夫の遺品を整理していると、「秋声探求の跡、野川友喜の形見」の包が出てきました。
これは、野川七十歳、十年前のことで、「このコピーは、金沢の近代文学館に寄贈してある。俺の形
見だ。しまっておいてくれ」と、渡してくれたものです。
いま、その紐を、ほどいて見ると、貴重な資料の集積でした。
ひとりの作家に、よくぞここまで惚れ、打ち込めたものと感銘しました。
秋声探求に、朝日新聞社を退社し、命をかけて<当時は売血までして>やったと聞く、そこまで野
川を虜にした秋声とは……。
私は徳田秋声のことは何も知りませんが、野口冨士男様は、序文の中で<秋声研究の扉の鍵>とま
で云ってくださっている。
その野口様も、すでに故人となっておられます。序文まで戴いており、きちんとした形に残してお
きたいと、出版を思い、「はしがき」にありますように、コピーの一部を託していた、野川の文学仲間
木下信三様に、その意向を伝えますと、校正は全面的に手伝いますと、快諾くださいました。
近代文学研究会や、種田山頭火研究に取り組んでおられ、多忙にもかかわらず、全てやってくださ
いました。感謝のきわみです。
心より厚く御礼申し上げます。
二〇〇〇年十二月