こんにちは!
『受験』の感想
お題
学校が舞台なのは『ラブレター』以来でしょうか。
今度は、中学三年生でした。
執筆の方々は、この年齢を(人によっては大きく)過ぎているはずで、懐かしく思い出されながら綴られたのではないでしょうか。
また、一方、出題の燐華さんが現役ですので、いわば、本職の閲読を受けながらの創作という面もあって、それなりの緊張もあったのではと思います。
ほんと、お疲れさまでした。
起
「受験」というテーマで何を書くのか。ここから、迷いますよね。
私がもし「起」なら、不正入試(コネクション、カンニングなど)でいったかもしれません。
また、SFということなら、萩尾望都『11人いる!』などこのテーマそのもののような気もします。きっと、まだ未開拓のアイデアがありそうです。
なのはなさんは無難に、学園ラブコメ風のオープニングを提示なさいました。
> 行きたい高校と行ける高校。
> どっちに行けばいいのかな。
> たかし君と同じ高校とあゆみと同じ高校。
> どっちが楽しいのかな。
要にして簡です。
この設定は、さまざまな想像を呼び起こしてくれます。結局最後まで、この命題を軸にお話は回転していったと思います。
優柔不断気味のミカ、よき相談相手らしいあゆみ。ミカの彼氏、たかし君。普通は友人や彼に励まされて、ミカが最後の選択に達する、というのが健全な進行かもしれません。
が、ミカとあゆみの会話を繰り返し読むうち、どうも、あゆみが持て余しているような、たかしが煙たがっているような、そんな気がしてきたのです。
承
承の受け方は、思い付くともうほとんどすぐ、全体が浮かんで、これしかないなと感じました。
そこで、ストーリーの運び方に難しいというところはありませんでしたが、「今どきの中学生」ははたしてどの程度なのか、ということはよく分かりませんでした。(いつか、『耳をすませば』の主人公たちが高校生だったか中学生だったかという話題もありましたよね・・)
人それぞれ、いくらでも個人差はあることでしょうから、何を書いても嘘にはならないでしょうが、お話としては、「中学生らしさ」がどこかにないと説得性が弱くなるかも、そんな気はしました。登場人物には、印象強い個性も欲しいけれど、彼らの所属にある普遍も併せ持っていて欲しいか、と。
こういう点は、主にたかしに担ってもらったつもりです。中学三年の男子なら、たとえ学力があっても手の届くところに女の子の色香があれば、たぶん、冷静ではいられない、他のものが見えなくなるのでは、自制は効きづらいだろうなあ、と思いました。
男女が三人いれば、三角関係が自然発生する、ぐらいに私は思います。
人間は残酷な生き物でしょうから、《 一人をダシにして、あとの二人が燃える 》、これが三角関係の本質ではと思います。ですから、ダシである人は、実は邪魔者ではないのです。燃料とも言えるたいへん大切な存在なのです、恋する二人にとって。
あゆみは、こういう恋の力学に、意識的にではなくても気づいている、そういう少女ということにしてみました。
市原さんのおっしゃるように、ませてるのかもしれません。もし、『お見合い』に登場した「あゆみちゃん」の成長した姿であるなら、多少は複雑な家庭環境にあるはずで、こういう早熟もありそう、という勘が頭の隅にありましたが・・
さて、ダシにされている側からみれば、真相を知ってしまえば、後ろ指の嘲弄そのものでしょう。大人の世界では血の雨が降りそうです。
普通の神経があれば、彼らの燃料になり続けるという選択はできないと思います。(そういう自虐に狎れてしまって、というのもありはするでしょうが、ま、おいといて)
真相はいつ暴露されるのか、中学生であるミカのリアクションは、という辺りが期待でした。
平松さんがちょっと触れているように、「転」の色合いのある「承」であったかもしれません。私はどうもこういう「情念」とか「嫉妬」とかの世界が好きなもので、やや遊ばせていただいた、というところもありましたか。
転
