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デフレVSインフレ・トレンド・ウォッチャー

 

 

「白川・日銀」はルビコン川を渡るか

 

「日銀が国債を買えばデフレから脱却できる」というのは幻想

 

VERDAD 2012.5

 

・・・4月6日早朝、野田佳彦首相と日銀の白川方明総裁が、都内のホテルの一室で

向かい合った。2月15日以来2ヶ月ぶりのサシでの会談だが、この間に

2人を取り巻く環境は様変わりしていた。

野田首相は、政治生命を賭けると宣言した消費税増税関連法案が

審議入りの目途すらたたず、連立を組む国民新党の分裂が決定的になっていた。

一方の白川総裁は、残る任期1年というラストランを前に審議委員2名が空席という

異例の事態に直面していた。窮地に陥った者同士はこのとき何を話し合ったのか。

 

・「日銀券ルール」から逸脱

 

・・・日銀は2月14日の金融政策決定会合で、それまでの「物価安定の理解」に代わり、

「物価安定の目途」を導入し、消費者物価指数の前年比上昇率1%が見通せるまで

強力に金融緩和を推進していくことを表明。同時に10兆円の長期国債(残存1〜2年)

の買い入れ増額(総額65兆円)を決定した。この実質的なインフレターゲットと

長期国債の買い入れ増額を、市場は「バレンタイン・サプライズ」として好感。

その後は円安、株高が進行し、それまで9000円前後で推移していた日経平均株価は

3月9日、7ヶ月半ぶりに1万円台を回復した。

しかし、この日銀の追加緩和策をめぐっては、日銀OBをはじめとする関係者から

懸念の声が噴出した。

たとえば元日銀審議委員の田谷禎三・立教大学特任教授は「日銀が定める

国債買い入れの『銀行券ルール』を実質的に逸脱する可能性が高い。

日銀の金融政策は『財政ファイナンス』に近づいている」と指摘。

今回の日銀基金による10兆円の長期国債買い入れ増額は、日銀券ルールの

対象外とはいえ、これを含めれば、年末までに日銀の長期国債保有額は

銀行券発行残高を上回る計算になるとして、「日銀が一線を越えた」と批判した。

元日銀理事の平野英治・トヨタファイナンシャルサービス副社長もこう懸念を表明した。

「日銀がデフレ脱却の意思を示して国債を買えば、円高修正が進み、デフレから

脱却できるという、ある種の幻想を助長してしまった。これはきわめて残念なことで、

日銀はルビコン川を渡ってしまったようにも見える。

日銀の国債購入額が国債増発額とほぼ同じ額になったことは、『財政の貨幣化』という

未知の領域に踏み込んだと受け止められかねない」

こうした有力OBの声を白川総裁はどう受けとめているのか。

 

・唯我独尊は許されないが…

 

・・・一方、日銀が実質的なインフレターゲットに舵を切った背景には、

米国の動向が関係している。米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は

1月25日、2%のインフレターゲットを導入するとともに、政策担当者による

数年先までの政策金利の見通しを初めて公表した。

「ヘリコプター・ベン」(デフレ時にはヘリコプターから現金をばら撒けばいい)

と渾名されるバーナンキ議長は、就任当初よりインフレターゲットの導入を提唱していたが、

それがようやく実現した格好だ。FRBにとっても歴史的な一歩である。

 

        ・・FRBがインフレターゲットを導入し、さらなる金融緩和に踏み込もうとしているなか、

日銀だけが唯我独尊を決め込むことはできない。米国が金融緩和を一層進めれば、

ドルの下落、円の急騰は避けられないからだ。2月14日の日銀によるインフレターゲットの導入は、

1月のFRBの決定に準じた動きと理解できる。

 

・官邸幹部の本音

 

