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         アメリカ合衆国司法長官

ロバート・ケネディ氏に問う

 

−日本青年学生の公開質問状−

 

あなたは米国政府の司法長官として、また米大統領の実弟として、その米国政

府内における実力は広く内外に認められております。

 私たち日本の青年学生は、アメリカ合衆国の建国の歴史を学び、その自由を

尊び、独立を闘いとる崇高な精神にふれるたびに、大きな感激を覚えるものであ

ります。イギリス帝国の圧制と抑圧の植民地支配に対して、武器をもって立ち上

がり、世界史に不朽の輝きを放っている独立宣言のもとに、独立をかちとった、

アメリカ合衆国人民の闘いの伝統は、いまや、アジア、アフリカ、ラテンアメリ

カの諸国人民に受けつがれ、巨大なほのおとなって、世界を焼きつくそうとして

おります。

 しかるに、この自由と独立の輝かしい伝統をもつ、アメリカ合衆国が、今や、

世界諸国民の自由と独立の闘いを抑圧する勢力の先頭に立っているの感を禁じ得

ません。そしてこれこそが、世界の緊張激化の根本原因になっているように思わ

れます。

 私たち、日本の学生は、二十世紀の後半において、かつては世界人民の自由の

旗手であった、アメリカ合衆国の政治の任にたずさわるあなたに対して、率直な

疑問を提すると共に、再び、アメリカ合衆国が、自由独立の旗をその手ににぎら

れることを心から望むものであります。早稲田大学において青年学生と親しく語

られるこの機会に、私たち日本の青年学生は、あなたに、以下の事項に関して質

問し、あなたの率直な御回答を期待しています。

 

、さる2月1日、琉球立法院は第19回定例議会の開会冒頭に、アメリカは

沖縄の施政権を日本に返還すべきであるとの要請決議を満場一致で採決しました。

この決議は、「アメリカの沖縄支配が明らかに国連憲章に違反する不法なものであ

り、また第15回国連総会で採択された“あらゆる形の植民地主義をすみやかに

かつ無条件に中止させる“との植民地独立宣言にそむき、沖縄住民の意思に反し

て不当な支配がなされている」とのべています。沖縄百万の人民は、面積の半分

以上を米国軍隊の軍事基地として取上げられ、日夜、はかりしれない物質的、精

神的被害を受けています。沖縄県民はれっきとした日本の同胞であります。沖縄

県民の苦痛は、私たち本土の学生にとっても耐えがたい苦痛であります。沖縄県

民の祖国復帰の願いは、私たちすべての日本国民の願いであります。この一致し

た切実な要求に対しあなたはアメリカ政府を代表して率直に回答されたい。

 

、昨年夏以来日本各地で在日米空軍機による事故が続発し、各地で多くの被

害を出しています。例えば茨城県下においては米軍機が民家を砲撃した事件が最

近起こりました。このような事件は、貴国軍隊が我が国を占領して以来、かず限

りなく起こっています。このような事件が発生する原因は貴国の軍隊と軍事基地

が日本に今なお在留するという不正常な状態にあると私たち青年学生は考えます。

なお米政府当局の発表によれば25メガトンの水爆2個を積んだB52爆撃機が

日本に常時配置されているとのことでありますが、日本政府はこれを否定してい

ます。この日米政府間のくい違いについてあなたの責任ある回答を求めます。

 また現在の世界にあって真に平和を保障し、戦争を防ぐ道は、軍備強化や軍事

同盟締結にあるのではなく、世界の軍備を全廃し、軍事同盟を破棄し、この地球

上から戦争の道具を一掃することが現在最も重要になってきているとわれわれは

確信します。このような意味から私たち日本の青年学生は、日米安保条約に断固

として反対しましたし、現在でも、安保条約の破棄と、貴国軍隊の本国引上げを

特に強く要求しています。さらにこの精神は、日本国憲法前文にも」政府の行為

によって再び戦争の惨禍が起こることのないように決意し」として、さらに第九

条に「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発

動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段として

は、永久にこれを放棄する。前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力

はこれを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」として、成文化されてい

ます。この規定は、第二次世界大戦において、学業なかばにして「学徒出陣」を

強制され死んでいった、日本の青年学生の血をもってあがなわれたものでありま

す。私達青年学徒は、再び、「わだつみの悲劇」をくりかえさないつもりでありま

す。憲法に規定された「戦力」は自国、他国を問わず、あらゆる「戦力」の存在

を禁ずるものであり、日本自衛隊はもちろんのこと、アメリカ合衆国軍隊も含ま

れるものです。私たち日本の学生は、安保条約の破棄と貴国軍隊の本国引き上げ

によって、日本国憲法の、この平和的条項を完全に実現したいと考えております。

これを実現することによって日本の中立化と完全な独立が実現され、日本の平和

と安全がはかられるし、世界の平和にも大きく貢献するとわれわれは考えますが、

あなたはいかなる考えを持っておられますか。

 

