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不動産仲介業界三つの未来

2004−1−10

 

 欧米では企業や団体、国家などが未来を予測し、長期戦略を立てる時にシナリオプランニングという手法を用いることが多い。

その手法にもとづいて、仲介業界の三つの未来についてシナリオプランニングをしてみました。

 

 

 〈ステップ1〉

 

仲介業界の将来を考える上での関心事、懸念されることがらの洗い出し

 

@ 業界を支えている今の存立基盤は何か

 

→ 免許制度・宅建業法により成り立ち、守られている。

→ 国民生活・経済活動の基盤である土地・建物を扱う仕事であること。

(日本経済に占めるボリュームと比重の大きさ)

→ かつて土地神話・一億総不動産業者といわれた時代があり、その余熱がのこっていること。

→ 大手デベロッパー、中小(地方)デベロッパー、地域密着型デベロッパー、仲介・管理業の

すみ分けがなされていたこと。

→ 物件情報の量・質の面での格差に加えて、業界事情や取引経験の面でも、仲介業者と顧客の

間では大きな格差が存在すること。

→ 大手仲介業者が、そのブランド力・信用力を背景にして、売り客・売却情報を囲い込み、

両手数料ビジネスが成り立っていること。

→ インターネットが普及し、検索エンジンが進化したことにより、多額の広告宣伝費を

使わなくともホームページ中心の営業活動が可能になったこと。

→ 売買・賃貸ともに、取引は個別事情があり、トラブルを防ぐには専門家のサポートが必要。

仲介業者はこの役割を果たすことが有力な存立基盤となる。

 

 

 

 

 

 

 

A 存立基盤の変化はどのように起こるのか

 

→ 免許制度・宅建業法

     短期的変化(5) ……ネットによる重説の普及

             ……有資格者比率の強化

             ……両手取引への規制強化

     中期的変化(10)……全員有資格者化(?)

             ……TPP批准による両手取引の原則禁止

     長期的変化(20)……規制緩和か規制強化かによって、制度・業法は大きく変化する。

 

→ 土地本位経済の比重低下

  短期的変化……日本経済に占める土地の比重の低下傾向は進む・土地取引件数は減少傾

向が続く。

     中期的変化……日本経済に占める土地の比重が現在の1/2程度になる。

     長期的変化……土地の比重は現在の1/3になる。

 

→ 土地の需要・物件の買い手・借り手の変化

     短期的変化……土地価格は低下を続け、土地の需要は減少を続ける。物件の借り手は数

では横ばいだが、グレードの高いものを求めるという質的変化が進む。

          ……消費税の10%課税で、中古住宅の取引は増加し、仲介業者の仕事は増え

るが、買取業者にとってはマイナスの影響がある。

  中期的変化……土地価格は1/2まで下がり、土地需要は二極分化がはっきりする。

           取引件数は全体として減少する。賃貸物件も二極分化がはっきりする。

  長期的変化……利用価値のある土地だけが取引され、不動産活用・土地利用のノーハウを

持つ者だけが取引に参加し、生き残れる。

 

→ 大手・中小(地方)・地域密集のすみ分けの変化

     短期的変化……すみ分けの境界を越えて連携や競争が激化する。

          ……家電量販店・工務店などが、リフォーム仲介を武器として割り込んでくる。

  中期的変化……インターネットを活用した連携・連合が進み、特色のある業者、強い地

域、強い業種、独自のノーハウを持たない業者は生き残れない。

  長期的変化……秀れたソフトを開発したネットワーク、客の囲い込みに成功23

ネットワークとその系列のみが生き残る。地域密集型で特色のある業者は

生き残る。

 

 

 

→ 物件情報の伝達手法の変化

     短期的変化……インターネット活用が進み、インターネットの波に乗れた業者と乗り遅れ

た業者の二極分化が進む。

 中期的変化……インターネットによる全国規模の不動産情報の登録と閲覧のシステムが

実用化され、誰でも物件情報を正確に、早く、くわしく、周辺環境まで

含めて手に取るように分かるようになる。いわゆる客担専門の業者は、

専門性・特色を持たなければ存在理由がなくなる。

 長期的変化……物件情報を持っているだけで仲介業が成り立つ時代は終わり、インター

ネットの普及により物件情報伝達のコストはゼロに限りなく近づく。

 

 

〈ステップ2〉

 

一般的に考えられている仲介業界の将来像の確認

 

@ 楽観的な見方

 

→ 土地価格の下落もやがて底を打ち、ゆるやかな上昇に転じる。土地の日本経済に占める比重

は大きく、土地本位制は変わらない。取引件数も上昇に転ずる。

→ わが国の財政破綻懸念からインフレ期待が高まり、インフレヘッジ資産としての不動産に資

金が集中する。仲介業者にとっては追い風となる。

→ 仲介業は情報産業であり、これから伸びる産業分野に属しているので将来像は明るい。 

 

A 悲観的な見方

 

→ 土地本位制、土地神話の復活はありえず、売買の取引件数は漸減する。

→ 土地価格が1/21/3になり仲介手数料も3%は取れなくなる。

→ インターネットを活用した他の業界からの新規参入者により仲介業界がガラリと変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈ステップ3〉

 

ドライビングフォースを探す

 

 仲介業界の未来に作用する重要な力、いわゆる「ドライビングフォース」は何かを検討する。

 

