ねっとCafe/nc:小説工房談話室


タイトル  :『異世界』 転の章
発言者   :和香
発言日付  :1999-01-27 14:01
発言番号  :1049 ( 最大発言番号 :1149 )
発言リンク:1023 番へのコメント

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お題 カオスさん

異 世 界
 

起の章 市原勝美さん

「賢太、お母さんのめんどう頼むぞ !」
母の看病で会社を長く休んでいた父は、そう言って会社に出かけると
賢太は大好きな「宮澤賢治」の本を携えて病院へ向かった。
母が入院して七週間が経ち、いま集中治療室に横たわっている。
入室前に消毒をして白衣に着替えた賢太は、口許に酸素マスクが宛われ
点滴液や心電図の管がはりめぐらされた母を痛々しそうに見つめている。
「母ちゃん、早く元気になって家へ帰ろう !」
彼は声のでない母に向かって心の中で呼びかけている。
治療のため部屋から出された賢太は一階のロビーで物思いに耽っていた。
突然、看護婦が病室へ至急来るように伝えに来た。
彼は不吉な予感を払いのけるように、一途な祈るような気持ちで病室へ駈けて行った。
主治医が心臓マッサージを処置しているを目にして、彼は心が張り裂けそうになっている。
母の心臓のオシロスコープ波形が停止を示す一直線が続いているのを見た賢太は
主治医に向かって泣き叫んだ。
「母ちゃんは未だ死んじゃいない!」
主治医は、彼を見つめて黙って顔を横に振った。
賢太は頭の中が真っ白になり両手で母の心臓を何度も何度も押し続けるのだった。
「母ちゃんが死ぬなんて嘘だ! 僕は悪い夢を見ているんだ!」
目の前が真っ暗になり奈落の底に突き落とされたように絶望の淵に沈み込んでいくのであった。
賢太は夢遊病者のように病院に隣接した広々とした林の中に入って行った。



承の章 花島賢一さん

目が霞んで物の輪郭が分からない。 ふき取る手にも力がはいらなくなり、諦めてなすがままに。
時折、心の底から襲う空しさに体の自由を奪われ足を止める。
「母ちゃ、、、」
口は開くが嘔吐の様に声にはならず。
やがて疲れ始め、木の幹に座り込んだ時は漸く自分を取り戻しかけていた。
賢太は認めたくない事実と葛藤している。まるで人形の様に、静かに、動かず、黙ったままで。
感情の支配に我を忘れてどのくらいの時間がたっただろう?。
ようやく頭を上げたときは木々達の間から射す妖精の陽光は無くなりかけていた。
やがてやって来る闇に自分の気持ちを等価させる様に賢太は動こうとしなかった。
張り詰めていた気力が解き放され、やがて心地よい睡魔となって賢太を襲い始めた。

「賢太!遅くなるよ、早く起きなさい」
いつもの光景の一時、賢太は布団から顔を出して時計を睨みつける。
「後五分、後五分」
片目を瞑って、気合いを掛けるが時計は無情にも秒を刻む。
「賢太、学校遅れるよ」
「分かった、、、」
賢太は自問自答した。
「母さんは、死んだはずだ」
我に返った賢太の現実は闇の世界。
「どうやら、寝てしまった様だ」
独り言と共に立ち上がろうとした。
 
 

転の章 和香

 ひらめいた。
 ああ、とうめくと、たまらずに、賢太は走りだした。
 木の根に何度か足を取られよろめいたけれど、転ばなかった。
 きっとそうだ、そうに違いない。 ・・・

 面会時間はとうに過ぎて、病院のロビーは閑散としていた。
「賢太くん!」
 彼を見つけた看護婦が、泣きそうになりながら駆け寄ってきた。
「早く来て。お母さんが大変なのよ」
 病状の悪化を言う。
 やっぱり! まだ、まだ生きてる、母ちゃん・・

 看護婦が、ここへ、とドアを開けた。
 診察室のような小部屋だった。レントゲンの写真がいくつも貼ってあった。
 入室してきた医師は、椅子をがたがた引き寄せて口を開いた。
「賢太。お父さんを呼んでいる時間がない。危ないんだ」
「先生。母ちゃんを死なせないで。約束して」
 手を合わせた。相手の眼をまっすぐに見上げた。
 眼が伏せられて、低くこう言われた。
「望みは、ほとんど無い。ごめんよ。残された方法は、特別な手術だけだ。最善を尽くす。いいか?」
「僕が決めるんだね」
「そうだ。賢太は、お母さんが元気になるなら、どんなことでもするな」
「なんだってする」
「よし。賢太の願いが強ければ強いほど、お母さんの命が盛り返すんだ」
「その手術をしてよ、先生。このままじゃ、なんにもしてあげてない。かわいそうだ」
 では、これにサインしてくれ。
 そう言って、医師は黒っぽい紙を前に置いた。

 
母さんをなおすためなら
ぼくはしんでもいい
ぼくのしんぞうを母さんにあげます

  サイン:
 

「これ・・」
「そうだ。若々しい心臓を移植すれば、お母さんは助かるかもしれない」
「僕、・・死ぬんだね」
「そうだ。君は、さっき、なんでもするって言わなかったか。あれは、嘘かい?」
 後ろから看護婦が両手で、ボールペンを賢太に握らせた。
「勇気を出して、賢太くん。さあ、ここにサインをして」
 二人の顔を交互に見た。笑っている。








 次ですが、順当になのはなさんのつもりでしたが、そうはいかなくなってしまいました。
 (T_T)。。

 『異世界』 結の章は、

 カオスさん

 に、お願いいたします。
 順番は跳んでいますが、未経験、ということでよろしく。
 


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