日本女性会議2000津 報告

2000.12.13
長谷川 静、杉本光古

はじめに

「日本女性会議」は男女平等社会を目指す全国規模の会議です。1984年の第1回(開催地: 名古屋)以来、各地の都市で年に一度持ち回りで開かれ、17回目の今年は11月10・11の 2日間、三重県津市で開かれました。

三重県は情報公開や政策評価制度が進んでいる自治体として知られています。 「‘フロントランナー’としての知事の存在が大きい。行政のトップが先駆的であることで、 職員も意見が言いやすくなり、改革を志す若い人が育っている」と地元で活動しているグル ープの女性が話してくれました。特に女性センターや市民活動センターのスタッフの、女性 活動への協力や情報公開の姿勢がすばらしいとか。この10月に公布された県の男女共同参画 推進条例の作成過程でも、会議には常に何十人もの傍聴者が来ていたそうです。私たちも実 際に女性センターで所長とお話する機会がありましたが、その開放的な姿勢に驚きを感じま した。

さて「日本女性会議2000津」、テーマは「そうや!女も男もおなじ人間やんか」で、参加 者は約3800人でした。1日目が2つの基調講演と交流会、2日目は10の分科会と6つのワ ークショップで構成されていました。私たちが出席したのは第1分科会「政策決定への女性 参画」です。2日間の会議の全体を紹介することは出来ませんが、以下、コーディネーター とパネラーの発言の要点をまとめてお伝えします。


第1分科会:政策決定への女性参画

開催日:2000.11.11
会場:三重県総合文化センター
コーディネーター:大西珠枝(内閣総理大臣官房男女共同参画室長)
パネラー
  • 後藤 尚子(日進市議会議員、「女性を議会に!ネットワークあいち・ぎふ・みえ」副代表)
  • 原田 正司(自治省行政局公務員課長、前三重県副知事)
  • 三井マリ子(女性連帯基金副代表、前都議)

大西


95年北京会議を受けて、国は「男女共同参画2000年プラン」を策定、男女共同参画社会 の形成の促進に関する平成12年(西暦2000年)度までの国内行動計画を策定して、あらゆ る分野への女性参画をすすめている。しかし、平成10年現在、国の機関での女性管理職は、 わずか1.1%、民間企業では、これよりさらに低い。政治面では、参議院17.1%、衆議院7.3% である。著しい男女の格差を縮めるための取り組みをいかに具体的に進めていったらいいの か。何が課題なのだろうか。


後藤


日進市(人口約7万人、高齢化率12%)の市議会議委員。1991年にそれまで支えてきた2 期目の仲間と共に立候補し、1・2位で組織も名もない自分たちが当選した。今顕在化してい なくても、女性を出したいという風はかならず吹く。「女性を議会に!ネットワークあいち・ ぎふ・みえ」は、そういった仲間が政治について学びあい、情報交換し、精神的に支えあっ ている。議会は男性社会。しきたりなどのために、辛い目をどれほどのりこえてきているこ とか。

なぜ女性が少ないか
愛知県内89議会のうち、女性議員がいる議会は全国で最低の25.3%。因みに大阪は95.6%。 夫が反対している、地域代表が少ない、選挙嫌い、選挙手法の伝達がない、男女の役割分業 を抱えての選挙活動では戦えない、などが理由としてあげられる。 “お手振り、ウグイス嬢、お茶の接待”など、性別役割が固定化、習慣化していて、女性 はいざ選挙となっても、さまざまな手法の伝達がされていないためにどう選挙運動をしてい いのかわからない状態であった。しかし、今、選挙民の心に訴えるといった方法で、全国に 20のグループが誕生し、運動を共有しながらすすめている。 選挙を変えないと政治は変わらない。さまざまに役割分担をして選挙運動をするのでは、 候補者と共感することも希薄である。さまざまな運動を体験し、選挙を楽しみ、喜びの場に 変えていき、その後の市民活動の場にしていこう。


原田


6月にILOの会議に出席した。女性保護条約の改定の会議だった。会場の7割が女性。日 本では、そういった政策をリードする会議を女性が担っていない。政策決定の場面に女性が いない日本の社会は、異常だと実感した。

