〔随想・他〕
                                     
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             手帳を秘書として使う       
                      
                          
(原題は経営者の自己管理手法)
                                               
(商工ふくしま’74.5)


○タリヌ、タリヌハ工夫ガタリヌ
 石油不足、電力不足、資材不足、人手不足、資金不足…と、足りぬ、足りぬの時代に入ったかにみえる昨今、「タリヌ、タリヌハ工夫ガタリヌ」など時代がかったことをいっては、読者諸兄のおしかりをうけるかもしれないが、やはりくふうはしてみることにこしたことはない。以下に、能力、経験、ともにタリヌ我が身をもかえりみず、二、三のくふうを披露してみたい。

○トップはつらい
 おか目八目などともいうが、とかく隣の芝生はよくみえるものだそうで、はたの目からみると中小企業の経営者は資金繰りと売上(生産)に目を配っていれば、あとはゴルフに興じていられるよい身分にみえるものらしい。ところが経営者自身は、自分はこの世で一番忙しい人間で、ひとの三倍ぐらいは働いていると信じている。資金ぐりに心を配り、生産や売上に目を配るぐらいのことはだれでもやっていることであって、情報化時代ともなれば、朝、目をさまして床の中で新聞を手にした瞬間から、世界の経済情勢、市場の動き、業界動向と、その情報活動は開始しているのである。はた目からはゴルフや酒のみにしかみえないことも、情報活動というレンズを通してみれば、同業者や取引先との情報交換、情報収集ということになる。まして未来を先取りした積極的な経営を目ざすトップにとっては、まず豊富な情報集めが基本であり、そのためには金と時間を惜しんではならないということになる。せっかく金と時間をかけて集めた情報もフトコロであっためておくだけでは宝のもちぐされであって、これを経営の長期計画、経営戦略を立てるためにフルに活用してこそ情報も生きてくるというものである。情報洪水とか情報爆発とかいわれる今日、情報の質を見分けそれを生かして使うということは情報管理のポイントであるが、これもトップの仕事の一つに加えられよう。
 
 さて、朝刊を読み終わったあとは、朝食をとりながらもテレビのニュースに耳をかたむけ、「新時代の中小企業」などをみながら、情報収集おさおさおこたることなかれ…ということにあいなる。「親が死んでも食休み」などといっていたのは昔のことであり、現代のトップには通用しない。朝食も早々に社にでむけば社長訓示というやつがまちかまえている。最近では民主化?されて朝の会などと称して管理職や一般従業員が持ちまわりで話をしたりするのがはやっているようだが、やはりトップたるものときには「大所高所」に立った次元の高い話もしなければなるまいし、ガクのあるところも示しておかないと、かんじんなときにおさえがきかなくなろうというものだ。昔はこういうのを「親方のいっとき力」などといったらしいが、いまでは本当に「実力」のあるところをチラリとみせるあたりがむずかしいところらしい。
 
 情報化時代ともなれば会議はふえる一方である。会議だおれなどという悲鳴も聞かれるが、トップたるもの会議の場こそ日ごろの情報活動の蓄積を存分に発揮し、リーダーシップを示さなければなるまい。これもゆきすぎるとワンマン経営となり、「社長がいないと仕事にならない」といった問題もおきてくる。事業が拡大し、仕事がふえてくると、企業活動はどんどん多様化し、トップ一人では切り回せなくなってくる。日ごろから組織を整備し、責任体制を明らかにしたうえで、効率的な会議を行っていればそんな事態にはならないはず、というのは原則論だが、これを実行するのもトップの責任である。この程度はトップとしてはまだ序の口であり、仕事の目標を示して部下をリードし、その意見をよく聞き、公平に扱い、公私のけじめをつけてよく気を配り、ときには内部の抗争・対立を調整し、ときには率先垂範ということにあいなる。
 
 この程度で、「サーテ、一ぷく」などとはいっておれないのがトップのつらいところ、中間管理者の育成から後継者作り、週休2日制対策から労組との賃上げ交渉、国際化時代ともなればカタコトの英語ぐらいは習って海外視察、…かぞえあげればきりがない。
 

○大企業のトップは秘書を活用する
 まあ、ざっとならべただけでもこのぐらいはでてくるわけだから、並のサラリーマンの三倍は働くというのもうなずけよう。こんなとき大企業のトップは才色兼備の女性秘書など使って、ゆうゆうとスケジュールをこなしていくらしいが、悲しいかな中小企業、美人秘書なぞカネのワラジでさがしてみてもみつかりそうもない。たまたま適材をみつけ出したとしても、ヤマノカミのお許しが…とあいなる。エーイめんどうだとばかり自分で片ったぱしからなんでもガタガタこなしていくことになりがちで、そうなるとトップに最も必要とされる冷静な判断、システム的思考などが所在不明となり、チェック機能がマヒして第二の奥村彰子事件などということにもなりかねない。まあそれは大げさだとしてもトップたるものあまりガタガタばかりしてはおられまい。対外信用にもひびくし、それでは社内の人材も育たなくなる。ついには会社そのものにガタがきて…、などとならぬよう、ここは、はやる心をぐっとおさえて、まずは一ぷく。 

