お題 NONTAN
愛人
起の章 花島賢一
「よしゃ!」
ピストル音と共に掛け声。一斉に走り出した群れの中に一際目立つ犬がいた。
掛け声の主は天性のスピードと柔軟性を生かし、先頭集団から踊り出てきて後続集団に大差をつけ
始めだした。
時々後ろを振り向くが誰も彼の追従を許す者がいない。猫、牛、鼠、兎、馬、、、、、。
彼らは先頭を走る犬の敵ではない。そう、彼こそシロという犬族のホープ、トキと名乗る皇族である。
この世界は十二支という生き物だけがいる。牛はカウ族のホープ、タキと名乗る豪族。
鼠はデズニーランドからきたミッキーマウスの親戚。ミニという王家。
兎は何でも月に住む十五夜族のラビット。馬は競馬族のホープ、ミホノブルボンの息子ミホボン。
ヘビは山のかなたから来た蛇族のホワイト。龍は天空族の嘆きのお竜。寅は人間界で日本の葛飾
柴又と言えば知らない人はいないほど有名な人の十二支界版である。サルは昔話族の悪役カチカチ山。
羊はめえめえ族のセーター。猪は突進族の猪突猛進。鳥は空族の支配者不死鳥。
それぞれ一筋縄ではいかない連中である。
4、5日前、十二支界のドンこと、どぶ鼠族のチーズ氏が他界した。いろいろ噂の絶えない彼では
あったがその信頼と支配力はこの世界に穏やかさをもたらし、一見平和そうに見えていた。
彼の死と同時にこの世界を支配しようとしたのがカウ族である。カウ族は昔、干支の順番を決める
干支戦でゴール寸前の所を角に隠れていた鼠にしてやられたことはこの世界では大変有名なエピソード
である。
その屈辱は代々部族に受け継がれ、やがて世代交代の時期にカウ族の名声を再び高めることがタキの
使命であった。しかし、権力欲と名声のみにこだわるカウ族にこの世界を支配されては再び内乱が起き、
干支が滅んでします。
シロ族の長老アスベルはチーズ氏が他界したと同時に十二支委員会に次の委員長選出の提案を出した。
2,000年前の干支戦。十二支マラソンである。
誰が十二支界のドンになるか?。勝利者のみが決定権を持つのである。
由緒ある干支戦に誰もが反対できるわけがない。それは神に反抗することを意味する。
「トキ!、すべてはお前にかかっている。分かっているな?」
「お任せください。アスベル様。必ず勝利者に!」
長老はゆっくりと向き直りトキの首に部族の象徴のペンダントを掛けた。
「名誉あるこのペンダントに恥じない力を出し切ります!」
「部族の名誉だけでなく十二支界の未来もかかっておる」
「唯、勝負は須弥山に入るまで」
「うむ、神の山に入ればカウ族も手出しはできぬだろう?」
「しかし、アスベル様。敵は本当にカウ族だけでしょうか?」
困惑気味の顔を正すように長く伸びた顎鬚をさすっては静かにため息をついた。
「トキ、走り出したら自分だけが頼り、話しかける蟻、呼びかける木でさえも心を許してはならぬ」
「分かりました。ではこれにて」
「トキ様、お気をつけて」
側にいた長老の娘、ランが心配そうに話しかけた。
「ラン様、必ず勝利者になって戻ってまいります」
その瞳に並々ならぬ決意を感じ取ったランは勝利の確信を感じた。しかし部族一の勇者が揃う干支戦、
一抹の不安が脳裏をかすめる。
「お父様、空を飛ぶ鳥の方がトキ様より速いのでは?、競馬族の馬も猪の突進も、、、、」
「心配するでない。ラン。空を飛ぶ鳥は天空族の龍の餌食になるため木々の間をぬって飛ぶ、その為
速くは飛べん、その龍さえも天空に昇るならひけをとらぬだろうが空を横切るのは得意じゃない。競馬
族の馬も猪も長くは走れん」
「心配いりません、ラン様。必ずご期待に答えます」