→ 不動産仲介業者と消費者の情報格差・経験格差が最大の存立基盤であり、仲介業経営の

ドライビングホースであったが、この「格差依存」経営がインターネット普及で大きく変化

することを直視し、対応策を考えぬく業者だけが生き残れる厳しい時代となる。

→ 経済、政治、社会、技術等の変化、改革を受け入れ、対応できるか否か

 ……今、世界経済はグローバリゼーションとインターネット革命という大変動期を迎えて

います。幸い、ドメスティック産業(国内限定業種)の代表格であるわが国の不動産仲

介業は、国際化という荒波の影響は今のところ直接的には受けていません。しかし、TPP

交渉のフタを開けてみたら、物件情報の全面公開、両手数料取引の原則禁止といった、

仲介業界にとっての「黒船」が現れるかもしれません。

 

      さらに加えれば、インターネット革命という時代の大潮流、世の中の大変革に直面し、

仲介業者はその営業戦略を根本から変化させていかざるを得ない立場に立たされていま

す。

 

      好きか嫌いの話でなく、得意とか不得意のレベルでもありません。時代が、世の中が、

情報発信・受信の手段が、インターネット中心に根本から変わったのです。この認識を

誤り、従来の集客手法にこだわり、インターネット時代にふさわしい営業スタイルを生

み出せない仲介業者は、10年後には確実に淘汰され、世の中から消えていくことでし

ょう。

 

      戦略的な用語でいえば、不動産仲介業はインターネット革命という外部からの挑戦を

受けている真っ最中です。この挑戦に対して、真正面から受けとめて「応戦」する気概・

勇気を持たない業者は戦場から消える運命にあるわけです。

 

→ 仲介業界がどれだけ外に開かれた社会であるか否か

→ 経済状況の変化の度合い、変化への適応力があるか否か

→ 少子、高齢化の深刻化の度合いとそれへの適応力があるか否か

→ 日本人の土地に対する伝統的な価値観の喪失の度合いとそれへの適応力があるか否か

→ TPPの影響を度外視しても、いずれ、米国並みに「両手禁止」がわが国でも制度化される

可能性が高い。これは、考え方によっては、仲介業界繁栄のシナリオとなり得るので、その対

応策に今から取り組んだ業者は勝ち組になる。

 〈ステップ4〉

 

初期シナリオを探す

 

「これこそ仲介業界の将来を左右する」というドライビングフォースは何かを考えぬくと、

この業界が典型的な情報産業でありながら、情報の密室性、地域性、偏在性等を強く残しつつ、

これらによって支えられていることが分かる。また、かつての土地本位制、土地神話の存在もこの業界を支えていた。

仲介業界は、経済状況・社会状況に全面的に影響を受け、依存していたことが分かる。

よって、経済状況の変化、国民生活の変化、情報環境の変化(インターネットの普及とその影響)を主因として

三つのシナリオを想定する。

 

 超繁栄のシナリオ

 

 赤字国債大増発、震災復興・国土強靱化計画などの公共事業超大盤振舞が続き、日銀が国債の大量引き受けを続ける。

地価は底を打ち、日本経済はインフレの時代を迎える。

  インフレヘッジ資産としての土地は上昇を続け、土地本位制、土地神話は復活する。不動産業界は大繁盛、

バブル時代の再現となるが・・・・・。

 

 危機を契機に日本経済が再生し、不動産仲介業界も質的変化をとげるシナリオ

 

 日本政治が指導力を発揮し、土地、住宅税制の大改革(不動産取引に伴う障害的税制撤廃、住宅ローン利子の全額税額控除等)

アベノミクスの全面展開・完全成功で日本経済は活力を取りもどす。若年労働力不足を補うため、

外国人労働者も年間100万人単位で受け入れ、不動産も買い手市場から、売り手市場に変化する。

 

 環境配慮型経済の考え方が広まり、中古住宅は取りこわすのではなく、

リフォーム・リノベーションにより耐震性の高い住宅に生まれ変わる。

インターネット・モバイルが1人1台の時代になり、誰にでも使えるようになり物件を右から左に紹介するだけの仲介業は苦戦する。

仲介業界も二極分化が進む。地域密着型の業者は、一層地域密着傾向を強め、コンサル能力を高める。

つまり土地の神様と話をする(現場に何度も足をはこぶ)ことから始めて、開発計画、利用計画を考え、

お客のニーズに応えて他業種の専門家等の知恵やネットワークを生かしていける、キーパーソン・仕掛人となる。

一方、インターネット全面依存型、活用型の業者も一つの流れを作る。

インターネットはコスト、使いやすさ、普及率の面で飛躍的に発展し、仲介業界のあり方を根元から換える。

 

消費者もネットを活用した物件選びから、ネットを利用した仲介業者選びへと大きく進化する。

お客さまに選ばれるという基準で、ホームページの差別化ができない仲介業者やチラシ依存型の業者は苦戦する。

 

 日本経済はデフレの坂をダラダラと下りてゆき、ついには平成大恐慌となるシナリオ

 

 アクセルとブレーキを交互に踏む経済運営が続き、地価も底を打たない。

賃貸の成約数は大きな変化はないが、売買件数は減少傾向が続く。

 

そんなある日、中国のシャドーバンキングシステムが破綻し、元安・円高が進行する。

日本の輸出産業は大打撃を受け、平成大恐慌に突入。 土地取引は激減し、廃業する業者が続出する。

仲介業界の二極分化が急速に進み、地域密着路線とインターネット活用路線を併用した業者は業績を大きく伸ばす。

一方、インターネット活用型に特化した業者もそこそこの業績を上げていくが、競争が激しいので生き残りをかけた競い合いが続く。

キーワードは「顧客と一緒にいる」の一言。この言葉の意味を考えぬき、実行した者だけが勝ち組みとなる。

 

  

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