2003年8月20日
Text by しまやん
朱鞠内湖のイトウ
現在イトウが安定して再生産しているといわれている河川湖沼は、道内に6水系あり、その中の1つが朱鞠内湖です。
ご周知のとおり、朱鞠内湖淡水漁業協同組合ではイトウの増殖に力を入れており、6年ほど前から発眼卵放流、近年では稚魚放流が行われています。この他にも漁協では河川での密漁監視を行っており、釣り人の立場から見ますと、その成果は確実に出てきていると感じられます。
イトウが再生産しているとされる朱鞠内湖の流入河川等は、現在ヤマベは禁漁であるものの、イトウについては何の規制もありませんでした。が、ブトカマベツ川等の流入河川は、平成15年9月1日より全面禁漁となり、これは産卵遡上のイトウを守る決定的な規則となり得る筈です。この規則が実効的と言えるまでに、釣り人の間に浸透するには時間がかかるかもしれませんが、今後、劇的な環境の変化でも起きない限り、イトウは順調に再生産し、育っていくことでしょう。
かつては繁殖のため遡上するイトウを、ヤスで突いたり、刺し網をかけたりする人がいたようで、これは道路も鉄道も整備されていなかった昔、地域住民の方々の蛋白源となっていたようです。今日では時代も変わり、わざわざイトウを食べるというような習慣も無くなってきたようで、この点ではイトウにとっては良い時代になってきていると感じます。しかし今まで何の規制もなく捕り放題、釣り放題だったイトウが、よくもまぁ今日まで生き延びてきたものだと思います。
朱鞠内湖では今年(2003年)50cm前後の釣果が数多く聞かれ、おそらくは放流された稚魚等が、順調に育ってきた結果だと思われます。今後もイトウは増え、私は2〜3年後にはイトウが釣れ盛るのではないかと勝手に予測しています。
しかし、ただイトウの増殖さえ図れば良いというものでもなく、過去には支笏湖でチップ(ヒメマス)を過密放流した結果、絶滅状態になったという事例があります。朱鞠内湖でも魚の全体的なバランスを考えた場合、イトウが増えすぎてクラッシュし、絶滅状態に陥る危険もあるのではないかと考えられます。が、これについては漁協がそのような事態にはならないよう、細心の注意を払っています。
このほかにも、イトウのエサの問題があります。
朱鞠内湖はワカサギ釣りでも有名ですが、イトウのエサとなるのは主にこのワカサギです。実は増殖が一番難しいのは、イトウではなくワカサギの方で、朱鞠内湖はダム湖の宿命である水位変動が激しく、春に産卵した場所は夏には水位が下がって、干上がってしまいます。もともとが発電やかんがい用水の確保のため造られたダムですから仕方ありませんが、今後はダムの機能を果たしつつ湖内の魚に影響を与えないようにバランスを取れるようになってもらえればと思います。
また、さらにワカサギのエサの問題もあります。ワカサギのエサとなる動物性プランクトンの量は、元来足りているようなのですが、この動物性プランクトンの発生が6月に入ってからであるため、5月をエサ不足でのりきれないワカサギが大量にいるようです。
このギャップを埋めるというのは人間の力では難しいかもしれませんが、漁協ではデータを取っており、将来的には何らかの方法で徐々に改善されていくのではないかと思います。
朱鞠内湖のイトウは、広大かつ湖岸地形が複雑なダム湖という、釣り人の手の届きにくいフィールドであること、産卵河川が禁漁になり親魚が守られること、漁協という、湖及び資源の管理主体が存在し、密漁の監視が行われていること、及び稚魚放流により現在まで落ち込んでいた個体数の回復を図っていることなどから、未来は比較的明るいと考えます。しかし道路工事による産卵床の埋没、悪質な密漁者の存在などの問題も抱えており、まだまだ不安な点が多いのも事実です。
今、朱鞠内のイトウが回復傾向にあるのは、漁協の存在と努力のおかげであり、釣り人も漁協に頼るばかりでなく出来ることから行動していただければと思います。
私も朱鞠内というフィールドに期待し、今後もイトウを見守っていきたいと思います。