2003年8月20日
Text by しまやん
溯上河川探訪記
何年か前に見た「ライズ」という雑誌に、「朱鞠内○○川上流大魚目視紀行」という記事がありました。それは朱鞠内湖の流入河川で、産卵に遡上するイトウを見学するという内容でした。これを見た私は「いつか自分も見に行こう」と思いましたが、山歩きの経験もなく仲間もいなかったため行動には移らず仕舞いでした。もう一つの理由は「そんな簡単には見られないだろう」という考えがあったためです。
そんな話を拙サイト「朱鞠内湖の釣り」の掲示板でしておりますと、「是非行きましょう!」という方が現れました。「PreciousField」及び「BassStop!北海道」の管理人である「たけ」さんです。強力な仲間が出来たことで、急に「イトウの遡上見学」が現実味をおびてきました。
まず私の方で場所、時期、装備等の情報を収集、遡上の時期は短期間であること、午後から雪白が入るため午前中がよいことなどが解りました。
そして待ち望んだ遡上シーズン、事前より「たけ」さんと連絡を取りあい、情報をもらった川に入ります。堅くなった雪面は踏んでも埋まったりはせず、歩き回るには良い条件でした。川は幅は2mほど、深さは1mほどはありそうです。
ところどころ笹や木の枝が覆い被さっており、強烈な日差しで水面が反射するのと相まって、水中の様子を確認すのは難儀しそうでした。しかし、イトウの雄は産卵期に深紅に染まるため、目立つ雄さえ居れば見つかるだろうという安易な考えで、川を覗きつつ川沿いを上流に向かって歩いてゆくことにしました。
しばらく行くと、川が二つに分かれています。水量のある方を選択して探しますが、1時間ほど歩いても気配すらありません。イトウが遡上するのは先ほど分かれていた支流の方だけなのか?この状況下では今眺めている川にはイトウが遡上していないのでないかと弱気になってしまいます。しかし、この本流とみられる川に賭けて探し続けます。
しばらく行くと、川岸が崖になっていたため巻いて高台に出ました。そこから川の様子を双眼鏡で眺めますが、イトウらしい気配は感じられません。見逃してしまったのか?下流を再度チェックすることも考えましたが、前のめりな私たちはさらに上流へと進むことにしました。
雪原には大きな松や白樺が生え、若木は雪の重みでダラリと曲がってしまっています。ところどころ雪が解けて笹の葉が顔を出していました。おそらくは雪が溶けてしまえば熊笹の海となり、とてもこんな所には歩いては来られないでしょう。
途中、細い沢を渡ってみるとカエルの卵が山盛りになっていました。その量たるやバケツ1杯分はあったのではないでしょうか?極めつけの自然にいることを実感し、触ってみるとブヨブヨしてくせになりそうな感触でした。
物凄い量のカエルの卵 Photo by たけ | 川はこんな感じです Photo by たけ |
そこから少し上へ行き川底を覗いてみると、底が砂利になってて産卵に適した環境に見受けられ、そこで「たけ」さんがイトウを発見、40pほどの雄のようでした。婚姻色の出ていない・・・おそらくは5年魚程度で、イトウとしては若い個体でしたが、この若さで繁殖のために遡上してくるとは意外でした。好奇心旺盛の個体なのでしょう。おそらく「いいお姉さんいないか〜」てなもんだと思います。その後は見失ってしまいましたが、あの大きさではペアを組めずに終わってしまったのではないかとも考えられます。もしかすると、彼が倍以上の体長がある雌を相手に、お役目を果たしたかもしれません。
とりあえず目的のイトウを見ることができましたが、見たいのは真っ赤に染まった大型のペアです。そこでしばらく観察していましたが、大型の気配が感じられないため、再び移動することにしました。
上流へ行くと笹藪が開けて川を良く見渡せるポイントがあり、覗いてみると中程に丸太が川を遮る形で横たわっており、その少し上流で何かが動いているのが見えます。
