足感を買って帰ったことになる。満足感といえばお隣の美容院も技術を通してお客に満足感を売っているわけだ。                               
                            

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