                                                 

○美人がダメなら手帳がアルサ 
 サーテ、美人秘書ものぞめないとなったら、いよいよ残るは最後の手段、こしぎんちゃくならぬ、シリのポケットに鎮座まします手帳でもシリにしいてコキ使うほかに手はないということにあいなる。つまり、大企業のトップは秘書を使って「自己管理」を行っているが、中小企業では文字通り自分自身の手で「自己管理」をしなければならないわけ。「ポケットに秘書」「手帳はあなたの個人秘書」とは、手帳メーカーのCMだが、たしかに手帳は使いようによっては有能な秘書を雇ったような効果を発揮する。しかしこの秘書氏、スペースの制約で必ずしも思いどおりに働いてくれないのも事実である。ところが以下にのべるような手法により、スペースの制約がなくなるのでその用途は無限のひろがりをもつことになり、手帳秘書氏もその能力をフルに発揮できることになる。こうなると「スペースがないので…」などと秘書氏の能力不足にかこつけることはできなくなる。秘書氏の能力(スペース)は十分にあるのであり、その能力を引き出し、活用するのは文字どおりあなたの手腕にかかってくるからである。
 
 ところでその活用法であるが、使用する手帳は細身のA6版(7.5p×14p)程度のごくありふれたもので十分である(これを年3〜4冊使いきることになる)。  
 
 この一見平凡な手帳秘書氏の能力をいかにしてフルに活用するかであるが、年間予定欄はごく常識的に計画や予定事項を、目に触れたとき、思いついたとき、なんでも書き入れる。要は、頭の中から予定事項という煩雑な記憶を追い出して、それらを予定欄のメモに任せきることができれば、この欄の目的は達せられたことになる。
 
 問題は日記欄、メモ欄の使いかたである。日記欄の日付が空白になっていれば申しぶんないが、市販の手帳はたいてい日付がついているので利用法に大きな制約を受けるわけだが、この日付を無視して使うことによりスペースの制約から解放される。(この既存のワクにとらわれないというあたりが、さきごろ流行した水平思考というヤツですゾ!!)
 
 まず、印刷されている日付などに関係なく、その日の日付を4/26(金)といったぐあいに書きこむ。
 
 つぎに手順の第2として、その日の予定事項をすべて書きだす。これは、

 1.○○氏来社AM9:20
 2.□□氏電話
 3.△△社訪問PM1:00
 4.××会議AM11:00
    イ.資  料
    ロ.展開予測
    ハ.ポイント
 5.・・
 ・
 ・

 といったふうに予定事項に番号をつけて、頭にうかんだ順につぎつぎと書きだす。仕事の途中で思いついたこともどんどん追加する。そのさい、年間予定欄のその日のメモもすべて日記欄に転記することはむろんである。普通、年間予定欄からの転記事項が3〜4項目、前日の繰越事項が1〜2項目あるはず。さらに、その日の仕事の展開、処理すべき公私にわたる雑事などに思いをめぐらせば、10項目ぐらいはすぐに書き出せる。印刷されている日付、ワクに関係なく手帳を使うのであるから、スペースには十分余裕があり、公私にわたることがらをなんでも書き出す心構えが特に大切である。
 
 その日の予定事項を書きつくしたならば、その日のポイントとなる重要な仕事については、その手順、展開について考えぬくつもりで、その項目にメモをしながら十分に分析・検討を加える。これは、後でもふれるが、あたかもOR(図上作戦)の個人版・簡易版を実施したような効果を発揮することになる。
 
 手順の第3として、下から2cmぐらいのところに、2ページにまたがる横線を引き、それを時間軸としてリストアップされた予定事項を重要度、緊急度などを考えあわせて割ふる。そのさい、予定事項は文字で記入するのではなく、その番号だけを○で囲んで記入する。時間目盛りはその日の仕事のペースにあわせて適当な間隔で書き入れる。(ここまでの操作は、朝、職場につく前に終わるようにすると、その日は快調なスタートができる)これを例示すると次のようになる。

 

   

 

 ただこれだけのことであるが、ここからあたかも有能な秘書を雇ったかのようなメリットがでてくる。すなわち、仕事は万事あなたの心配のないようになっていますよ、という印象をこの手帳はいつも与えてくれる。それだけでなく、多種多様な毎日の仕事を、順序よく、スムーズにさばいてくれる。おかげで本人は煩雑な細かい仕事に神経を使うことがなくなり、ほんらいの仕事に思考力、判断力を集中できることになる。つづけて、その使いかたを手順にそって4〜11まで説明するが、そこまで徹底すると、この手帳秘書氏ホンモノの秘書以上に効用を発揮することうけあいである。

 4.会議メモ、用談メモなど日付順に記入していけるものは、つぎのページから使っていく。(このばあいも、印刷されている日付などに関係なく使うわけだから、スペースに制約はない)

