十一 昇天
「いや、たまらないわ、あなたって。油臭いのよ。不細工だけならまだしも、このにおい、おおやだ」
「そんなこと言ったって、お前、おれのからだはそういう作りなんだから」
「くさいくさい。ごみ、へど」
「やめてくれよう。お前にそんなこと、こんなときに言われると、どうしたって、その」
「やっと縮んだわね。そう、そのぐらいが丁度いいの。だめ、いやらしいこと考えちゃ。あんたのはばかばかしいような大きさなんだから、人並みのこと望んではだめ。わたしのが傷ついてしまうでしょう。もう何度も練習したとおり、そう、そのまま、そうよ」
「もう少し抱き合ったままでいてくれよう。おらあ、お前がいいんだやあらかくて、ほのぼのあったかくて、――あのとき、けなげなお前が、事情は全部わかっていたんだ、わかっていたけどやめられなかっただけなんだ、穴に落ちるのを助けたのも、あのとき、お前に惚れたからなんだよ」
「うるさい。聞き飽きた。そういうことなら、なんで、わたしを助けたあと、神妙にあんたは穴に飛び降りていかなかったんだ、弱虫うじむし」
「おれだってさ、火の海地獄でどろどろになってむなしくはなりたくないしさ、それに、お前がいれば何とかなりそうだって、希望が感じられてさ、わかってくれよう、お前が好きなんだ、たまらなく、その」
「化け物、だめ、あんたのはあぶないんだから。抱いてあげるから、おちついて。……ねんねこりん、ねんねこりん、寝ましょう、しずかに、遠い国の夢でも見て、ねんねこりん、かねさん、ねんねこりん、かねさん」
(『桃』 十一 昇天 了)
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小説工房談話室 No.80 ■■■■■■ 1999/12/06 05:08 和香 Home Page ■■■■■■ JustNet TOP |
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HP採録 平成12年2月15日(火)〜 |