小説工房談話室 ■■■■■■
1999/12/21 和香 Home Page ■■■■■■ JustNet TOP

 
『天使か悪魔か』の感想



 皆さん、お疲れさまでした!

 うーん、お話になってる・・、と驚きました。
 特に、カオスさんの底力のようなものを感じました。
 いや、こんなものではないさ、ということなのでしょうが・・

 皆さんそれぞれが要した時日が、交互に、長・短・長・短・長となった辺り、本筋ではありませんが、待つ身には興味深かったです。性格、好み、手法、やはり様々だなあ・・、不思議なくらいだなあ・・、と。



お題

 CHANCEマスター。
 あらためてお礼申し上げます。
 この新装フォーラムでも、4章小説、つつがなく走り出せたようです。

 マスターの出題くださったお題は、「華麗」という感触でした。
 4章小説ガイドの一覧表で見比べても、異彩を放っています。
 このお題に負けずに終わりまでいけるかな、という懸念もありました (^^;
 お題は相反するものを対置した句ですので、建築的な、様式美のある、そんな4章になりそうだけど、と予想はしたのですが。





 私は、例えば起が「悪魔の章」なら、承が「天使の章」、次がまた「悪魔の章」という風に交替で受け渡していくような展開をまず考えました。これもあったとは思いますけれど、市原さんは両者とも、起の章に載せました。
 あの文章は、お題の「華麗」がそのまま乗り移ったようでしたよ。これだけのものが短時間で生まれてきてしまうのですから(しかも別に派生して詩まででしたから)、よほど市原さんの「今」の心に響く想念だったのでしょうね。
 感じたのですが、起の章だけで独立した掌編にしてもいいくらい充実している、と。

 4章小説にしては自立した長めの文章になっているとは思うのですが、単純ではないモザイク様の輝きに魅惑されました。

> やっとの思いで振り向くと、僕の後ろで神々しい光の輪が宙を舞って森の中に消えていった。

 印象的です。





 そういうわけで、通常よりは荷が重かった承だったのかもしれません。
 市原さんの輝きを継ぐのか、がらっと変えるのか、私が担当でも悩むところだと思います。・・でもまだ承の段階ですから、どちらでも後の人がどうにかしてくれるそうと、「ええい、ままよ」と、走っちゃうところですけどね (^^)

> 惜しい気がしたのだ。見たばかりの夢の影が、うす靄が退くように体を離れてしまうのは。

 なるほど。起の章は、夢であった。
 「当直」「仮眠」とありますから、話者「レン」は大きめの病院のお医者さんですか。
 事柄や理屈を、ではなく、匂いやイメージを(夢と現実の境目を通してその残り香を)引き継いでいると見えました。

> それは、まるで身に覚えのないもの。腕に浮き出た、呪文を思わせる妖しげな模様を、僕 は食い入るように見つめた。

 夢から醒めた現実においても、悪夢的な事象が進行する、生起する、という発想、組み立て。
 承の進行は、比較的簡潔であっさりしているので、以後を繋げるには活用しやすいかな、と思いました。
 表にその跡は残っていませんが、ご苦心の文章ではなかったか、と想像します。

 ここら辺で私が感じたのは、すでに「夢ネタ」は使ってしまって、これを繰り返すのはつらいだろうし、起と承の色合いが違いすぎて、どういうバランスでまとめる、または転ずるのかでした。
 転は時間がかかるだろうなあ、と他人事ながら心配したのですが、・・苦もなくでしたね (笑)





> これも運命だろうか。
> それとも罰だろうか。
> いや、悪夢に違いない。

 直接的には、承でいう「腕に浮き出た、呪文を思わせる妖しげな模様」という事象をいっているのでしょう。でも何か、十分予想していたようです。
 以下、承の「レン」が勤める病院の詳細、実態の「説明」と読みとりました。

> そう、ここは警察内部、特に国家機密に触れる工作員、その関係者の治療場所なのだ。
> 実際には、警視庁公安部公安総務課が運営しているが、ここの存在は 第1級国家機密であり、運営詳細は総理大臣にも報告されない。
> ・・・・・

 詳しくてそれらしくて、とくに「警視庁公安部公安総務課」なんて、事実からの採録としか思えません。NONTAN さんの情報源、相当なものがありそうです。 (^^)
 また、こういう「普通ではない病院」の提示が、あの結を呼んだのかも・・

> 自分も限界だった。最初の意気込みは、どこかに消えていた。
> こんな辛い思いは、もうたくさんだった。
> 自分自身を、犠牲にするのはもうー。。。

 起承転、と来たところで、煎じ詰めれば「夢から醒めた男の腕に異常が」というところまでしか、ストーリーは進行していない、ってふうですよね。
 上の転ラストの通り、その心情はどうも穏やかならず、事情はいわくありげ、ではあるのですが。
(やはり、許されざる実験をしていたのかな・・。あらためて読み直すと・・)





 カオスさんは、苦しみ抜かれたのではないかと思いますけど、先行三名の方が耕した土壌の中心に、「夢から醒めた男の腕に異常が」あったことを据え、すっかり新しい物語を育て上げた、とまで感じます。

 きれいにまとまった、素晴らしい。 ・・と、嘆息でした。

 ですが、今までも確かにそうでしたけれど、今回は特に結の章の(二連続という事情まであって)ご負担が重かったような・・
 いや、文章の修練になったからよし、ということかもしれませんけれど・・
 申し訳ないくらいです。

 結の章冒頭から、不気味に提示されていく「症例報告」が圧巻でしたね。
 「症例報告」ひとつひとつが、読み込むほどにドラマそのもののようです。「1」の辺りではいったい何のことか分からないのですが、「3」までパターンが繰り返されて、ただならない事態と、そして、本編4章小説に合流することが、明らかになる。

> 職場の同僚・救急隊員・神納蓮(本部施設担当医師)

 レン、なのでしょうね。
 レンは志願して、自らを実験素材としてくれるよう、同僚佐伯に託すのでしょう。
 恋人ティナの、メタモルフォーゼを目の当たりにして、今まで知らず知らず頼りにしていた心の中の日だまり、なにかしらに信をおけなくなってしまった。
 そういうことなのかもしれません。
 でもこれは、フィクションの世界だけではなく、ある日急につれあいが物忘ればかりするようになり、こわれだす、消え始める、という、もう知れ渡っている、現世の少なくない人たちの遭遇する悲哀と、あまりに通い合うところがありますよね・・

 最後の行は、何を書いても余計なほど、妖しくて怖くて美しいです。
 タイトルとの響き合いは、言うまでもなく、ですか。