MRIにおける血管周囲腔の拡大について
血管周囲腔は,脳の老廃物および有害物を排出する排泄経路であり,脳のリンパ系と言われるglymphatic systemの構成に関わる導管構造です。従来より,MRIでは血管周囲腔の拡大は無害の所見であって,よく似た画像を示す脳梗塞との鑑別が重要であると言われてきましたが,最近,Aβ(アミロイドベータ)蛋白の過剰な産生により血管周囲腔が拡大すると,glymphatic systemの機能が低下してくることが分かるようになりました。
Aβ(アミロイドベータ)蛋白が蓄積することにより血管透過性が亢進すると,脳浮腫や脳出血が生じやすくなります。脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy, CAA)は,特に大脳皮質下の血管壁へのAβ(アミロイドベータ)蛋白の沈着を特徴とする小血管障害ですが,脳アミロイドアンギオパチー(CAA)の診断基準であるBoston Criteria ver2.0では,半卵円中心の高度な血管周囲腔の拡張および多発性の大脳白質の虚血性変化が大脳白質所見とされ,1つの脳葉出血と1つの大脳白質所見がみられるとprobable(ほぼ確実) CAAと判定されて,1つの大脳白質所見だけでもpossible(可能性のある)CAAに該当すると分類されました。
このように,血管周囲腔の拡大が,Aβ蛋白の蓄積によるCAAおよびアルツハイマー型認知症の発症に関与するマーカーまたは危険因子と見なされる可能性が出てきました。今後は,血管周囲腔の拡大が無害な所見であるとは必ずしも言えなくなるかも知れません。