ねっとCafe/nc:小説工房談話室


タイトル  :『邂逅』 正規版 感想
発言者   :和香
発言日付  :1998-12-15 19:03
発言番号  :749 ( 最大発言番号 :849 )
発言リンク:731 番へのコメント

[次の発言|前の発言|最後の発言|先頭の発言|発言一覧|会議室一覧]


『邂逅』 正規版 感想


 ちなみに、私個人の文章のランク。

 短くて、良い文章 : 最高
 長いけど良い文章 : まあまあ
 短いけど悪い文章 : ダメ
 長くて、悪い文章 : 最悪

 『邂逅』正規版は、最高ではないけれど、最悪でもない。
 もう少し、短ければ、という気はしました。





 「乱入」もまた、つらそうです。
 指名を受けた人は、乱入を受けるという不安にそれぞれ程度の差はあれ焦るでしょう。しかし、文章にその焦りが出ないようにと気息整え、出し抜かれたら抜かれたらだと居直り、そういう(気の持ちようでしょうが)ある不安定な環境の中で書きます。
 でも、乱入する側も、これ以上に、精神的な揺れの中にあるのかもしれません。
 乱入されてしまう、というのは、それはそれで想定されているので一つの場面になりますが、乱入することに失敗したら(書き上げて乱入しようとしたら指名された人がもう普通に発表していた)、場面にすらならない。誰も知ることがない。そういうことでしょうから。
 今回のカオスさんの「起」には、わずかですが、この「焦り」を感じました。

> 「今日は、人が多いな。どこからこんなに湧いて来るんだ」
> 「しかたないよ、クリスマスだもん。私たちだって、人のこと言え
> ないよぉ」
> 「それもそうだ。久しぶりだもんな、二人で街中に出てくるのは」

 真理ですね。
 会話で状況のほとんどが述べられている。巧みだと思います。
 私なら、この会話を核にして、他はほとんど削ってしまうところでしょう。

> ショーウィンドウの向こうには彼女がいた。
> 動くことを禁じられた写真の中で、穏やかな微笑みを浮かべる彼女が。

 「ショーウィンドウ」という語感ですから、若い美しい女性像を私は想像しました。
 「ひとめぼれ」系統のお話になるのかな、とこのときは思っていました。





> 「どうしたの?この写真の人は誰なの!知り合いなの!」

 この語調。
 あきらかに嫉妬ですよね。
 つまり、平松さんも、「ひとめぼれ」系統で書いていると思いました。

 絵里のキャラが微妙に変化しているのが面白いと感じました。
 カオスさんの絵里は、穏やかで大人です。つきあい長そう。
 平松さんの絵里は、少女っぽくて、交際も季節限定みたい感じ。
 ここらへん、著者が彷彿。(^^)





 まさに「転」ですね。
 女性にとっては、男が女に一目惚れするっての、あんまりうれしくないのかもしれません。
 要するに、浮気と紙一重orそのものでしょうから。

 でも、こういう転調もありですね。
 瞳の色、遺伝、祖母、そういうお話が立ち上がって、華やかな喫茶店のショーケースに象徴されるクリスマスから、

> 店内は、ほこりと何かの薬品の匂いが混ざり合った様な、一種独特な
> 匂いがしている。

 信仰、聖夜という色合いに移っていく。
 この写真館は、「教会」にも通じるのでしょうか。
 著者の、「単純」ではない性格が感じられます。

> 隣で恵理がえっ、と言うのが聞こえた。

 「絵里」ですよね。
 どうもぱられるさんは、子供っぽい女性というのがお好きではないらしい。
 あるいは、そういう女性を好む男の「さが」が、いやなのかな・・

 # ま、たしかに、いい年こいて甘ったれたこと言ってる男ってのも、私には溜息ですから。同じことかも。





 苦しまれたと思います。
 材料が多すぎるんですよね。
 クリスマス。写真。瞳。祖母。絵里。
 いくつかが落ちてしまってもしょうがないところ、よくぞここまでまとめていると思いました。
 独白調という工夫。前回『☆』でも感じましたが、keitoさんの文章は演劇との縁を感じます。

> は? しらないって? それじゃあ、あなたご自身の目のことも?

> ・・・ははあ、ご両親も多恵さんも、あの話を秘密にしていたのですな。それに
> しても、目がみえない事実まで、隠しとおすとは・・・

 しかし、リアリティということを考えると、つらいところもあります。
 もし、一緒に暮らしていたなら、気付かないということはまず不可能でしょう。

 離れて暮らしていて、まれまれに会う。
 「僕」は幼くて、子供らしく自分中心で、気配りや思いやりが決定的に足らない。(私が、こんな困った餓鬼でした)
 そういう条件がいくつか重なって、この歳この日になるまで知らなかったということでしょうか。
 動作が緩慢で、反応が鈍くて、つまりそう見えて、邪険にすら扱っていったなら、年寄りとはそういうものと決めつけていたなら、あるいは、気付かなかったということもあるでしょう。
 お小遣いがもらえるとか、そういう実を取ってしまえばあとは、ほったらかし。愛されて当たり前・・
 ・・仮にそうなら、物語の表面にはでてこない(つまり「僕」の意識が思い出したくない)、そのたび胸刺すような苦汁が、クリスマスの日にこういう邂逅を引き寄せた、と言えるのかもしれません。








 みなさま。
 正規版も、こうたろうバージョンも、難題、ご苦労様でした!

 さてさて、次はなにかな?


[次の発言|前の発言|最後の発言|先頭の発言|発言一覧|会議室一覧]