ねっとCafe/nc:小説工房談話室


タイトル  :『お見合い』転の章
発言者   :和香
発言日付  :1998-10-21 03:17
発言番号  :287 ( 最大発言番号 :388 )
発言リンク:286 番へのコメント

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     お見合い

 
 
 トンネルを抜けるとそこは雨が降っていた。緩やかに曲がりくねった道路は  
適度の緊張を保ち、やがて限りなく透明に近いブルーの青空が見え始めた。  
 ここ、だっちゅうの海岸は車の往来も無く、閑散した冬景色を眺めてドライブ  
するには 退屈な町風景である。  
  トンネルを抜けてはや30分 、やがてこじんまりとしたドライブインにたどり着いた。  
 『パイレーツ』と書かれた看板は所々穴が開いていて妙に親近感を感じた。  
  親父が経営してたパブの看板も こんな感じだった。車をはじに寄せると二人のうら若き  
女性が出迎えに出てきた。  
  かくゆう私は「我が輩は人間である」  
 
 
 
その二人の女性は一本の傘を差して、  
そしてもう一本の傘を持って私の車に近づいてきた。  
「コン、コン、コン」とショートカットの女性の方が車のウインドウをノックした。  
私が車の扉を開けると  
「どうぞ、ご案内いたします」  
とニコリともしないで傘を差しだした。  
「はぁ、どうも。」  
と曖昧な返事で応えて彼女らの案内に従った。  
私はそもそも何故ここに来たか知らされていない。  
ただ単に叔母にここに来るように言われただけだ。  
セミロングの女性の方が私の前に、ショートカットの女性の方が私の後ろにと  
私を挟むようにして先導した。  
まるで罪を犯して連行される囚人のようだ。  
案内に従ってついていくと、  
ドライブインの中のある一室に通された。  
「まだお相手の方がお着きになっておりませんので、  
 こちらの方でお待ちください。」  
とセミロングの女性はやはりニコリともしないで言って、  
部屋から出ていった。  
「何だ?お相手の方って?」  
私の頭の中はクエスチョンマークで一杯になった。  



 海を見ていた。
 硝子が曇ると手でぬぐった。
 風が出てきたのか、波頭の白さが増したようだ。
 声がして、セミロングの女性に「どうぞ」とうながされた。
 後に着いていったが、奥まった和室の方へと案内された。
 どうやら、叔母に、はめられたらしい。
 七回忌の頃だったか、そんなようなことを言っていた。
「あゆみちゃんは赤ちゃんだったし、大丈夫よ。お仕事の方も・・。ね・・」
 セミロングの女性は、板廊下に膝をついて襖を開けた。
 生返事しかしないで、はっきり断わらなかったことが悔やまれた。
 私は、立ったまま、一礼して入室した。
 思った通り、卓の下座に、「お相手」らしい人の背中が見えた。
 上座には、初老の男性がいて、
「おお、久しぶりだな、待たせたらしいな」
 と、にこやかに頷いた。
 親戚の誰かだった。名前が出て来ないほど会っていない。

 簡素だが、海の幸が並んでいた。
 卓について、互いの氏名を紹介された。「はじめまして」とそちらへ辞儀をした。
 どう切り出そうかと思った。
 ・・断わりの文句を。
 位置を移りそっと正面に座ったその人は、ずっとうつむき加減だった。
 色白ということは分かる。
 申し訳ないと思って、意識的に向こうの壁や壁に掛かる額や横木を見ていた。
 踏ん切りがつかず、硝子戸の外の、細かい雨と、遠く波の気配だけ背負っていた。
「ほら、御両人、美味いぞ」
 たまに笑いながら、「叔父」は、場をほぐそうといろいろ話し始めた。
 親戚内の昔話だが、私も少しは知っている事情だった。
 彼は、昔銘柄の煙草をくわえて、揮発性の匂いをただよわせライターを打った。
 その時、後頭部、背中、両腕、これらの体毛が一気にさむけ立った。
 親父だ。
 箸を落とした。
 正面の人が顔を上げた。
 息が止まるほど、清らかなおもざしだった。
 亡くなった妻だった。














 では、締めていただきましょう!
 結の章を、

燐華さん

 にお願いいたします。

☆ 新参入、飛び入りの方、いつでも歓迎ですよ〜 ☆





! 花島賢一さんへ !

 訂正発言(#275)があったものと考えて、「限りなく」を起の章に加えておきました。よろしいんですよね?

 ふだんのお話のほう、回を重ねるごとにあぶらがのってきていますね。
「それは花島さんのことであって、私の未来は違うから」
 なんて生意気を言う「幻想や勘違い」、これはあった方がいいと思います。
 未来の現実がそのまま見えたら、若者が結婚しなくなっちゃうかもしれませんし・・

 いや、実際にそういう時代になってきたかも。
 結婚に限らないんでしょうけど・・
 「お見合い」にある「伝統や様式の力」が再発見されていくかもしれません(笑)





! 平松高太さんへ !

 「4章小説」、わりと面白いでしょ?
 もう、次のが、書きたくなってるんじゃないですか。
 今後とも、どうぞよろしく!





 ではでは、また〜 *【^−^】*


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