ねっとCafe/nc:小説工房談話室


タイトル  :『ゆめ』 転の章
発言者   :和香
発言日付  :1999-03-07 22:50
発言番号  :1221 ( 最大発言番号 :1321 )
発言リンク:1213 番へのコメント

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お題:こうたろう

ゆめ
 




起の章:れいむ

 子供の頃は、宇宙飛行士になりたかった。それがかなわないと気付いたのは、
小学校4年の時だった。
 中学受験が始まった。少しでも「良い学校」へ。
 何か巨大なものに駆り立てられるように、訳も分からぬままに、先の見えない先へと走らされた。
  走って、疲れて、立ち止まって、息を整えたくて。
 後ろを見た。自分の走ってきた道。
 嗤いがこみ上げてきた。
 何も、なかった。前と同じ、ただ暗いだけの道。
 宇宙飛行士になんて、なれやしないのさ。

 ぼくは、三流私立中学に合格した。

 中学での成績は並だった。先生だってきっとぼくのことを憶えてやいまい。目立たない生徒だった。
目立ってどうするんだ。頑張ってどうなるんだ。走った先に、何かあるってのか?
 中間、期末。やってくるテストに一年を支配されて日々に追われ一喜一憂する周囲の連中が、哀れな
ほど愚かしく感じられた。
 高校にはエスカレーターで進学した。親が大学へ行けとうるさいので、少しは勉強もした。が、
やはり成績は並のままだった。
 周囲には、家出しただの同棲してるだのと、低俗な悩み、反抗期、恋愛ゴッコ、葛藤、どろどろの
ぐちゃぐちゃのこころが吹き出し渦巻き、暑苦しくて仕方なかった。
 馬鹿らしい。それがぼくの全てだった。

 ぼくは三流大学に合格した。

 浪人しなかったのは奇蹟だと思った。しかし思う。奇蹟ってのは、ありがたがられてこそ意味のある
ものじゃないのか?そんなことを思いながら、桜散る大学の門をくぐったのを憶えている。
 実は、人のことを嗤いながら、一度だけ、高校の時に人を好きになったことがある。話を
してみようと思ったが、目を合わせることもできなかった。
 ある時、彼女が友達と話しているのを聞いてしまった。
──立野くんって、なんか怖い。何考えてるのか分からないもの──
 何も考えちゃいないのさ。いきなり現れたぼくはそういった。彼女らは愕きと恐怖のまなざしで
ぼくを見ていた。

 したいことなんてない。生きていれば死ぬこともない。やることをやっていればどうでもいい。
 何故みんな熱くなるんだろう。その感情がぼくには理解できない。ニヒルに見ているわけじゃない。
ぼくには感じたことがないから、分からないだけだ。
 でも、こんなぼくにも、一つだけ分かってることがある。
 彼女を好きになったときに感じた。
 ぼくの中には、ぽっかり空いた穴がある。その暗い虚空の深淵に潜む獣が、ゆめを喰っているのだ。
 いや、ちがう。
 ぼくが、自分から奴を呼んだのだ。自分で呼び、棲処を与え、餌を与え続けているのだ。
 ぼくと奴は、無二の親友だ。

 こうして毎日が過ぎていく。
 当たり前の日々が。

 
 
                        承の章: ぱられる  
 
 子供の頃は、宇宙飛行士になりたかった。それがかなわないと気付いたの  
は、小学校・・・4年の時だったかな。  
 あと30年、ううん20年遅く生まれていればって思う時もあるけど、でもあた  
しは別に落ち込んだりもしなかった。  
 あたしのこの前向きな性格は両親の育て方のおかげかな。それとも持って生  
まれたものかしら。  
 たまに後ろを振り返る。自分の走ってきた道。  
 そこには何もない。そしてあたしは安心する。  
 かつてそこにあった全てのものは、出合いも、希望も、挫折も、可能性も全  
て、あたしの中にあるのだと安心する。  
 前に向き直る。やっぱり何もない。  
 でもそこには確かに何かがあるのだ。  
 目に見えていないだけで。  
 中学生の時出合った、一冊の童話。あたしに新しい夢を与えてくれた。  
 童話作家になりたい。子供達に夢を見る素晴らしさを教えてあげたい。  
 あたしは夢を見続ける。現実になるその日まで。  
 中学。高校。あたしは並の成績をやっとキープしてきた。  
 でもそれもしかたない。ほとんど勉強もせずに童話ばかり書いていたのだから。  
 あたしには友達がたくさんいる。基本的に人間が好きなのだ。  
 いろんな人と関わる事で知ったいろんな気持ちが、童話を創るのにもすごく  
参考になる。こんな事言うと友達に怒られちゃうかな。  
 いずみは人の事、話の材料としか思ってないんじゃないの?! なんて。  
 そんな事ないんだけど、やっぱり他の人とは違う所を見るクセがあるのかも。  
 恋愛、成績、将来。人それぞれいろんな悩みをかかえてる。他人から見れば  
それはちっぽけでつまらない事かも知れない。  
 でもそれが人間なんじゃないかな。あたしはそう思う。  
 やっと入れた大学。三流だねってバカにする人もいたけど、あまり気にはな  
らなかった。  
 なんてったってあたしには夢があるんだから!  
 学歴なんてあたしの夢には関係ないもんね。  
 
