お題 和香
箱
起の章 HARU
『修司さんへ。
ご無沙汰してます。修司さんはお元気でしょうか?
ホントは直接会ってお頼みしたかったのですがあいにく留守のご様子。こちらもあまり時間がないため手紙にて失礼いたします。
連絡もよこさずにこんな頼み事をするのはすごく心苦しいのですが・・・。
一週間ほど預かっていただきたいものがあります。
この手紙と同じ所に置いておきますので預かってください。
他に頼む人も居ないので修司さんだけが頼りです。一週間後には必ず取りに来ます。
それまでどうかよろしくお願いします。
恵子』
中学時代の友人が久々に帰ってきてため、明け方まで飲み明かし意識が朦朧とする中手紙を読んでいた。
帰ってくると玄関に手紙と、古汚い段ボール箱が置かれていたのだった。
恵子・・・。
なんで今日に限ってこんなに懐かしい人から連絡が・・・?
「しかし・・・」
家に入り段ボールを開けてみると。
「何だってこんなものを?預かれったって・・・。」
段ボール箱の中にはなにも入っていなかった。
承の章 花島賢一
夢なのか?。何かが語りかけてるような?。どうやら眠ってしまったようだ。体を起こし周りを見渡したが人の気配は無い。
一人暮しの俺に会いに来るといえば、あいも変わらず会社の愚痴をまくしたてる洋介。晩飯のご飯を食い損なった近所の猫ぐらいだ。
彼にしてみれば俺はストレス解消の話し相手。前の晩、課長に怒られたとかでさんさんざん課長の悪口をまくしたてる。
そのくせ今日は誉められたとかで上機嫌に話しかける。時折、課長の手振り、物まねを交えて言うが俺はその人に会ったこと
がないので何とも無理に笑わせようとしてる下手な漫才師みたいだ。おざなりの相づちをうって、おざなりの笑顔を見せれば
彼は俺の言ってる事を理解してると喜ぶ。単純と言えば単純なのだが。腐れ縁だろうか俺はそんな彼が好きなのだ。
うん、やはり声がした。気のせい。団地構成の6畳半。そんな広くない部屋だから窓が少しだけ開いているので外の音が
部屋に入り込んで、、、、。やはり気のせいだろう。
手枕で仰向けになって天井を見つめる。窓からの柔らかな夕日が眠りへ誘う。どのくらいたったか顔に何かが触ってるよう
な気配で再び目を覚ます。
「ニャー」
「おう、こんばんは。今夜も晩飯にありつけなかったのか?。んじゃ、何か冷蔵庫にあるかな?」
人懐こい子猫はその体を俺の足に巻きつけてしきりに催促する。と、その瞬間、逆毛を立て威嚇のポーズをとってうなりだした。
「どうした?。何怒ってるんだ?」
猫の目線は部屋の片隅に置かれた段ボール箱。外明かりに照らされた箱は何やら緑色を発してるみたいだ。
「何だ?」
部屋の電気を点け恐る恐る箱に近づいてみた。しかし、箱を開けて覗いてみるが何も無い。俺は箱を持ち上げて所々くびれ
てる場所を潰さないように点検するが、さして何処とも変わった様子はなさそうだ。
俺は冷蔵庫から食いかけのハンバーグを取り出してヒビの入った茶碗に。
「うん、ニャー子!。何処行った。ニャー子!!」
名前の知れない子猫だが食い物を出しても出さなくても挨拶代わりに俺の足に巻きついて帰っていく。
今までになかったことだ。
「何処行ったんだ?。ニャー子。もう帰っちゃったのか?」
”ルルルルルルルー”
電話が鳴った。低いトーンを醸し出す音は今日に限って何か不気味に聞こえる。
「はい、修司です」
「・・・・・・・」
「修司ですが!」
”ツー、ツー、ツー”電話は切れた。
「何だよ。間違えたなら間違えましたと言え!」
投げやりに受話器を置いて食いかけのハンバーグを口に運んだ時。
”ルルルルルルルー”
再び電話がなった。今度も無言だったら怒鳴ってやると意気込んで受話器を手にした。
「修司ですが」
「・・・・・・・」
「おい、黙ってないでなんか言え!。間違えたなら間違えましたと言うのが礼儀だろ!」
「・・・・修司、、さんだね?」
声の主はドスの利いた男の声だった。
「はっ、はい、そうですが」
「手短にいこう。物はあるな?。金は用意した。1時間後にレイの場所で」
「えっ、あっ、レイ?、金?。何の事ですか?」
”ツー、ツー、ツー”
「もしもし、もしもし!」
誰か俺をからかっているのか?。訳の分からん電話。いったい何なんだ。いや、待てよ、洋介が?。
いや、単純な性格の彼がこんな事が出来るはずがない。きっと何かの間違えだな。
テレビのチャンネルをしきりに変え、何かひっかかるさっきの出来事を無理やり忘れようとして
他の物事に没頭しょうとするのだが手につかない。そんなことをしてとっくに1時間は過ぎていた。
再度電話が鳴った。
「はい、修司です」
「・・・・・・・」
また、無言電話。
「もしもし」
「修司さん、あんたもなかなかのやり手だね」
「なんのことですか?」
「とぼけなさんな。分かったよ。もう一つのせるよ。それでどうだ?。もうこれ以上出せないