お題 カオス
桜の樹の下で
起の章 NONTAN
今年も、新宿御苑には桜が咲き乱れ、綺麗だ。
新宿3丁目の雑居ビルの一室。
桜の眺めはいいのだが、日本経済の眺めと、仕事の進行の眺めは最悪、
と言いきっていい状態が続いていた。
高山隆一郎は、気分を変えようと、街を散歩することにした。
外に出るといい陽気だ。
何もかも忘れ、そして何もかも投げ捨ててどこかへ行ってしまいたかった。
今までもこんな感覚は何度もあった。が、しかし、本当に実行したことはなかった。。。。。。。。
ふと我に返り、自分の周りを見回した。海岸に立っていた。
よくよく記憶をたどるが、どうしても覚えがない。
懐を探ってケント・マイルドを取り出すと、砂浜に座り込んで火を付けるー。
「今まで、俺は何のために生きてきたんだろう?」
そんな疑問が頭をよぎった。今までに、そんなことをゆっくり考える余裕もなく働いてきた、悲しい自分に気がついた。
金のためか、家族のためか、それとも、自分のためだったろうか〜
急に脱力感が襲って、そのまま眠りに落ちた。
気がつくと、すっかり辺りは夜のとばりが降りていた。月明かりだけが、辺りをぼぅっと照らしている。
まぁ、最初に気がついたときにはすでに夕方だったので、それは地球の自転の法則に従って考えると、ごくごく当たり前であったのであるが。
「おじさん、何してるの?」
ああ、俺も幻覚を見るようになったか。これはまだ夢なのかー?
「ねぇ、おじさんってば!」
ずいぶんうるさい幻覚だな、まったく。。。。。ん?
「ギャッ!」
思わず叫び声をあげてしまった。
女の子が寝転がっている自分の顔をのぞき込んでいる。
「脅かせちゃった?フフ。」
起きあがって、月明かりだけを頼りに、声の主であろう女の子の顔をのぞき見る。
承の章 和香
上の方をゆびさすので、仰ぎ見たけれど、初めはよくわからなかった。
が、目を離せなくなった。
天蓋は無明の闇ではなかった。
そこでは、微かな光を含んで、その含みようによってさまざまに濃淡を帯びた「墨」が視界のいたるところで大小の渦を巻いている。ゆっくりと巻きつつある。そうやって絡まり合いながら、いつまでも溶け合おうとはしない。
中心で、満月は、あやしいまでに眩しく輝いている。
よく見れば、あれは月ではないのだ。模様が違う。
いや、わずかだが、あの模様も動いている。
茫然としていた。ふるえが止まらなくなった。
「月」と見えるものは、その黒く蠢く空に生じている「穴」であるらしい。
模様と思えたのは、無数の塵に似たものが、その穴から降ってきているからだった。
渦巻く雲どもか、重い風の塊かに翻弄され、その無数の塵は、沖合のほうへ漂っていったり、内陸のほうへ吹き寄せられたりしながら、この半天を舞っているらしい。こぼれてきたごく一部が「月」の前面に再びかかったときに、そのいびつな外形がかろうじて見分けられるだけだ。
地上に近づくにつれ、それらが意外に大きな物体だということが判明する。
降ってきているのは、男や、女だった。
また一体、やや遠くの砂の上に、音もなく、落ちた。
粘りけのある飛沫をあげて、水の中に、吸い込まれていく身体もあった。
背広を下から引っぱるのだ。
「ねえ、おえかきしたほうが、いいのかな」
音がするので、ランドセルの中には、クレヨンやお絵描き帳があるのだろう・・
|