二十二 式典
季節が、巡った。
カネタロヒコノミコトを鎮め祭る碑が、ハダカ山の山裾に建てられた。勇猛矜厳(ゆうもうきょうげん)な似姿を浮き彫りにし、千字の祭文を刻み、百人掛かりで引き起こした巨きなものだった。次代を築くための礎石となって果てた多くの戦士たちを顕彰し慰めるという祈願も込められていた。
隣には、オトヒメが並べられた。ミコトとともにむなしくなったという聖処女、献身とはいえ非業の最期を味わっただろう桃の姫たちの御霊(みたま)が、この俗塵を寄せ付けぬ神体をよりしろとして宿るであろう、彼女たちの犠牲が招来した尊い現世界を見守り永く久しくいつくしんでくれるだろうと思われた。
披露目の際、盛大な式典が営まれた。
桃堕郎は、安寧を誓った。そして、長い間苦労してきた仲間と、近隣の民衆と、解放された市民と、兵士たち、生き残った鬼たちも加えて、酒を酌み交わし、遊芸を楽しみ、無邪気に騒ぎ合った。平らかな繁栄と貴賤恩讐を離れ互いを兄弟とする融和を約すのだった。
宴たけなわ、皆の心の中に、ゆらゆら立ちのぼる音楽が生まれた。そのしらべは、くりかえされる愚かなかなしみや何度でも生まれ変われる喜びやいつでもかえっていけるなつかしさに満ち満ちて、それなのに今にも消えゆきそうにふるえる。ときには歩いていくぬくもった背をありありと見せた。誰しも心の中の手を差しのべたくなる。
裏島研究員がひとり顔をおおっていた。そして、風が渡るごとく、あちらでもこちらでも涙が落ちはじめた。
(『桃』 二十二 式典 了)
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小説工房談話室 No.114 ■■■■■■ 1999/12/22 09:46 和香 Home Page ■■■■■■ JustNet TOP |
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HP採録 平成12年2月15日(火)〜 |