トキは一礼すると象徴のペンダントンにくちづけして故郷を後にした。
長老は祭壇に頭を垂れ、深い瞑想に自分の神経の安らぎを求め、これから始まる戦いにトキの無事を
祈った。
「ええ、何で猫が居るんだ?」
ホワイトが怪訝そうに見つめて囁いた。
その言葉につられてミニとカチカチが相づちを打つ。そう、猫は十二支に入っていない。
「あいつは大昔の干支戦に招待されなかったんだ。知ってるかい?」
襷姿にハチマキとゲキの入ってるラビットが得意そうに話す。
「いや、初めて聞いたな?」
いつのまにか話しの仲間になっているミホボンが前足を掻きながら次の話しを催促している。
「しょうがない奴だな!、少しは干支歴史を勉強しろ!」
「すまん。すまん。なんせ、馬の耳に念仏と言うぐらい長老に聞いてもだめなんだ」
「おい、それは意見しても効き目ないときに使う言葉だよ、例えばぬかに釘とか?」
「おうおう、そうとも言う」
周りに居た人たちの嘲笑が聞こえてくる。
「お前ら競馬族は人間界の毒に染まって頭まで切れたか?」
「ひどい事言うな!。そういう十五夜族は何で月に住んでるんだ?」
「そ、それは、お、お前、住み心地がいいからよ」
「あ、そう、何でも悪さをして神様に月に追いやられたという噂だがな」
「あああ!、誰だそんなデマを飛ばした奴は?」
ラビットは腕組みをして不満そうな態度を示した。
「俺の聞いた事によると因幡の白兎、、、」
全部話し終える前にラビットは大きな両耳で彼の話しを制した。
「分かった。分かった。そうだよ、そうだよ。悪い事して月に飛ばされたんだよ」
「ま、そう、謝れてしまうと人の事はとやかく言えんのだな。俺の方も最近はサラブレットと称して
人間界にご厄介になってる輩どもは、さも自分たちが優秀だと勘違いして後輩たちに傲慢な態度をと
っている。それを見て長老は馬の血統は地に落ちたと嘆いているよ。何でも昔は草原を悠々と闊歩してい
たとさ」
「確か、羽の生えた馬もいて空も飛べたとか?」
さっきから2人の話しを聞いていたミニが加わってきた。
「其の通り、その時代は馬族の全盛期だ」
胸を張ってミホボンが答える。
「ところでウサギさん。話しは戻るが何で猫が招待されなかったんだ?」
ミニは2人の話しが一段落したと見て取って要点を切り出した。
「おっと、俺の名はラビット。そうだ、そうだ。ま、近くによって耳かして」
「壁に目あり、障子に耳ありですね」
ミホボンが得意そうに話しかけたが皆のシラケタ顔を見て場違いな事を言ったと悟った。
「あのな〜、それを言うなら壁に耳あり、障子に目あり」
長い耳で腕組をしてだだっ子をあやすように話しかけると
「す、すっごい。君ってものすごい技を持ってるんだね」
さらに切れかかったラビットは赤い目を真っ赤に充血させ
「お、お前はだまってろ!」
ミホボンはみんなに気に入られようとしたジョークが裏目に出て気持ちが落ち込んでしまった。
「ラビットさん。そんなに怒りなさんな。彼だって悪気で言ってるわけでもないし」
それまで黙って聞いていたカチカチがラビットの高鳴りを押さえるとミホボンは黙って長い顔を大き
く頷かせた。
「さ、さ、それよりもさっきの続き、続き」
カチカチが催促すると皆は黙って聞き耳をたてた。
「奴ら猫族は愛人と呼ばれてるからよ」
「え、猫は愛人?」
ミホボンが大きな声で問うてもラビットは無視をして話しを続けた。
「大昔、神様から招待状をもらった者がいち早く須弥山にたどり着いて干支の順番が決まった事は
皆もよく知ってる事だろうが猫だけは招待状がこなかった」
皆は大きく頷きさらに聞き耳をたてると場内の呼び出しがレース開始の合図を告げる。
「あ、せっかくいい所だったのに。もう少し聞きたかったな」
ミホボンが前足を掻きながら残念がった。
「よし、早いとこ一着になって話の続き聞こう」
「お前には無理だよ」
ラビットが大きな耳を横立て目で合図を送るとそこにはタキが悠然と座禅を組んでいた。
「あいつが優勝候補だ!」
「え、カウ族が?」
承の章 keito
「のんきな連中だねえ」
いやみな様子でタキに声をかけるのは、空族の不死鳥だ。
「はなから優勝を諦めているからね。いらんことをペラペラと、敵同士なのによくしゃべる」
「ふん」
タキはおもむろに座禅をといていった。
「伏線が敷かれている。いらんのは、そういう油断だろう」
「おや」
いさめられた不死鳥は一瞬おもしろくない顔をしたが、自慢の羽根を片方だけひろげると、まっすぐに猫族を指した。
「あれのことかい」
タキは肯かなかった。羽根の先にいる、しなやかな肢体をもつ一族をちらとみて、そっけなく笑った。
「どうかな」
「喰えないやつだ」
だから群れないのさ、おまえさんは。
探りをいれるのを諦めたのか、不死鳥はそう言い捨てると気まぐれにタキから離れていった。
タキは呆れたように息を吐いた。
敵であるはずの他族と群れる連中は、傍目にみてもおかしなものだった。
族がもつ戦力や財力、ひいては名誉欲のラインが、ほぼ同一に並んでいるせいだからなのかもしれない。
油断は禁物だが、タキが危機感をもたない、もっとも平凡な連中だ。
だが不死鳥はちがう。
実力がありながら、天を統べる誇りを棄て、欲を棄てた空の一族。
(情報という取引は、しかし俺には通用しない)
喰えないのはそういう輩、そして―――
タキが気をひきしめ、列に並ぶ犬族トキの、勇ましい姿に目をむけたとき。
集合の最終アナウンスが、ふたたび場内にひびきわたった。
転の章 和香
「ねえ、サルのかちかちぃ。あのお話って、タヌキとウサギじゃなかったっけ」
「だからあ、タヌキ殺しのウサギを、最後にこらしめたのがサルなんだよ」
「へえー、はじめて聞いた。それじゃこれ知ってる? このレースって、優勝してもなんもご褒美でないんだってよ。神様のひまつぶしなんだって」
「そうかあ? 大変な名誉と褒賞があるって、聞いてるぞう」
「あんた、いろいろ《センノウ》されてんじゃないの」
「えー、そんなことはないと、・・ないと思うけどなあ」
「うふん、ねえ・・・ もっとこっちの藪の中にいらっしゃいよ。あんたみたいないい男と話してたら、なんだか欲しくなっちゃってえ・・」
「でへへ・・・ でもさあ、レース中だし・・」
「夜ねむる時間おそくすれば同じじゃあん・・ にゃあん・・」
・・・・・
しばらく後、赤く汚れた前足をていねいに舐めていた。
これで、四匹片づいた。
うふふ、まだまだ。
砂丘深くまで掘り進み、犬族のトキは竜骨を噛み砕いた。
太古の「あるじ」であるお竜よ。
お前はすでに幻想でしかない。消えろ。
ああ。
また、あやめてしまった。
須弥山はどこにあるんだ。
直前を小さな黒い影がよぎった。
驚いて、大きく飛越して着地。
まもなく、競馬族ミホボンは減速して、それから哀しげにいなないた。
立ち止まった。
緊急医療班がどこからともなく出現し、簡単に検討後、彼を薬殺処分にした。
鼠族のミニは、全世界に張り巡らした情報網を総動員していた。
ゲートを探せ。
わが一族がついに「あるじ」になるのだ。
制覇だ。
結の章は、初体験ということで・・
NONTANさん
を指名します。
よろしくお願いいたします。