ねっとCafe/nc:読書と人生


タイトル  :経済的富裕が許されない人々
発言者   :和香
発言日付  :1998-06-03 12:59
発言番号  :29 ( 最大発言番号 :220 )
発言リンク:26 番へのコメント

 日本人、インド人、パキスタン人という発想はやめ、地球人として、核実験問題は我々の問題であるという観点から、我々日本人のできることを真剣に模索していく必要があると思います。

 岸本検次さん。
 大変、考えさせられました。

 中国、そしてインドという国は、膨大な人口を抱えながら、今まさに離陸しようとしている国だと思います。
 しかし、思うようには行かない。ともに長い歴史のある国ですから、数年先のことではなく、数十年、百年以上先のことまでみすえて、呻いている、もだえている、という印象を受けます。
 合わせて二十億の人々が、たとえば、アメリカのような、日本のような生活水準(世界の平均から見れば「贅沢三昧」「湯水の如き浪費」ということになるでしょうか。これ)を望み、実現するということは、地球を壊してしまうことと同じ。先進国でも、彼ら自身にも分かってきたのではないでしょうか。
 先進国の「あまり望むな、どうか我慢してくれ」という本音がちらつき、なおかつ、先進国が自国民の生活水準を下げるなど全くその兆しもない。
 閉ざされていく未来。
 相当な鬱憤も、不公平感もあるかと思うのです。

 中国はしかし、安全保障理事会常任理事国となり、核兵器の保持も認知され、また世界中に散らばる中国系市民の隠然とした支えがあります。一党独裁による規律、矛盾を止揚して並立させることに成功しそうな市場経済、・・・もし、中国十億の民が、それなりの富裕を得てしまえば、もう完全に、インドには分け前が残らなくなる、そういう不安(ほとんど危機感)があるような気がします。まして、ヒマラヤで隔てられているとはいえ、何千年も意識しあった仲です。

 インドは、ともに始原の文明を生み育て、近くは第二次大戦で勝利した側であり、屈辱的支配から解放されたことでも同じであるのに、その上、向こうが理不尽な共産国家であるにたいしてわが国は世界最大の民主主義国なのに、なぜ当方だけが、おとしめられなければならないのか、なぜこちらの十億は、後回しにされそうなのか、と苛立っていたかと思います。
 思慮の足らない指導者が立って、ということは、最後の小さなきっかけだったのではないでしょうか。

 話は跳びますが、インドの核実験後、パキスタンには二つの選択肢があったはずです。一つは、現状通りの追随核実験。もう一つは、これを避け、インドの政治的立場を孤立させる、というものです。
 新聞に、パキスタンとインドの対立を「神と神々のたたかい」と書いてありました。イスラムとヒンズーということでしょう。心の土台に、生まれたときから刻み込まれていく、憎しみがあるのでしょうね。
 詳しいことは私には分かりませんが、戦略から言えば、自国が非力であり、たとえ核兵器でやり合ったところで、自国は全滅しても強大な敵国は何割かは生き残ってしまう。そういう見通しが立つ以上、選択を誤ったとしか思えません。
 大局観を狂わせたもの、それが、指導者のものなのか、国民から噴き上がってくるものだったのか、いずれにしても、「憎しみ」ではなかったかと思うのです。そして、背中合わせにある「恐怖」。

 次を考えますと、パキスタンが取るべき手は、自国の非力を同じイスラム国家群に補ってもらおうという戦略でしょう。お礼に核の技術でしょうか。
 火薬庫と言っていい、中東まで巻き込んでしまったら、もう、止まらないと思います。


【若火之燎于原 (ひの げんに もゆるがごとし)】
火がたいへんな勢いで野原を焼くように、物事の勢いが激しく人力ではどうしようもないさまのたとえ。燎原之火。

  『角川漢和中辞典』 昭和三十四年初版
   編者 貝塚茂樹 藤野岩友 小野忍 株式会社 角川書店



 アメリカは、するべきことをするでしょう。

 日本の今の指導層(政治家にしろ、官僚にしろ)が、何かをできるのか、しようとするのか、と想像しますと、むしろ何かをしようとしたときのあぷなっかしさに、はらはらしてしまいます。
 火中の栗を拾う、と言います。
 誰もが尻込みする中、
『よし、出番だ、今こそ半世紀前の汚名をすすぐ好機』
 と、猛然と手を挙げる。
『核保有国は口を出すのは待て。多少の蓄えも、知恵もある。まあ、聴け』
 肩を叩いて、反目する両者を前に座らせる。
 ・・・
 こういう国には育ててこなかった。それは、私たちなのでしょうね。

 ああ。



 ・・・以上が、あとで振り返ったとき、悲観的すぎる認識であったよ、と笑えますように! ・・・






【火中の栗を拾う】
(ラ=フォンテーヌの寓話から) 他人の利益のために危険をおかして、ばかなめにあうこと

  『広辞苑 第四版 CD-ROM マルチメディア版』 (C)1996年
   財団法人新村出記念財団 株式会社 岩波書店


他人の利益のために、危険をおかす。
  『角川国語辞典 新版』 昭和四十四年初版
   編者 久松潜一 佐藤謙三 株式会社 角川書店


 


 
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