この「転」、そして「結」と女性の執筆となりましたので、ミカに触れるのは当然の流れとしても、あゆみはどうするのか、どういうせりふを使うのか、を密かに楽しみとしました。が、残念ながら御両人とも登場させてはくれませんでした。
女性にしてみたら、肩入れしたくないキャラクター、または扱いづらいそれであったのでしょうか。あゆみ的な性格に苦しめられた経験があったり、逆に、あゆみそのものであったために生々しすぎて、あるいは、単に、どうにも筋にはまらなくてだけかもしれませんが、・・
ここら辺は知らぬが花でしょうかね。(^^)
「起」でミカとあゆみ、「承」であゆみとたかしですから、「転」では二度も予告されたとおり放課後のミカとたかしだろうとしか思っていませんでした。
そうではなくて、しかも、四人目の女子高生が登場して、私としてはかなり意外でした。
私としては、「転」でこの時点でのお話はほぼ目鼻が付いて、「結」では後日談風に受験の当落まで話は及んで、という見積もりがあったのです。
keitoさんは、そういうおおざっぱな長い目ではなく、もっとこまやかな時間の捉え方をしていたのですね。良い悪いではなくて、感覚の個性でしょう。面白いと思いました。
この女子高生は、主体性のないミカを突き動かす役割をあゆみから引き継いでいるのでしょう。あゆみという、近すぎてある意味純粋な助言のできない友人ではなく、もっと遠く客観的な力として、ミカにぶつける。
> 「お手手つないで進学するの? ひとりじゃ心細いって感じ」
彼女には、keitoさんが乗り移っているような気もします。
気合いを入れたかった、見ていられなくてミカを救いたかったのかな、と感じます。
結
「結」冒頭にある、あゆみ+たかし関係の暴露、とても自然だと思いました。
私が「あゆみ」なら、志望校の変更を、言い訳をまじえてくどくど直接ミカに説明するかもしれません。が、このように他人の口を通して分からせる、という作戦。いや、そんなようであればいいかなという「流し方」が匂って、あゆみの見えざる長い手を感じます。
絶品です。
そして続く、ミカの反応もうまいなあとため息でした。
> ねぇ、ほんとはね、あたしそんなに鈍くないよ。
> これでも色々考えているんだよ。
> ただ、向き合うのが恐かっただけ。現実を見つめる勇気がなかっただけ。
その事実については、初めて知ったわけでもなかった。知りたくなくて目をそらしていただけ。・・・こういう心情、じつに迫真だと思います。同時に、ミカの人柄がにじんできます。
女子高生のインパクトある励ましだけではなく、もしかしたら、悪魔的ではあるけれど、友人あゆみのジャブの数々が、ミカにひりひりした現実を知らしめていく。
> でも、もう答えは出たんだね。・・もう、目を閉じてはいられないんだね。
この一瞬、読者の心をミカは捕まえただろうと思います。
殻を破り、翅(はね)をひろげ始めたミカの戦いぶり、見事です。
たかしも容姿にだけ惹かれていたわけではないのでしょう。
あゆみも、これでやっと、存分に戦えると安堵しているかもしれません・・
※
三人ともT高校に受かって欲しいですね ☆
入学してみると、たかし並の男子がうようよ。とたんに、たかしが色あせて見えてきて、・・・なんて展開も、楽しそうです。
こうたろうバージョンの転と結について
『受験』正規版、私はとても気に入りました。
はたして、後出しで、このこうたろうバージョンを出展して、著者は恥ずかしくなかったのか、という辺りを以下検討してみたいと思います。
(↑ じょうだんすよ ^^;)
総体的に見て、こまやかさという面では女性陣の敵ではなかった、と思います。
歯牙にもかからないという風です。
どうも、男性校医があまりにいかがわしくて、内気なミカのような少女が心許すというのが疑問です。でもまあ、私から見て、この校医は平松さんの願望そのものではという先入観があってのものでしょうから、アンフェアな感想でしょうね。
(温泉につかりながら、女子中学生に聴診器をあてるとか、妄想したのかな?)
