書   評

M.J. Delany (1974(75?)).  The Ecology of Small 
Mammals.  A5版,4+60pp.Edward Arnold, London.
£1.90(boards).£0.95(paper).
 本書は.Studies in Biologyというシリーズ51番目の
1小冊子であり,5つの章(53ページ)と付録(4ペー
ジ),文献(3ページ)とから成っている.各章は,1.
小哺乳動物とは何か?(1ページ).2.野外調査の方法
(8節14ページ),3.生活史現象と個体数統計学(4
節10ページ),4.個体群(6節16ページ),5.生息場
所開拓(6節12ページ),と題されている.
 「小哺乳類の生態」という本だが,「けっ菌類と食虫類
を対象として扱い,コウモリ類は扱わない.また,家ネ
ズミなど人と密接な関係にあるものは詳しくは扱わな
い」と断わり,英国や著者自身の中央アフリカでの研究
を中心に,1960年〜73年の文献が主に引用されている.
 前書きでは,「この本の目的は,最近20年間に集積さ
れた小哺乳類についての情報を包括的に概観することで
はなく,発展中の研究の大筋に焦点を当てて,基礎的方
法を記述し,今までの研究が指し示すより幅広い生態学
的問題に注目させることである.本仕事を可能な最も広
い状況〔学問的脈絡関係〕に位置させるために,小哺乳
類の全世界的分布を多様な生息場所や気候に関連させる
ように利用した」と記している.しかし,か,従がって
か,大部分はいわゆる個体群生態学に関連している.
 第2章は,わなの種類,記録方法,行動圏,密度推定
についての記述である.第3・4章は,個体数に関係す
る問題を,発育,食物,外的・内的要因,捕獲などにわ
けて取り扱っている.第5章は,種類相や種類数と生息
地,分布,活動,種間競争,摂食習性,エネルギー動態,
の節にわかれ,一応,生息場所と結びつけて書かれてい
るが,第4章までに扱わなかった主題をここへまとめこ
んだ感じがする.
 生息場所の分類はない.気候と他との関係は散乱して
出てくるだけで,一節を設けてまとめられているのでも
ない.前書きで書いた文の意味がよくつかめないが,分
布・生息場所・気候などの関係がもっときちんと述べら
れるべきだろう.
 個体数は生物的生産の一側面として,また種族維持に
直接的に係わる点で,ある種の総決算であるという観点
が成立するから,生態学のなかで,個体群生態学なるもの
が占める位置は,それなりの重要性がある.本書も,少
くとも結果的には,その線に沿うもののようで,小哺乳
類の生態と言った場合の具体的な生活像は浮かび上がっ
て来ない.例えば,生活の必要性から見て,環境はどう
分析され位置づけされるのか.小動物相互の食物や生息
場所をめぐっての関係的位置はどうなっているか一一特
に形態と結びつけるとどうか,生理的面からはどうか,
などなど.おそらく,種の存続や変化において,その個
体数や密度は一側面にとどまる,ないしは一面的見方に
とどまる.
 個々の内容に触れる.センサス法は,紹介的だが,多
少の評価も行なわれている.物足りないが,入門書とし
てはこれぐらいが適当か.シャーマントラップは,寒い
所では動物の死亡が多くなる欠点があると書かれていて,
わたを入れるとよいとは書かれていない.これは,わた
は踏板の上にのせざるをえない構造なので,沢山入れる
とその重みで入口のふたが閉じる可能性があるためだろ
う.日本のシャーマン型トラップは,その点では秀れて
いる.トマホークは紹介されていない.動きを調べるた
めに,わなかけと煤盤による足跡追跡の併用が紹介され
ているが,テレメトリ法は全く出て来ない.食性の調査
法にはふれられていない.「レンジ長同様,活動中心も
比較の目的に有効な測度である」というのは,説明を省
略し過ぎる.繁殖や成長や令構成や食性やらを調べて個体
群構造の諸々がわかったとして,それから何をどういう
のか? 例えば,次の年の個体数はどう予測できるのか,
という点は書かれていない.
 欲を言えば切りがない.これらは,入門書であること
の他に,イギリスの学問水準や動物相やその環境の特殊
性をある程度反映していよう.日本での方法や認識とく
らべて読むのも一興である.例えば,線状わなかけで,
一地点5つのわなを置く,という下り.
 一方,適切な注意や指摘が随所に見られる.例えば,
令査定の結果は,場所や季節で違うというさりげない文.
また,行動圏の項で,生捕りで得た捕点分布に基づく方
法は,地表に住む動物にのみ適当,という文.
 付録では,わな販売者の住所と小哺乳類同定の手引書
が記され,最後に,今後研究を要する分野と題して,問
題と展望が述べられ,研究するべき七頃目を述べている.
これを見ると,すでに一定の成果が出ていてしかるべき
課題ばかりである.これはどういう事態なのか,という
ことは,あえて本書が取り上げるべきことではないかも
しれない.
 不足に感じるのは,「哺乳類の生態を研究するのに,
体が小さいこと,生活環が短いこと,繁殖力が強いこと
から,小哺乳類は好都合な材料だ」と前書きにあるが,
小哺乳頬に特有な生態的方法・調査法・技術は何か,ま
た,他の哺乳類とどういう生態的な違いがあるかという
特徴などは,全く述べられていないことである.なお,
種の生態学という観点はないし,群集生態学的な話もな
い.
 気づいた誤植を記す.39ぺ一ジ33行目,oppossumは
opossum.同39行目,MicotusMicrotus.51ページ
2行目,themetabolicはthe metabolic.また,34ペー
ジ30行目のgrassesはgrass miceではなかろうか.ぺ
ーバー版の第2刷(1976)でも,これらは直っていない.
 全体的に見て,小冊子としては,消化的紹介に終らず
(特に方法に関して)限界や問題点も述べられていて,
出色の出来といってよい.この生物学シリーズの目的が
そうだが,大学学部生に好適な入門的テキストである.
簡潔で要領を得て,文章は平易で親しみやすく書かれて
おり読み易い.ただ,英国式の英語であることもあって,
私ならば1ページにつき更に1〜数ヶ所ほどコンマを打
ちたい,なくても,意味不明瞭になる所は少ない(つま
り少しはある)が.
 問題意識を持って読む者に対しても,ある程度まで文
献をたどれよう.ただし,索引はない.また,引用文献
は,題目と最終ページが記されていれば,もっと良かっ
た(同じシリーズ1のPhillipsonの本では,題目なし
だが最終ページは記されている).
 すばらしい・なかなか・まあまあ・悪くはない・つま
らない,の5段階評価でいくと,なかなか(非常に良い)
ぐらいである.


小野山敬一.1980.書評:M.J. Delany (1974(75?)). The Ecology of Small Mammals.日本生態学会誌,30: 198-199.
Copyright by The Ecological Society of Japan. 無断転載禁止.
日本生態学会の1997年1月14日付け転載許可のもとに掲載.
Broadcasted with the 14-i-1997 permission of The Ecological Society of Japan.