それは探し求めていた成熟した雄のイトウでした。
雑誌や新聞で見たとおりの深紅の魚体、膝くらいの水深を悠々と泳いでいましたが、我々に気づいたのか反転して下流へ逃げていきました。我々は興奮してカメラを取り出し、夢中でシャッターを切ります。そのイトウは川に横たわる丸太を乗り越え、その瞬間、鮮やかな上半分の魚体が水上に現れ、スローモーションのように下流へ去っていきました。
我々はシャッターを切りまくりました。うまく撮れているものと思っていましたが・・・。
その場所では再度イトウが現れないかと待ってみましたが、なかなか姿を見せません。しびれを切らして、またさらに上流へ移動することにしました。
イトウが丸太を乗り越える Photo by たけ | 雄の戦い、突然のことでピントが合いません |
川に沿って雪原を歩いて行きますと、再び崖になっている場所にでました。巻くのもおっくうで、崖の斜面を慎重にへつります。滑ってバランスを崩せば下は川、もしかしたら足がつかないかもしれません。一歩一歩雪原を靴の端を利かせながら進みますが、フェルト底のウェーダーを履いているために踏ん張りがききません。あっと思った瞬間には、既に滑り落ちていました。
ドパンと激しく滑落しましたが、うまい具合に太股くらいの水深で、カメラ類含め、どうにか助かりました。下は川ですので、怪我はしないでしょうが、ずぶぬれになる覚悟くらいは必要のようです。
所々で川を覗きながらくじけずに進みますと、いきなり水面が爆発しました。見ると紅く染まったイトウが2匹、雌を争って喧嘩しているようで、一方の雄がもう一方の雄の背ビレのあたりを噛みついて追い払っているのが見えます。
その後も格闘の行方を見守ろうとしましたが、見せ物じゃないとばかりに何処かへ行ってしまい、見失ってしまいました。大分上流へ歩いてきましたが、先ほどから感じていた親爺の雰囲気が濃くなっているように感じられます。
対岸の木の下にある穴・・・なにか怪しい・・・。イトウには会いたいものの、熊には遭いたくないため、先ほど丸太を乗り越えたイトウの場所に戻ることにしました
熊はすぐ近くにいたのかも Photo by たけ | 木の根元には怪しい穴が・・・ Photo by たけ |
先ほど滑り落ちた斜面をまた通るのかと考えると非常に気が重かったのですが、気合いで歩きます・・・が、また落ちてしまいました。たけさんは「大丈夫か〜い?」と言いつつも半分笑っていました。頭をかきながら丸太ポイントへ到着し、持久戦とばかりに食事をとります。
しかし、どうも現れる様子がないので、上流の笹をかき分けて水面を覗くと・・・居ました!見たかった大型のペアです。私たちに気づいているのかいないのか?手を伸ばせば届く距離で悠々と泳いでいます。
ここで必殺の水中デジカメ試します。ファインダーを覗けないので、あたりをつけてシャッターを押すしかありません。何枚か撮りましたが、液晶画面は日光が強くてろくに見えず、写した画像をその場で確認することが出来ません。
イトウのペアは1m先で怪しい2人組が何やらやっているのは意に介さない様子で、時には水中カメラの目前にまで迫ってきます。結果的に一つ勉強になったのが、水中カメラは対象が大きく写りすぎるということでした。
ファインダーが覗けないので悪戦苦闘 | カメラに寄ってきたイトウをパチリ・・・顔が・・・ |
写真を撮り尽くし、しばらくペアを眺めていましたが、雌のほうが体を斜めにして尾鰭を小刻みに震わせているのが見えました。これは後で解ったことですが、産卵を雄に促す行動だそうです。何時間その場で眺めていたでしょうか?すっかり満足した我々は、帰途につきました。
私は帰りの道中も、家に帰ってもあのイトウのペアが目に焼き付いて離れませんでした。おそらくあの光景を一生忘れるこはないでしょう。来年もその次の年も・・・また会いに行こうと考えています。
そして、それまでに写真の技量を磨いておきたいと思います(笑)