↓
せめて女医あるいは年配者にできなかったのかなあ、と思いますが(苦笑)
> 若い男がボケーと饅頭をお茶菓子にお茶をすすっていた。
> ミカにとって彼は一番信頼している大人で、
> 露羽ユキフトと言う名前のちょっと変わった校医だ。
いくら苦手とはいえ、名前が無茶苦茶ですよ(爆)
(今また、笑いが止まりません。・・ああ、くるしいぐらい)
・・・・・
> 「ユキフトさん。
> いつも思うことなんですが、
> 学校の中で先生が生徒にお茶やお菓子を振る舞っても良いんですか?」
> 「以外にお前は堅いヤツだな。
> 良いじゃないか別に。
ここらへん、わりと楽しい問答です。
ただの変態ではないらしい、という興味が湧いてくるところ。
惜しいかな「以外」は誤字。他フォーラムでも相当数見かけます。要注意ですな。
以下会話のテンポが、もう一つ遅いという気がします。
お茶をすすって、ゆったりした雰囲気を出したいのだろうとは思いますが、「ゆったりした雰囲気」は「だらだらした文章」とはイコールではないのでは、と感じます。
長い時間を短い文章で表わすことも、短い時間を長い文章で表わすことも、それほど珍しいことではないです。ちょっとした情景描写とかで、だいぶ省けたのでは?
> 「ミカ、お前は何で高校に行くんだ?」
> いきなりユキフトは訊いた。
これ以降、さすがに読ませますね。
苦労人平松さんなりの、大げさにいえば「哲学」があるからでしょう。
keitoさんやぱられるさんとはまた違う、男らしい大ぶりの諭しを感じます。
物語というよりも、ここらは、人生相談のノリになっていきますか。
現にこういうことで悩み迷っている中学生にとっては、有用な文言となっていると思います。が、読者の大半はお子さまではないので、「現にこういうことで悩み迷っていない」というところにズレはあるかもしれませんな。
> 高校に行けば新たな出会いがあるからって事だ。
> とにかく友達が増えるって事だな。
> ・・・・・
これに続くユキフトの説諭には、智恵を感じます。
もっともなことだと思いますが、
> ・・・・・
> 別れが来るときはどんなに頑張っても別れるしかないのだから。
> それが遅いか早いかの差だ。
> ここで俺が聞きたいのは
> お前はそいつのことが本当に好きなのか?
> そして一生好きでいられるのか?」
お子さまでない読者は、疑問も感じます。
友情や愛情が、距離が離れたことによって薄まってしまうとき、それは本物ではなかったからなのか、と。心が繋がってさえいれば、本物としての条件を満たしているのか、と。
理想に過ぎることを、若年者に諭すというのは、やりがちなことなので、ユキフトのみならず私なども自戒したいところなのです。立ち止まって、考えてしまいます。
あるいは、中学生や高校生は、未成年者であって、つまり不完全な人間なのか、と。
だから彼らがこころ素直に望む選択は、ほぼ未熟で、たいてい指導や矯正を要するもの、そういう反射に慣れてしまっていいのか、と。
生涯忘れられない愛、そんなものが生じることはないと言いきれるのか、と。
歳が足りないと言うだけで、こんなにも干渉や制約を受けるべきなのか、と。
以上ここら辺は、平松さんの文章への批判ではありません。
ふと、気になったということの覚書とお考えください。
(中学生の世界に、大人が関わってくると生じてくる懸念、でしょうかね・・)
(それとも、ユキフトは物語の中から、素知らぬふりをして、お子さまではない読者にも謎をかけているのか・・。 どう思う? これで良いと貴方は思うか? と・・)
> 「あっそ」
> と言ってミカはたかしの頬に平手を食らわした。
ここは、唐突感が否めません。
衝撃はないのか。
これほど短時間に、好きという感情が洗い落とせるのか。
いや、気持ちが褪せる時ってのは、このようなもの、ということもあるかもしれませんが、うーむ・・
最後にあと一行、欲しいです。ミカの外面とは裏腹なそれを。
比べたら、やはり正規版の結末を愛したいです。私は。
・・・・・
☆ ですが、平松さん。
こういう挑戦自体は、私は、もっとと思います。
どうにも甲乙つけがたい、と悩ましてくださいませ。
※
では!