、新聞報道によりますと「アメリカ政府はアメリカ共産党とその同調団体を

外国の手先として登録を強制するスミス・マッカラン法の適用にふみきり、登録

を拒否する者に対して1日1万ドルの罰金を課することを決定した」(10月24

日付朝日新聞)といわれます。1776年、G・ワシントンをはじめとするアメ

リカの偉大な先覚者たちがイギリス植民地主義に反対し、血みどろの闘いを経て

勝ち取ったアメリカの独立とその精神は何であったのか。独立宣言ははっきりと

述べています。「すべての人は平等であり、一定の譲ることのできない権利を有

している。これらの権利の中には生命・自由および幸福の追求が含まれている。

いかなる政府でも以上の権利を破壊する場合には、人民はこれを改廃し、その安

全と幸福とに適すると認められる主義を基礎として新しい政府を創立する完全な

権利を持つ」と。独立宣言を引用するまでもなくスミス・マッカラン法は合衆国

憲法に違反していると考えざるをえません。なぜならば、連邦最高裁判所におい

てスミス・マッカラン法は5対4のきわどい差で「合憲」の判決の下った、法律

的にも多くの問題点、疑問点を持つ法律だからです。

 アメリカ合衆国憲法修正第1条は「言論もしくは出版の自由、または人民の平

穏に集会する権利および苦痛の救済を政府に対して請願する権利を縮減する法律

を制定してはならない」と規定しています。アメリカ合衆国最高裁判所のダグラ

ス判事は「当裁判所は、今日、結社による罪(団体へ加入する罪)を法的に是認

して、なんら不法行為を犯していない個人を牢獄へ送ったのである。本日、伝統

的解釈が破られたことはきわめて重大な事柄であり、それは、全体主義的理念を

導入するものである」と述べ、さらに「本件において単なる信念を処罰したこと

は、修正第1条の従来の理念を犠牲にして、全体主義的理念に代わらしめたもの

である」として反対しております。ダグラス判事のみならず、ブラック、ブレナ

ン両判事、ウォーレン長官も最高裁判決に反対しています。さらに、マッカラン

法破棄の要求は、前コロンビア大学文学部教授ドロシー・ブルスター氏をはじめ

としてアメリカの多数の知識人の要求になっています。このスミス・マッカラン

法によるアメリカ共産党の実質的な非合法化に対して、イギリスの知識人が結集

して作った「アメリカの民主的権利を守る委員会」をはじめ世界各国の知識人、

文化人、言論界から多くの批判があなたに集中しています。

 あなたは司法長官としてこの問題の直接の、しかも最高責任者であります。あ

なたはこの批判に対してきたんなく答えていただきたい。

 

、あなたは昨年8月「西ベルリンの自由を守るためには核戦争も辞せず」と

の発言を公式の席上で行っていますが、現在の核戦争が人類になにをもたらすか

を十分承知の上で、十分考えた上での発言なのでありましょうか。

 ケネディ年頭教書によれば、「5千万の核防空ごう建設予定地が選択、決定を

みつつある」と述べ、防空ごう建設熱をあおっています。これに対して、先年の

11月10日、ボストン付近の大学教授180名が、反対の声明を新聞に出しま

した。サンフランシスコ地方でも8大学の教授538名が、同じような公開質問

状を新聞に発表しています。アメリカ知識人の行動に対して、核兵器の被害を貴

国によって、三度も受けた唯一の国である日本の国民は、深い共感を覚えます。

 もし現在でも核戦争も辞せず、核防空ごう建設を進めるという考えに変化がな

いのであるならば、われわれ日本人はあなたに対し断固として抗議し、その危険

な考えと発言をただちに撤回するよう強く要求します。

 さらに、日本の戦争前の経験から考えて、戦争準備と民主主義的権利の抑圧と

はいつも裏と表の関係で進行するようです。以上のような、貴国の戦争準備と、

アメリカ共産党の事実上の非合法化をはじめとする、民主主義の抑圧とは、何ら

かの関係があるとあなたはお考えになりますか。

 

、昨年4月発足まもないケネディ政権の司法長官として、あなたはCIAを

使い、キューバの亡命者を雇ってキューバ人民共和国に対する武力干渉を行った

ことは世界周知の事実です。

 これに対し、あなたは責任をどのように感じておられるのであるか。また、先

日米州機構会議において、米国政府は、ブラジル、アルゼンチン、メキシコなど

6ヶ国の反対にもかかわらず、キューバの追放を強行していますが、これはキュ

ーバ人民共和国に対する内政干渉と考えられます。あなた及び米国政府は、他国

がその住民の意志に基づいてさまざまな政治制度に基づく国家を建設することに

同意できないのでありましょうか。

 

、アメリカ政府は、住民の支持を全く失っている南ベトナムのゴ・ジンジエ

ム政権、軍事クーデターによって成立した南朝鮮のファッショ的な朴軍事政権、

中国人民から見放された台湾の蒋介石政権をそれが反共政権であるからといって

支持する方針なのでありましょうか。1960年4月、李承晩独裁政府を倒した。

南朝鮮の学生たちは、いま政権のもとで獄中に、苦しんでいます。わたくしたち

日本の学生にとって、「祖国統一」「平和中立」の彼らの要求は当然だと思われま

す。「自由主義体制」を守るためには、自由を抑圧することもやむを得ないことな

のでしょうか。また、先日のUPI通信はサイゴンからの報道として南ベトナム

での戦闘にアメリカ正規軍が、直接参加していることを報じています。これがも

し事実であるならばアメリカ政府は民族解放闘争に公然と干渉する方針を決定し

ているのでありましょうか。これは、諸国民の独立を保障したアメリカ独立宣言

といかなる関係にあるのでしょうか。あなたの責任ある回答を求めます。

 以上6項目についてあなたに質問いたしますが、これらはいずれもアメリカ政

府の実力第一人者であられる司法長官ロバート・ケネディ氏が早稲田大学で行う

講演会で、日本の青年学生に直接答えていただきたい事項であります。

 あなたの誠意ある回答をお待ちしています。

1962年2月6日

 

アメリカ合衆国司法長官ロバート・ケネディ殿

 

            明治大学二部学生自治会、三多摩学生自治会協議会

            明治大学商学部学生自治会、早大第一文学部生自治会

            東京都立大学学生自治会、早大教育学部学生自治会

            東京大学文学部学友会、早大第一政治経済学部学友会

                                  

 

 

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