佐藤亜紀

『バルタザールの遍歴』   新潮社 1991年

バルタザールは当時、セバスチャン・ナイトとか言う英語で書く亡命ロシア人に夢中になっていたが、正直言って私はついぞ現代文学に興味がなかったから、彼を邪魔しないように気遣いながらもシュトルツと話す羽目になった。

「怪態なタイトルですね」とシュトルツが言った。「プリズムの刃。探偵小説か何かですか」

「前衛だよ。僕は好きじゃない」と私は答えた。 53頁



語っているのはバルタザールの「双子の兄」、メルヒオール。ナボコフへの直接の言及はここだけですが、この小説の魅惑的な双子の存在そのものがまさにナボコフ的。