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基本的には鍼でもお灸でも同じような治療が可能です。お灸だけで治して欲しい、または鍼だけでやって欲しい、という患者さんにも対応できるのはこのおかげです。
鍼灸師は鍼やお灸のプロ(一応は・笑)ですから、操作法によってはどちらでも同じような治療効果を示す事ができます。
ただし、鍼灸師は患者さんの脈証や腹証、舌証などを総合的に判断して治療を組み立てます。現在の状態によってお灸のほうが早く効果が出る場合、鍼の方が今の症状にあっている場合、また鍼とお灸を併用した方が治りが良くなる場合などを判断して使い分けている事がほとんどです。
例えば、神経痛の症状や身体が冷えていることが原因であれば透熱灸(もぐさを直接皮膚で燃焼させるお灸)が適していますし、風邪の初期症状の緩和には発汗させる目的で用いる鍼が非常に有効です。
また、患部の熱を取る(冷やす)目的でお灸を用いたり、身体を温めるために鍼をするという面白い使用法もあります。これらは鍼やお灸の操作法(刺鍼・施灸技術)によって術後効果をコントロールしている訳です。
鍼やお灸などの治療道具は本来死に物であり、ただむやみに刺したり燃やしたりしているだけでは効果は期待できません。死に物である道具を生かすも殺すも鍼灸師の技術に頼るところが非常に大きいのです。
極端な話、ある程度の技術が身についてくると気を動かす治療はボールペンでも出来るようになりますが(笑)、最も気が動きやすいのはやはり鍼やお灸なので、それらを駆使して治療にあたっているというわけです。
余談ですが、一般の方が自分で手軽に効果を出そうとすれば、高い技術を要する鍼よりも多少ツボがずれても熱の拡散によってある一定の効果が期待できるお灸の方が適切だと思われます。
民間療法としてお灸が普及した背景には、このような事情が関係していたのだろうと考えられています。 |
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温かいお灸も気持ち良いですが、もっと熱いお灸の方が効くんじゃないですか?
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これは大きな間違いです。
熱いお灸はかえって逆効果で、はりもお灸も感覚的に気持ち良くリラックスした状態でなければ効果が出にくくなります。症状によっては熱いお灸が必要な場合もありますが、それも逆子治療や重症の神経痛くらいなものです。 どんな疾患に対しても、ただ熱いだけのお灸では高い治療効果は期待できません。
ただし、熱いお灸が好きな場合はそれを考慮して治療を進めるようにしています。 |
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お腹や背中には鍼を留めておくのに、なぜ手足はすぐ抜いてしまうのですか?
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置鍼術の目安はおよそ15分です。これは、気が身体を1周するのに約7分30秒ほどかかるからです(つまり、身体の中の気を2週させる事が目的です)。このスピードは痩せ型で虚弱体質の方の場合はもっと速くなり、体格が良くて筋肉質な方の場合は遅くなります。
お腹には陰経・陽経といった様々な経絡(気の流れ道)が入り込んでいます。疾病治療の観点から見るとこのような状態にある腹部は治療点としてはあまり良い場所ではありませんが、様々な経絡が通っているので陰陽(上下)の気の交流を盛んにするために鍼を留めておく事が大切です。
また、背部には膀胱経という陽気(身体を温める気)の通り道があります。陽気は常に発散しておく必要があるために、背部の気の巡りを良くしておく事も非常に重要です。頭も陽気を発散する大切な部位であるため、置鍼術が適します。
では、なぜ手足には鍼を留めておかないのか…。これには治療上の鍼操作の理由と、前述の気の巡るスピードが関係してきます。
体幹部に比べて四肢はかなり気の巡りが早いので、さらに気のめぐりを促進させる置鍼術は不向きです。また、置鍼術では術者は気が至る(鍼先に気が集まる)感覚を得る事ができません。鍼先に集中して気を感じながら治療するためには、鍼を刺入してから抜くまでは手を離さないほうが良いのです。
しかしながら必ずしも手足はすぐに抜いてしまうかというとそうでもなく、手足の経絡に熱がこもっていたり極端に気の巡りが悪くなっている部位には、治療に悪影響がないと判断すればあえて置鍼術を施す場合もあります。 |
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『気』を信用していない人には効かないのでしょうか?
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「病は気から」とも言います。治療を素直に受け入れる気持ちがなければ気の巡りが改善しにくく、結果として治療効果が出にくくなる事は否定できません。
ですが、どのような症例に関しても治療効果に再現性がなければ医療とは呼べないと思っています。
再現性に関して一番わかりやすい例は、妊産婦さんの逆子治療でしょうか。当院へは産婦人科医のご紹介や当院ホームページをご覧になって訪れる妊産婦さんが多いのですが、ほとんどの方は半信半疑でやって来ます。それでも治療効果は高く、妊娠30週前後で訪れる逆子はほとんどが改善されます。
本当に信用していない方は最初から来ないでしょうけれど(笑)、治療効果に関しては信じるか信じないかはあまり関係無いと考えてください。 |
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毎回同じ症状で通っているのに、なぜいつも鍼をする場所が違うのでしょうか?
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症状自体は同じでも、生きている以上、身体は日々常に変化しています。術者は患者さんの脈やお腹を診たりツボの反応を診て、現時点でどこに施術すれば身体にとって一番良いのかを判断します。ですから毎回同じツボ、同じ場所に治療をするとは限らないわけです。 |
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子どもの治療では鍼を刺さないようですが、それで効果があるのはなぜですか?
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鍼灸は鍼やお灸の刺激による物理療法・・・というのは科学的な観点から見た鍼灸です。東洋医学的に考えると鍼灸師にとって鍼は気を動かす道具であり、決して刺すための道具ではありません。大事なのは「鍼を刺す事」ではなく「治療によって気が動く事」ですから、大人子どもに限らず、必ずしも鍼を刺す必要はないわけです。
お子さんは大人よりも気の巡りが早くて体表に陽気(活動的な気)が盛んです。ですから『接触鍼』という鍼をあてがうだけの手技で十分気を動かせます。
小学校3〜4年生位になれば大人と同じような治療ができるようになりますが、鍼を刺すか刺さないかも含め、個人差やお子さんの性格、親御さんの治療内容の希望なども考慮した上で治療を組み立てるように心掛けています。 |
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主人はいつも左から治療が始まると言いますが、私はいつも右からです。なぜですか?
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これは東洋医学の陰陽論という哲学的な考えに基づきます。陰陽論では万物は全て陰と陽に分類されるとしています。例えば、太陽が陽なら月は陰。上が陽なら下は陰。男女では男性は陽、女性は陰に属するとされています。左右の陰陽というものもあり、これによると左が陽、右が陰となります。
そこで原則的に、陽に属する男性は陽の側である左から、陰に属する女性は陰の側である右から治療を始めます。
治療効果がどれほど変わるかはわかりませんしそれ程こだわる必要もないのですが、一応これは鍼灸の「お作法」ですから、できるだけこれにしたがって治療を進めています。 |
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