七 三つの宝
「私も一晩考えさせていただきました。昨日会った方たちのどなたかを愛することを今日決める、これはやはり無理があるとわかりました」
こう、ゼンラオドリコヒメは口を開いた。
「私も愛を持つためには、真心をいただかなければならない。勝手な言い草でしょうが、どうかお聞きになって。私のためにどれだけの困難、労苦に耐えていただけるのか、そのあかしが欲しゅうございます」
私は、巫女の子孫です。私の家に伝わるまじないの書に載っていた、三つの宝物をぜひ探してきてください。これらは、ほんとうにこの世に存在するのかどうか、だれもまだ証明してはいませんが、私の家に伝わっているだけでなく、他の家系にも、またほかの国の伝承でも同じか似たものの話があると聞きます。全くの作り事ではないはずです。
これらの宝を見つけ出すことは、今まで多くの勇者、冒険家らによって試みられ、ことごとく挫折してきたのですから、並大抵のことではないと思います。それにあえて挑み、為し遂げられるだけの強靱な忍耐、そして幸運、広い知識、ひとことで言えばからだとこころのずばぬけた男らしさを持つ方になら、なによりこのゼンラの無謀な願いを真摯に受け止めてくださる方になら、喜んで私のすべてを捧げます。
「しるすところによれば、最後にこの探索に男が出かけたのは、ゆうに百年以上も昔のことです。ご来場の皆さんはどうか今日の私たちの誓約の証人となってください。私は新しい一行を書き加えて、英雄の帰還を待ちます」
桃堕郎さま。世界一乾いた砂漠の廃宮にある、蛇娘をかたどった砂岩の聖典入れを捜し出してください。これに願えば、恋敵の生命を縮めることができるそうです。
カネ太郎さま。世界一うっとうしい密林に隠されている、香木に九本脚の蜘蛛を刻した薬瓶、これを私のもとへ。言い伝えでは、封印されている霊草は、永遠の美貌を与えてくれます。
裏島研究員さま。世界一澄んだ湖に生息する、話す目を持ち透明な甲羅に覆われ螢光を発している亀を連れてきてください。大事に飼って眺め暮らせば最高の知性が保てるといいます。
桃堕郎は一歩前に進み出て、朗々と言った。
「おまかせください。見物の皆さんもお耳にとどめてくださいますように。必ず、そして一番早く、私がそれを入手して戻ってくることをここに誓います。そのあかつきには、どうか私の桃姫となってください。夢の宮殿桃幻郷でいついつまでも幸せに葉を茂らしましょう」
あとで猿人間に耳打ちされる。本気なんですか。見つけられるとはとても思えません。くくく、砂漠で干からびるなんていやです。桃堕郎は耳打ちを返した。もちろん、お芝居だよ。あの人の気分を壊したら悪いじゃないか。
カネ太郎は言った。
「わかった。必ず見つけてくる。そうすれば、お前はおれと一つのからだになるのだ」
ゼンラオドリコヒメは、不審な様子を見せ、カネ太郎に近づいてきた。思わず、
(あらいやだ、これはもう犯罪よ)
そうささやいて、あからめた顔と胸を手で覆いながら、前屈みになった。指先で触れて、しばらくの間、陶然という雰囲気だった。
「よくわかりましたけれど、これからは服を着けなさいね」
カネ太郎は、口を引き結んだまま、鼻息をひとつ。
頷きはしたが、裏島研究員は口では何も誓わず、そのまま最後までうつむき加減だった。
(『桃』 七 三つの宝 了)
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小説工房談話室 No.67 ■■■■■■ 1999/11/28 12:07 和香 Home Page ■■■■■■ JustNet TOP |
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HP採録 平成12年2月15日(火)〜 |