平成12年5月6日(土)〜

テーマ「賞賛」


受賞の言葉






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   平成元年
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 わたしが、子供のころ好きだったおとぎ話は、絵本など読んで一番気に入ったのは、三年寝太郎の話です。
 なんてうらやましいんだろうと思いました。

 はたちの頃はそれほどでもなかったのですが、年をとってくると子供のころ刷り込まれた本性が出てまいりまして、我ながら、なんという怠け者なのだ、と思うようになりました。
 このような、だいそれた栄誉をいただけることになりまして、これは、九十九パーセントの、運と、わずかなほかの何かであったか、と感じました。
 でも、まあ、せっかくのことですから、上がらない尻に鞭を打ちまして、頑張って行きたいと思います。
 ありがとうございました。





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   平成二年
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 恋人の複製に恋する。
 夢だろう。
 やり直しのきく人生。
 誰もが求めている。
 小説とは、こういうことをあなたに(書き手である私にも)与える。
 これは本物の恋と言えるのだろうか、リセットすると消えてしまう知らせなのか。
 常在懐疑の如き私ですが、この文字列を頁の中に発見したときこそ、次のなにかしらに完全変態を遂げる。
 背中が、割れてきた、のか。





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   平成三年
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 お母さんに会えるぞ
 そう言われて 子どもたちが石を積みます
 鬼さんがよろけて壊します
 競争相手の塔を壊します

 天才がいて 常に傑作を積み上げました
 選ばれて転生できるのは一人だけ
 それでも皆が彼をほめあげて 彼のお手伝いをするのでした

 鬼さんが壊そうとしますが もう 巨塔となって壊れません
 負けたよ おまえ 生まれ変われ
 そうだ そうだ 君が選ばれたんだ
 ぼくじゃないよ みんなが手伝ってくれたからなんだよ
 でも 生まれ変われるんだから もったいないよ
 ならさ 誰かをぼくに選ばせてくれるかい
 みんなは同意して 彼が誰を選ぶかを待ちました

 鬼さん あなたを選ぶよ
 おれか ははは そりゃ規則違反だ
 でも 鬼さんが一番 生まれ変わりたかったんだ いっておいでよ
 そうだよ いっておいでよ 鬼さん
 お母さんが待ってるよ

 こうして
 賽の河原から鬼さんがいなくなりました
 巨塔から石をつまんで 子どもたちは 思い思いに自分の塔を仕上げました
 すてきだよ
 誰かにそう褒められれば 卒業です
 ひとり ひとり 消えていなくなりました

 彼は 最後の一人になって
 石を積んで遊んでいました

 そのうちに 次の子どもたちが流れ着いてきました
 石の積み方を教えてあげました
 今度は ぼくが鬼か と気づきました





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   平成四年
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 脱稿後、床屋に行きました、私。
 頭皮に傷がついている、それもちょっと「ヒドイ」ですよ。
 「変な虫」でも涌きましたか。
 同好の皆様ならお判りでしょう、先の尖った筆記具でかきむしるのですから、その「変な虫」を。
 三回は投稿してみようと決めたのです、数年前。
 これで終わりと思った昨年、無残な結果に変わりはありませんでした。
 でもいいや、余力があるみたいだからあと一度、と、このように。
 それが、まあ、なんてことに。
 なんてことに。
 (大笑い)





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   平成九年
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 ひとりよがりがなければ独創ではない、というのが私の信条でした。
 でも読んで楽しくなければ、最初の一人の読者さえうなずかせることはできない、私の作品は二度と手に取られない、これも真実と気づくようになりました。
 堕落ではないのか、など何ヶ月も何年も悩みました。
 答えは出ませんが、中間報告は、なんとかこのように絞り出したのです。
 声が聞こえます。あなたたちの声が。
 囂々たる非難ですか。
 これは幻聴ですか。
 でも、うれしい。私に声をかけてくださる方たちがいる、それだけで、うれしい。





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   平成十二年
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 文章を書くということは、私です。
 そうだったのか、という「きづき」が、いくつもありました。
 お金も、名誉も、作品自体さえも、「いのち」のように、はかない。
 綿菓子のように、甘く、少しよそ見をするだけで、しぼんでいます。

 物語に目を輝かせるあなたたちの昔の姿。
 あなたたちのために、続けていけばいいのだと、ある日。
 私は、いいのだと、ある晩。
 やっと見晴るかすことのできた、「のはら」に遊びました。

 感謝いたします。「ひにく」ではないですよ。
 このような「らくえん」に、ご招待くださって。
 次の間にも、いざなってくださいますか。
 あなたたちの瞳が。





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(未了)


















●記録日 02/16(水)09:32 (平成12年)




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