平成13年4月1日(日)〜
※ 雪合戦(遠い昔)
僕はまだ参加してないのに、ぶつけるなんて、と涙目で抗議。
なに言っちゃって、と、えばっているのがあいつだった。
※ オフィス(平日昼前)
大崎さん、お電話です。
「うん」
花野あかりさん、ですって。
「え?」
知らないなあ。
「はい、替わりました。大崎です」
『こんにちは。大崎さま。お申し込みいただきましてありがとうございました』
「はあ」
なに、だれ。大崎さんに女の人からって、めずらしいじゃん。
花野あかりさんだって。
へえ、わざとらしい名前だ。
「ええと、ちょっと記憶がないんですが」
『今、手元にお葉書をいただいていますよ』
「それ、私が出してますか」
『まちがいなく。御印鑑もいただいています。このようにお勤め先のお電話も明記いただいて・・』
「とにかく、困るんですよね。いま仕事中だし、申し込んだ覚えがないし」
『そうですか。でも、本意ではなかったとしてもです。独身でいらっしゃるのですから、いかがでしょう。お試しで参加ということでもかまわないんですよ。 ・・若いお嬢さんがたくさん。合コンのノリです』
長引いてるね。
みゆき、なに黙ってるの?
「べつに・・」
ちょっと、ニュースだよ。
どしたの。
結婚相談所みたい、大崎さん。
うそう!
申し込んでないって文句言ってるけど、お芝居かも。
だって、ちゃんとみゆきってひとがいるのに。
「・・・・・」
ちがうよ。心配ないよ。よくある勧誘電話だよ。
そうそう。
もうちょっと、聴いてくる。
「とにかく申し込んでません。結婚なんて興味ありません」
『困るんですけれど、このように正式のお葉書までいただいて』
「そう言われても、何かの間違いですから」
あいつだ。
一年前くらいか、「痔」の薬の試供品が家に届いた。
おふくろが小包持ってきて、おまえ「痔」だったのって、心配してるような、ほんとは笑ってるような顔で見た。
くそう。
雑誌に綴じ込んである葉書なんかに勝手に書くんだよな。人の名前や住所。
くそ。仕事は遊びじゃないんだ。
おまえと馬鹿話してるときの俺じゃないんだよ。
わからないのかなあ・・
「興味ありません。切りますよ」
『困るんですけど』
悪いやつじゃないんだが、いつまでも子供なんだよな、あいつ・・
ああ、わかった。
なにが。
花野あかり。
それが、どうしたの。
ええとね。中華の華って、ハナって読むじゃない。
うん。中華丼、たべたい。
そうか、お昼近いかって、そらすんじゃなあい。
ごめんごめん。
明かりって言えば、ロウソクでしょう。
そうお? 螢光灯とかお日様とかさ。
あ、わかったあ、あたしも。
言って。
かしょくのてん。
そう。
ああ、そうか!
まちがいない。
どう、調査隊。
はあはあ。 ・・結婚なんて興味ありません、だって。
力説?
力説。
あ、 ・・・みゆき。
・・・・・行っちゃった。
怒ってた?
なんか、泣いてたよ。
えー、どうしたの。
給湯室かな。
トイレかも。
※ エレベーター(平日昼過ぎ)
「信じてくれよ。間違い、っていうか、いたずらなんだ」
「ふうん」
「ほら、会ったことあるだろ。俺の悪友。あいつの仕業だよ」
「お友達のせいにするのね」
「いや、だからあ・・」
「・・・・・結婚なんて、 ・・・興味ないんですってね」
「断わるにはどうにでもゆうしかないじゃない。俺の本心なんかしゃべる必要ないんだし」
「本心なんか・・ そうか」
「たのむ。ちゃんと僕を見て、話を聞いて」
「聞いてるわ」
「・・・・・な、な、泣くなよ」
「泣いてないもん・・・ うう」
「ある人以外には、そんな気持ちはまるでないんだ」
「そう、ああそう、よかったわね」
「だから、 ・・・・・」
「・・・・・・・・」
「わかってよ。君以外に、という意味だよ」
「・・・・・・・・・・」
「・・・みゆき・・・・・」
「・・・・・んん、しげなりさん・・・」
がああああああ あああ
くすくす
「さあ、仕事だ、仕事」
ねえねえ、みゆき・・
※ ファミレス(週末深夜)
「悪かった。反省している」
「ごめんじゃすまないぜ、おまえよう」
「だっておまえがよ、ケツがかゆいっつうから、友人として考えてあげただけだってば。ほんとに」
「だから、あれはあれだが二度も三度も」
「いや、だから、俺の話もきけよ。痔のことは悪かった。猛省している。ごめん。何度もあやまってるじゃん。一生あやまるのか、おれ? でもさ、結婚相談所は知らないぜ」
「このやろ。反省してないじゃん。嘘はもういいから、白状しろって」
「いや、ほんと知らない。俺の眼を見ろ」
「ええー、信じらんないよ。おまえ以外にいるわけないじゃんよ」
「うーん、おまえ、うらみを買うとか心あたりないのか」
「ない」
「ううむ・・・・・」
「白状しろって」
「・・・・・ふふ。わかった」
「なに」
「うん。たぶん、みゆきちゃんだよ」
「え?」
「一度しか話してないけど、あの子、そういうことする匂いがあったよ」
「嘘だろ。 ・・・なんで」
「ははは、はは。わからねえのかなあ、おまえには」
(幕)