平成9年11月18日(火)〜


物語の誕生

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貴公子が野を歩いていました
彼はまだ
十数歳で
成人したばかり

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野に遊ぶとは
狩りをすることでした

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禽獣を追っていたのでしょうか
季節を探していたのでしょうか

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彼はうつくしい姉妹を
みそめます

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そこは前の都の郊外
往年の面影なく田舎びていましたのに
女たちは不釣り合いなほど
なまめいていたのです

まだ少年といってもいい年齢ですのに
身につけていた信夫摺りの狩衣をちぎって
震えつつ墨書し
従僕に歌を持たせました

あなたたちのために
私の心は
このしのぶずりのように
みだれ迷ってしまいました
苦しさは
際限がありません

こうして
この貴公子の旅は
幕ひらくのです


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原歌(別の窓に)

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