 そんな時、あの人、立野満に出合った。  
 ううん、出合ったって言うのは正しくない。  
 彼はあたしの事知らないもの。  
 あたしが一方的に見つけてしまったのだ。  
 あんな人、今まで見た事がない。  
 一言で言うと・・・冷たい感じのする人。  
 そこそこもてるらしいんだけど、彼女はいない。軽くあしらわれてしまうら  
しい。  
 これは友達からの情報。彼女に言わせると、そういうクールな所がいいんだ  
とか。  
 でも、あたしの感想は違う。  
 何度か友達と話してるのを見かけた事があるけど、何て言うのかな、あの  
感じ。  
 別にそっけなくしているわけじゃない。  
 きちんと受け答えをしているのに、心が、そこにない。目が・・・何も見て  
いない。  
 一段上にいる? 違う。見くだしてすらいない。  
 なぜ? あたしには彼の胸にぽっかりと穴が開いている様に見えた。  
 
 ある日、大学の裏手にある桜の名所をあたしは散歩していた。  
 お花見の時期には大勢の人が集まる。  
 散ってしまった花のかわりに葉が青く咲いている様に見える、この季節の桜  
があたしは一番好き。  
 来年また美しい花を咲かせるために、一生懸命生きている気がするから。  
 誰ひとり見物する者のいない青い桜の木々に見下ろされながら、のんびりと  
歩く。  
 彼・・立野満は、その中の一本にもたれてぼんやり空を見上げていた。  
 
 
 

転の章 * 和香

「いい頃だよね、今がさ」
「俺は覚えているけど、そのうち毛虫がわくのさ。竹竿の先に油しみこませた布を巻いて火をつけて、じゅうじゅう焼いたよ。大人たちが。
 ほんとうに、今だけだな」
「意地悪な言いかたする」
 いずみを一瞥すると、何も言わずに立野は歩いていった。
 近所の小学生らしいが、ボールを高く投げ上げてそれを受けて遊んでいた。立野が近づいていくと、何か言って、グローブを一つ放った。二人でキャッチボールを始めた。
 そうか、待ち合わせていたのか・・
 変な二人。
 そう思いながら、いずみは小一時間、樹の根元にすわって眺めていた。少年はうれしくてしょうがないらしいけれど、汚い言葉をつかって立野をよく罵っていた。
 立野も、皮肉な言い方で返して、いじめていた。あと少しでできない、そんな力の加減をしているみたいだった。
 なにか、吹き出してしまう。
 転がってきたボールを、えいっと投げた。彼との距離の半分も届かなくて、そこまで行ってまた投げた。
 かがやく白い雲がいくつか、空のはじからはじへゆっくり流れている。
 不意に、いずみは、「書けそう」という気がした。
 新作の最初の読者は、・・・どうだろうか。読んでくれるだろうか。感じてくれるだろうか・・・

 立野が自分の部屋のドアを開けた。
 おそるおそる中に入った。飾りの何もない、必要な物だけが並んでいる寮の一室。
 はじめは、楽しく話しかけていたはずだ。
 彼は、不機嫌そうで、難しい哲学の言葉など挟んで、馬鹿にしたようにあざわらう。
 でも、そんなんじゃなくて、ちがうよ、・・そうなんとか説得しようとしているうちに、手首をつかまれて、揉み合いになった。
「立野君、いや、こんなのいや」
 あたしは宇宙飛行士になりたかっただけ。あなたが連れていってくれる気がしただけ。
「やめて。やめてよ・・」
 ちゃんとした声が出ない。涙があふれてきた。
 目が覚めた。
 真夜中のいずみのいつもの部屋。掛け布団の中で頬が濡れているのを触ってみた。夢だった・・
 机の上には、行き詰まった原稿がある。

 





 すでにそのつもりでいらっしゃるでしょう。
 結の章は、

 keitoさん

 よろしく、お願いいたします!

 


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