平成12年10月7日(土)〜

テーマ「躊躇」


童蒙朝参(だめっこあさげしき)





 もっとすばしっこくしなけりゃ勝てんな。
 ふん。
 いい大人ができるかってんだ。
 ふん。


 教科書開くのか。
 テストかなあ。
 次代をになう、少年少女。
 まあ、許してやるか。


 つまらない席取りなんかの、反射神経はいらんぜ。
 むしろ重大な選択、岐路であるほど、即決が良いのだ。
 そうなんだよ。
 一気、決断。これが人生を切り開く。
 迷いだしたらキリがない。どちらに行ってもそれぞれ得失がある、完全な満足は無理なんだ。
 直観は、間違うこともあるけれどたいていは当たっている。その上、迷うという面倒や無駄がない。
 即決、直観で失敗したところで、重大な選択であるほど後戻りは効かないんだから、運命とあきらめられる。
 おれらの人生なんて、それほど大げさなもんじゃないんだしさ。さんざん悩んだ末に失敗すれば、自分の愚かさを呪うばかりじゃないのか。そんなのよりだいぶマシだよな。


 あちいな。
 冷房出てんのか?
 だれか窓あけてないだろうな。


 夏はふんどし。
 当然ではないのか?
 女どもが「きゃあー」って逃げまどうのだ。
 はは。だよな。
 おまわりが来たら、ネクタイを見せて、通勤着だと言い張る。
 軽犯罪法違反でつかまるが、人権侵害と抗議する。
 ふんどし族、反旗!
 みんながもうたまらんぜよって居直れば、満員電車をなくすかふんどし族を認めるか、二つにひとーつ!
 だよな。
 南洋だもん、日本の夏ってよ。


 おいでよ。
 だれも命とろうなんて、考えてないからさ。
 誘いこんでく。
 人質とったりして。
 ふんどし族、籠城!
 電車転がして、煙が立ちのぼったりするわけ・・


 われわれはあ、にんげんになりたーい。
 われわれはあ、すきかってがしたーい。


「くふふ」


「うふ」


 無邪気に笑ってるよ。


 なんだよ、教科書はもういいのか。
 マンガ本みてるよ。
 なんだよ、男同士でエッチしてるやんけ。
 なんで笑うんだよ。
 そういう場面かあ?


 いてて。
 つらいぜよ。
 一日分の元気費消だぜ、もう。


 うらうらあ。
 こっちはこんな苦しんでんだ。
 おまえはマンガでえへらえへらか。
 胸の谷間ぐらい見せてほしいよな。


 うーん、ねえな。
 完璧、たいらだな。
 かわいい顔してんのに、かわいそうに。
 うはは。


 お、こいつの駅じゃん。 
 なにしてんだよう、ねえちゃん。
 お兄さんはもう座れるもんと、織り込みずみだぜえ。
 よっこらせって、唄わせてくれよ。


「おい、おりるんだろ」


 あせってるよ。
 おろかものめが。


「ありがと、おじさん」


 あうちっ。
 ・・て、ほどでもないか。
 背中たたいていきやがった。


 ははは、おじさん?
 このやろ。
 ははは、ま、いいか。


 え?
 なんだよ、おれにほれたのかよ。
 ホームで、手、振ってるぜ。
 いや、こぶしを振ってるな、ありゃ。
 なに?
 え、おれ? なんで? なにが?
 あほか、あの子。


 あ、このことか。
 定期入れだよ。
 落ちてるよ。
 ばかじゃん、あわてもんだわ。


 ああ? 二年花組?
 宝塚かよ、おろかだよ。
 いっちょまえに名前があるか。
 ・・・あたりまえか。
 はは。


 ああ、そうか。これないと駅出られないんだ、あの子。
 次で降りて、引き返して持ってってやるか。
 こまったもんだ。
 だめっこ。
 めっ。めっ。


 いやいや。
 引き返して、また上りに乗ってなんてやってたら、おれが遅刻だあなあ。
 あとで持ってってやりゃいいんだよな。とりあえず、電話でもしといてさ。
 駅はなんとか出られるだろ。


 ああ、そうか。
 次の駅で駅員に事情話せば、そっちで連絡してくれるか。
 そうだ、それにしよう。
 あたまいい。
 決まり。即決。
 ふう・・


 駅員に話すと、かえって長引くかなあ・・


 もうすぐ着くよ。
 なんか、いいことありそうな気もするよなあ。
 うーん、どうしよう。やっぱ折り返しで持ってってやっか。
 べそかいて、おろおろしてんじゃないの。
 あっちも待ってるような勘が、しきりに、するんだよなあ・・
 でもなあ、いいことなんて、そうそうあるわけない・・
 ああ、ええい!
 うーん・・


 とにかく降りっか。
 
 
 
 
 
 

(ベル。。。 幕)

 
 
 
 
 
 


●記録日 07/22(土)06:52 (平成12年)




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