・・・日銀の対応について、官邸の幹部に匿名を条件に聞いた。

―――2月14日の日銀の追加金融緩和をどう評価する。

「タイミングがよかった。それまでの物価見通しに関する『理解』を『目途(ゴール)』

に変えて1%程度と公表し、実質的な物価目標政策を採用したのは、

FRBの後追いといったら語弊があるが、インフレターゲティングでFRBと平仄を合わせた。

私自身は、この決定がそれほど大きなインパクトを与えるとは思っていなかったが、

結果として円安に振れ、株価も上昇した。そうなると、日銀がもっと量的緩和をすれば、

デフレからインフレになり、株価も上がり、円安に振れるんじゃないかという話になってくる。

ある意味、危惧している」

 

―――ゼロ金利政策が続いていることについては。

「ゼロ金利は、はたして好ましいことなのか。たしかにゼロ金利でしか

生きていけない企業があるのは間違いない。ぬるま湯をつくっているわけだが、

ではゼロ金利と量的緩和政策で企業が資金を借りるかといえば、

ますます借りなくなっているように思える。

マネタリストの人たちには、いまの金融緩和は不十分と見えるかもしれないが、

いま以上に緩和しても効果はさして変わらないのではないか。

緩和しても、その分は国内で投下されずに海外に流れ、海外の資源などの

価格を吊り上げ、むしろ日本にマイナスの影響をもたらす。

ゼロ金利から脱却する方が先ではないか」

―――日銀もそう思っている?

「2月の政策決定会合で日銀が変わったという人もいるが、そんなことはない。

日銀が本気で量的緩和にウェイトを置いているとは思えない。

マネタリスト的な考えが通用しなかったのははっきりしている。

日銀はオーソドックスな政策スタンスを堅持していると思う。

マネタリズムに迎合することはないだろう。

日銀には金利機能を復活させることが求められる。ゼロ金利以降この間、

日本の消費者がとり損なった利息収入は、計算の方法によれば200兆円にも達する。

AIJ投資顧問の事件もそうした背景から、予定利率を確保するために無理をした結果といえる。

金利機能が発揮されなければ、資本主義経済は成り立たない。

ゼロ金利から脱却することが重要だと思う」

 

・燻る日銀法改正論議

 

・・・与野党のなかには、日銀法を改正し、政府・日銀が一体となってデフレ脱却に向け

強い施策を打っていくべきだとの意見がある。「政府・日銀が一体」と表現はソフトだが、

実態は、「現在の日銀法では日銀の独立性があまりに強いので、

日銀法を改正し、政府の施策に日銀が隷属できるようにすべき」という強硬論である。

日銀に対し「もっと国債を購入し、財政を下支えしろ。紙幣をどんどん発行して

インフレ期待を高めろ」と言っているのに等しい。政府が日銀の独立性を浸食する

ということだ。

 

・ポスト白川でも駆け引き

 

・・・4月6日の野田・白川会談は、消費税増税法案が頓挫した場合、

市場のアタックを受けて国債が暴落しないよう、日銀がさらなる追加緩和策に

乗り出すよう求める政府側の思惑と、ポスト白川人事で、日銀プロパーに

つなげたいとする日銀側の思惑が微妙に絡んだ、まさに密談だった可能性が高い。

 

・この記事についての本音言三のヤブニラミ解説

 

15年以上にわたり長期金利が2%を下回るという「前人未踏」の世界の先頭

を走っている日本経済のカジ取りについては、文字通り、無人の荒野を行く覚悟が

求められているわけです。

 

誇り高き日銀マンとしては、時の政権の意向で、通貨の番人、金融政策の

責任部署の役割を放棄するがごときことは、職を賭してでも阻止したいのが本音でしょう。

 

特に、歴代の政権が、指導部としての役割をほとんど果たしてこなかった歴史を

直視すれば、その思いは強いのではないでしょうか。

 

日銀に「大転換」を迫るのではなく、自らの責任と覚悟で、金融政策も含めて、

歴史に全責任を負う国家指導部の出現が求められている気がしてなりません。

 

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