女性が、社会で自己実現するといった意欲と熱意を持っているのに、また、社会にとって女 性の参画が必要な時代なのに、政策決定の場への進出だけが取り残されてしまうのではない か。これを防ぐには

  1. 女性たちの継続した強い意志
  2. これを支える、有効なシステムと施策
  3. 女性の地方公務員を増やす
  4. 目標数値の設定、チェックリストによる課題の明確化
が必要だ。

三重県の北川知事は、「2000年プラン」で、女性管理職の数値目標を20%とし、チェックシ ステムを設けたところ、14%まで急速にすすんだ。2010年までには50%が達成されるだろう。 30%に達するのには、行政の強い意志と努力が必要である。

男女共同参画社会基本法を受けて、各自治体で条例がつくれられているが、地域全体で基本 計画を作り、その中に強い意志を盛込んでいく。具体的には、管理職になる女性を育てるた めに、いろんな職務体験をして有能な女性を育てたりして、女性を登用するシステムを組織 全体が真剣に考えていくことが必要だ。


三井


2000年9月のUNDPの資料によれば、女性の能力を示すHDIは、日本は世界9位、ノル ウェーは2位。政策決定の男女平等度を示すGEMは、ノルウェーは1位、日本は41位であ る。1995年日本は27位だったのに、この5年間のデータでは下降線をたどっている。 全国の3300自治体の半分は女性議員がゼロ。三重県では、31人の市議、50人の町村議が おり、69市町村のうち21町村に、女性議員がいない。女性が誰ひとりいない場で介護や子 育ての政策が決められている現状である。国連のデータによれば(‘95北京)経済界の男女 平等に475年かかる。黙っていたら永久に男女平等にはならないということだ。強力な「何 か」をしなければ。

そのツールとして、いま、私たちは強力な武器をもっている。

  1. ナイロビ戦略の採択―30%のクオータ
  2. 北京京女性会議で採択された行動綱領、G項のD(190条)(権力構造及び意思決定へ の女性の平等なアクセス及び完全な参加を保障するための措置を講じること)の取るべ き行動、190条には、「政府が、あらゆる政府及び公的な管理的地位への女性及び男性 の平等な参加の達成を目指す観点から、女性の数を実質的に増加するために、必要であ れば積極的措置(ポジティブ・アクション)を通じて,特定の目標を設定して施策を実 施することを含む,女性及び男性の均衡達成の目標を設定する公約を行うこと」また、 「選挙制度も含め、政党に対し、選挙によるもの及び選挙によらずに任用される公的な 地位に女性を男性と同じ比率かつ同じレベルとするよう奨励する施策を,適当な場合講 じること」と規定されている。

また、1985年に日本は「女性差別撤廃条約」を批准した。4条に規定された、男女の平等を 促進することを目的とする暫定的な特別措置(positive action)を実行すべき時だ。でな いと絵に描いた餅で終わってしまう。行政の責任は大きい。 日本では

  1. 政党の政策決定の場に女性を
  2. 全国の市町村議会を通じて、町内会・自治体に男女平等の政治参画に関心を持つよう、 世界の実態と共に知らせる。
  3. 全国の選管に、超党派で男女のアンバランスをなくすように働きかける。北欧のよう に、わかりやすく。
  4. マスコミに言いたいこと。「女性の投票率が高い」などというお世辞はいらない。女性 の議員が少ないことをもっと報道すべきだ。女性議員の真面目な、ポジティブな働き を報道して。次に、女性候補者へのすさまじい圧力を自分の目で見て、地方自治体の 実体を報道して欲しい。

政策や方針決定へ女性の視点や意見を反映させるためには、女性の市民活動、地域活動 による草の根運動的な盛り上がりから社会を動かそうという意識改革が必要であり、制度 による改革や行政とのパートナーシップなど、参画のための方策を考えていくことが大切 だ。

女性同士は連帯した力になりにくい。ひとりでもいいから声をあげていこう。あなたが声を あげなければ、何もはじまらない。ぜひ、立候補してほしい。夫が反対しても、地域が疎外 しても、あなたには仲間がいる。

最後に、ノルウェー前首相 グロ・ハーレム・グルントラントさんの言葉を贈る。

「女たちよ
その生活や暮らしを良くしようと思ったら
女たちの代表を
政治の場に送ろう」