 5.研究事項、アイデアなど記入月日に関係なく一ヶ所にまとめたほうがよい事項は、手帳の末尾のページから前に向って使っていく。

 6.1冊の手帳を3ヶ月程度で使いきるわけだから、年間(月間)予定欄に不用のページができる。そこは、繰越事項、購入予定、未処理事項などのいわば懸案事項の記入欄として使う。ヒマをみてこの欄に目をとおして、年間予定欄か、手順の2でのべた実施予定リストに転記する。

 7.その日に終了した事項は予定リストの番号に斜線を引く。やり残した仕事は(チェックマーク、転記ずみの記号)をつけて年間予定欄のしかるべき日に繰越すか、日が定まらなければ懸案のリストの繰越事項欄に転記する。

 8.このままでも業務日誌の個人版として十分であるが、さらに、その日に特に考えたこと、感じたことなどを記す。これで、行動と思考の記録、すなわち日記として完全なものになる。

 9.手帳を使いきったところで(フルに使えば、普通3ヶ月程度で1冊の手帳を使いきる)、各ページを再度チェックし、年間予定欄および懸案リストの未処理の項目を新しい手帳に転記する(この作業は、充実感・満足感を十分に味わうことのできる手帳操作の中で一番たのしいひとときである。)その際に住所録・電話録も付けかえる。

10.アイデア・研究事項など分類・保存の必要度の高い事項は、カード類に転記し、後日の利用に備える。

11.ここまでの処理が終わった手帳は、表紙に使用期間を記入したラベルをはりつけて保存する。

 以上が手帳を秘書として使いこなす手法の基本である。ただこれだけのことであるが、この方法を実際に行ってみると、自分でもおどろくほど仕事の能率が向上する。それもそのはず、ヤル気十分なあなたが、有能な秘書をはだ身離さずつれあるき、バリバリ仕事をこなすのだから並の人間の三倍働くこともあながちウソではなくなろうというものだ。

 次に、その応用編および効用について、紙数の制約上その項目だけをのべる。しかし、読者諸兄が実際にこの手法を使ってみれば、その内容はおのずから体得できよう。

                                                 

○手帳の二大機能とその効用  
 手帳と二大機能といったばあい、記録の手段としての機能(記録性−メモ的・過去保存的・静的機能)と予定表としての機能(予定性−スケジュール的・未来予測的・動的機能)の2つが考えられる。このうち記録的機能の活用法については、手帳を使っている人にとっては、いわば日常茶飯事でもあるのでここでは省く。ただ、その記録性を最大限に引き出したとき得られる効用について、項目だけを記す。

 1.安心して忘れることができる。
 2.心にゆとりができる。
 3.脳のはたらきが活発化する。
 4.自己の客観化ができる。
 5.思考の代用・節約となる。
 6.アイデア発展の手段として活用できる。

 手帳のもう一つの機能である予定表的機能が最大限に発揮されたとき、はじめて、時間管理、日程管理が完全に実行できる。これはビジネス手帳にとって欠くことのできない要素であるが、この方式はそれを可能にしている。さらに、スペースにゆとりがあるために、予定事項のリストアップとその時間配列のさいに、そのページを舞台としてORの各手法(簡略化されたもの)が展開できる。すなわち、予定事項のリストアップはブレーンストーミングの一種といえるし、仕事の展開を頭にえがきながら、そのポイントを前もっておさえることはシュミレーターの活用と原理的には同じである。さらに、仕事の手順を考え、それを計画化することはPERT(日程計画法)の応用となるし、一日という限られた時間をいかに配分し、仕事をやりとげるかという意味ではLP(リュアープログラミング)の時間版であるともいえる。むろん、予定事項すべてにOR手法を適用することはムリであるしムダでもある。その日のポイントとなる重要な仕事についてだけで十分その目的は達せられる。ともかく、「経営管理の魔術」ともいえるORの各手法を意識して使うことにより、自分がまるで別人になったかのように仕事の処理能力が向上したことに気づくはずである。

 このようにして手帳の予定表的機能があますところなく発揮されたとき得られる効果は次のようなものである。

 1.その日の仕事の重点とそのカンどころがらくにつかめる。
 2.仕事にムリ、ムダ、ムラがなくなる。
 3.積極性・行動力・集中力が身につく。
 4.とりこぼしがなくなる。
 5.自己管理の効果的な手法となる。
 6.守備範囲を広げることが苦にならない。

 以上のような効用に加えて、記録性、予定性の二つが相乗された効果として、次のような「精神衛生」上の作用がみとめられる。

 1.全力投球のあとの充実感(健康的な疲れ)。
 2.頭の切りかえ、気分転換が自然にできる。
 3.気(心)を使わずに頭を使うテクニックが身につく。
 4.仕事量の圧迫感をなくすことができる。
 5.頭を常にクールにしておける。
 6.おちつき・自信が自然に得られる。

 以上、私なりに考え、実行してきた手帳活用法について、その要点のみをかけ足で記してみた。この程度のことは、だれでもが考え、実際に行っていることだと思われるので、拙稿をたたき台として諸者諸兄が自らの流儀を生みだされ、情報化時代・知識の集約化時代をのりきられることを期待して駄文を終ります。                                
                                             (中小企業判断士)
                              

 

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