二 出自
 
 
 
 言葉を覚えた桃堕郎は、自分がほかの子のだれとも似ていないのはどうしてなのかを尋ねた。
 おじいさんとおばあさんは、かいつまんで物語って聞かせた。
「もうだいぶ昔だあ、神のごとえらい方たちがいなさったあ」
「男の方はたくましく、女の方はうつくしく、そして皆がとびきりの頭をしていましたとさ」
「ほんにずいぶん昔んことだあなあ。忘れ果てそうだあ。そん方たちがでっけえ心配事を悩んでおられたあ。人間たちがつぎつぎ不思議なやまいんかかってくつう現象をのう」
「それはすばらしい方たちでしたから、病気によく効く薬とか、手術とか、ほどもなく考え出すことはできたのだけれどね、一つの種類の病気を退治するとまた新しい病気、それがすんでもまた次、というふうにね、いつまでたってもきりなく人間たちを襲ってくるのでした」
「こん悪い繰り返しを引っくるめてだ、不思議なやまいのやまいっつう。悪魔ん仕業だあ。神のごとえらい方たちはあ、人間救うための根治療法さあ長え、そりゃ長え年月のあいだ研究しなさったあ」
「何百年もかかったといいますよ」
「でえ、最後に出てきた答えつうのはあ」
「それはですね、いいかい、人間という生き物の力が、弱まってきている」
「だれかが強え、弱えつうことではないぞう。人間全体の力がちっとずつちっとずつ悪魔に吸い取られてだあ、もうすぐみんなだめになっちまうう、うああああああ、つうことを突き止めたんだあ」
「なんでそうなったのかしら。悩んで悩んでようやくわかったのは、人間がそれはそれは自分勝手に生きてきたから、ということなんですよ」
「生き物は、助け合ってだ、互いんささえあっていくのだあなあ。それであるにだ、人間はそんまで、自分たちさえよければあ、ほかん生き物はどうなってもかまわねえぞう、自分たちさえ楽しう腹一杯やってければあ、ほかん生き物はさみしうのたれ死んでっても知ったことではねえさあ、そん考えだったっつう」
「だから、罰を受けたのです」
「不思議なやまいのやまいはあ、自分勝手ん生きる生き物に遅かれ早かれえ襲いかかるもんだったあ。でえ、神のごとえらい方たちは決心をなさったあ」
「正しく尊い決心でした」
「ほかん生き物とまじり合って生きてこうぜえ。みんなと運命ともんしようぜえ」
「つまり、人間と、人間ではない生き物たちとの合の子を、いくつもいくつも無数に生み出していったのです」
「こうして、今のう、すうばらしく賑やかな世の中が生まれたんだあ。だからだ、お前があ、ほかん子のだれとも似てないはあ、当然だあなあ」
「驚いたでしょう。すばらしいでしょう。だから、ほかの子同士だって、似ているようでいて、やっぱり少しずつは違っているのよ」
「植物がご先祖なんは珍しいほうだけども、数ん少ないだけ値打ちが高え、高えぞう、お前つう命はとうっても貴重なんじゃあ」
 桃堕郎はおばあさんの言葉でないとよくわからなかったが、だいたいは納得した。なら、お父とお母はどこにいるの、と尋ねた。
「桃幻郷つう遠い遠い国。わしらはのう、しばらくの間んのみ、お前をあずかってるつうわけだあ」
「お父もお母もそこにいるのよ。いつかはお前も桃幻郷に行ってみようね」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(『桃』  二 出自  了)

 
  一  冒 頭  ▲
 


 

  三  誓 い  ▼
 


 
小説工房談話室 No.58 ■■■■■■ 
1999/11/21 23:06 和香 Home Page ■■■■■■ JustNet TOP 
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HP採録 平成12年2月15日(火)〜
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