片頭痛の発症機序,臨床経過と治療薬について
[片頭痛の発症機序]
片頭痛の発症についてはこれまでに様々な仮説が提唱されていますが,最近最も有力になった定説は「三叉神経血管説」です。この三叉神経血管説というのは,まず初めに大脳皮質での神経細胞とグリア細胞の脱分極による過剰興奮が起きます。過剰興奮が周囲の大脳皮質に同心円状に拡がったあと,続いて起こる電気信号活動の抑制される現象(皮質拡延性抑制,Cortical Spreading Depression: CSD)などの何らかの誘因により,硬膜動脈などの血管周囲にある三叉神経の終末部に神経原性炎症が引き起こされて,その侵害刺激が三叉神経を通じて視床および大脳皮質に伝達された結果として,片頭痛が生じるというものです。
[片頭痛の臨床経過]
① 最初の刺激・誘発因子:
不規則な食事、睡眠不足、疲労などライフスタイルの異常、労働や仕事によるストレスと緊張、強い光などによる光過敏、音響などによる音過敏、不快な臭いなどによる悪心・嘔吐、気分低下のような精神的変化、食欲の変化、天候の変化、ホルモンの周期的変動などが片頭痛の引き金となります。
② 片頭痛の始まりが予見される予兆(発症の数日~数時間前、視床下部活動期):
あくびが出る、疲労感、むやみに何かを食べたくなる、手足がむくむなどの症状がみられます。これらの症状は、視床下部の関与と活性化が考えられます。
③ 前兆(発症の5分~60分前、大脳皮質活動期):
片頭痛には前兆を伴うタイプと前兆を伴わないタイプがあります。前兆を伴うタイプは、閃輝暗点(後頭葉の脳活動が高くなる、すなわち視野に、ないはずのキラキラ(閃輝)が見えて、その後その部位の機能が低下して暗点となり、この現象が拡散延長していきます。反対に視野欠損などの見えにくさの症状が現れることがあります、そのほか、半身しびれ、失語、運動麻痺などの視覚、感覚、言語、運動、脳幹、網膜の各症状が起きますが、これらは脳循環の低下による虚血性変化が原因と思われます。
④ 片頭痛の始まり(三叉神経活動期):
片頭痛が始まると2つの大きな症状がみられます。1. 三叉神経系が感作されることによる拍動性頭痛(動くと頭痛がひどくなる、頭痛が起こらないように動くのを避ける)、2. 悪心・嘔吐、光過敏、音過敏など、の2つの症状です。このとき、三叉神経終末部より種々の神経伝達物質が放出されますが、その中でもCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)が血管の拡張と炎症を引き起こすのに最も大きな薬理作用を持っており、片頭痛の発生に関係する最も重要な神経伝達物質になります。これら、CGRPをはじめとする神経伝達物質が、脳の表面をおおう硬膜に分布する血管を拡張させ、またその血管周囲に分布する三叉神経の終末部に炎症を生じさせます。この現象が末梢および中枢に拡がって拍動性の激しい頭痛が起きていきます。
⑤ 後発症状 眠って起きたあと頭痛は改善しますが、疲労感や食欲変化などの症状がみられます。
[片頭痛の治療薬の種類]
片頭痛の治療薬には急性期の薬剤と予防療法の薬剤があります。病医院では以下のような薬剤が適宜処方されます。
1. 急性期の治療薬
① 非ステロイド性抗炎症薬:アセトアミノフェン、アスピリン、メフェナム酸、 ロキソプロフェン、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ナブ ロキセン
② トリプタン系薬剤:スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リ ザトリプタン、ナラトリプタン
③ 5-HT1F受容体作動薬:ラスミジタン
④ ゲパント(CGRP拮抗薬):Ubrogepant, Rimegepant
2. 予防療法の治療薬
① カルシウム拮抗薬:ロメリジン
② β遮断薬:プロプラノロール
③ 抗てんかん薬:バルプロ酸
④ 三環系抗うつ薬:アミトリプチリン
⑤ CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)関連抗体薬:抗CGRP抗体薬 ガルカネ ズマブ、フレマネズマブ、抗CGRP受容体抗体薬 エレヌマブ