こんちは。
『異世界』の感想
お題
この言葉はとても語感がいいので、私もリンク集のタイトルに使っています。
4章小説のお題としては、やや漠然か、という気はしました。テーマというよりも物語の雰囲気、またはジャンルを指す語のように思います。
とはいえ、出題は動かせませんので、起の人は困惑するだろうなあ、と思いました。内心は期待でした。どのような物語を始めることも可能でしょうから、つまり、通常以上の起動力が要るはずですので。
起
市原さんの起、これは重すぎると感じました。
リレー小説には重い、というよりも、市原さんのHPを読ませていただいていたので、ここに述べられていることは(そのままではないにしても)市原さんの実体験に基づいている、と気づいたためです。
相当に踏み込んでいますので、後に続く人が同程度のテンションでいけるのか、という不安がありました。変にちゃかしたり、浅いお話にしてしまったりがあると、冒涜になる・・ とも感じました。
でもいたしかたないので、あくまでもお話、ということで割り切るしかないか、市原さんもそれは覚悟の上であろう、と考えることにして、花島さんの承を待ちました。
> 母が入院して七週間が経ち、いま集中治療室に横たわっている。
ここが、結で照応するところですね。市原さんはひそかに挿入していたのでしょうが、カオスさん、注意深い。私は見過ごしていました。
> 入室前に消毒をして白衣に着替えた賢太は、口許に酸素マスクが宛われ
> ・・・・・
私も経験がありますので、様々なことを思い出してしまいました・・
> 「母ちゃんが死ぬなんて嘘だ! 僕は悪い夢を見ているんだ!」
この「悪い夢」が、どうやらお題「異世界」に繋がる。そういうヒントだったのでしょう。
私もタネにさせていただきました。
病院内の非日常の情景を必要なだけきちっと切り取って、これだけの短い文章にまとめています。そういう技能はもちろんですが、それだけではない筆力を感じました。
承
起をストレートに受けている承でしたね。
こういうお話だったためかもしれませんが、圧を落とすどころか、花島さんとは思えないぐらいきまじめに綴られているので、私の懸念は雲散霧消です。
夢に出てくる母子の会話は、これはこれで、花島さんご自身の記憶ではないかと思います。生きてます。
しかし、このように、起と承で、重く暗く押し通されてしまうと、もうとうてい肩すかしなどできそうにもなくて、ならばどのように「転」じたらいいのか、指名を受けて困りました。
> 「母さんは、死んだはずだ」
> 我に返った賢太の現実は闇の世界。
夢(生きている)と現実(死んでいる)を利用した反転で行くしかないのでしょうが、すでに承で一回ありますので、次にやるのなら、これをさらに包むように反転させる、ということだろうと決めました。
転
母が生きている夢から醒めて、母が死んでいる現実に直面した賢太にとって、現実のほうが「悪い夢」そのものではないのか、という起を引き継ぐ発想です。
賢太は、夕闇の林で目覚めた直後、あの集中治療室の光景まで含めて夢であったかもしれないとひらめきます。
必死に走って病院に戻り、それを確かめますが、後で明らかなように賢太は、本物の悪夢、つまり異世界に足を踏み入れてしまっている。
悪夢のフーガを奏でてみたい、というのがこの章における私の思惑でした。
動かし難いもの(死)を動かそうとすれば、得体の知れない魔物がそのにおいを嗅ぎつけるでしょうし、代償もなくそういうことがなされようはずもない。
悪魔との契約という場面で、次の方に引き継ぐことにしました。
サインをするのか、しないのか。
賢太は悪夢から覚めることができるのか、いや、これはほんとうに夢なのか、というあたりの答えもおまかせということで・・
結
結をどうするかということを私も考えましたが、あっさり行くなら十行ぐらいで終わらせることができるだろうと思いました。
1) サインをしない。母のためであれ死にたくない。夢から覚め、母の死を受け入れ、しかし、サインをできなかった自分という人間の本性をずっと先まで背負っていく息子。
ひどいかもしれませんが、誰も責めることはできない選択でしょう。
2) サインをする。悪魔たちの高圧的な誘導に負けてということはあっても、母に比べれば、自分などつまらない奴だからとあきらめる。手術室に運ばれてその直前、隣の母が起き上がる。たしなめられる。顔がつぶれるぐらいぶたれる。夢から覚める。・・・
これは実体は、1)が仮面を付けたものかもしれません。でもこのようにまとめるのが、お話としては綺麗でしょうか。
私は、このどちらかだろうと予想していました。
どちらもひねりがもう一つで、しかも、転の言いなりのようで、あまのじゃくな人ほど避けたく感じるでしょうが、でもこれ以外を選ぶと、かなりな、難しさになるだろう、と思っていました。
カオスさん。
ものの見事に、外されましたね!
見事でしたが、やはり、複雑になった、わかりづらくなったという気はしました。
起から転までは、全て、「賢太の死後の夢」、つまりは霊のまどいだった。七週間のあいだ、生き返ってくれと願っていたのは、母のほうだった。
賢太の霊が見ていた夢は、実際に起こっていることの裏返しでもあったので、悪魔たちは、実は、執拗に母にサインを迫っていた。
母はサインをしてしまい、よって、賢太は蘇ったけれど、当然母はもう生きていることはできない。抜け殻となっていく。これから連れて行かれる。そういう終結・・
私はこう理解しました。
「死」とはつまり「動かし難い別れ」であって、冷厳に執り行われる。
狂おしいほどに悲しみ、黒い花弁が交互に散るように夢と現実が何層にも入れ替わったところで、別れること自体は変わらないのだ。全体をこういう一編に仕上げていらっしゃると思いました。
以上、私の読み違いかもしれませんけれど、
> 不思議そうな、母の顔。
> 「馬鹿!入院していたのは、あんただよ」
この二点から行けば、上の解釈が一番妥当だろうとは思うのです。
すっきりしない感じが残るのはたぶん、
> そう言いながらも母は笑顔で、賢太を愛おしそうに見つめている。
この一行の後に、隙間なく、
> 「もう大丈夫ですよ」
> 不意に、頭の上から聞き覚えのある声がした。
と、悪魔の声が続くので、読者が事態を十分に納得できないうちにどんでん返しが始まってしまうためではと思います。あと一呼吸か二呼吸あって、読者が腑に落ちて安心してああこれで終わりだなと気を抜こうとしたときに、意地悪く悪魔が登場して・・、ということなら、流れはよどまなかったのではないでしょうか。
さらさら行きすぎてもこういうお話にはよろしくないようですから、よどませ具合、難しいところでしょうけれど・・
※
最初はどうなることかと思いましたが、最後まで異様な世界に遊ばせていただき、堪能いたしました。
花島さん、お疲れさまでした。
カオスさん、急遽という感じの指名でしたのに、しっかり物語って下さってありがとうございました。
市原さん、今ご感想を読ませていただきました。やはり、そうでしたか・・
この物語へのお気持ち、なまなかなものではなかったのですね。このようなお話の流れ、ご不満ではなかったと知って、少しですが安堵いたしました。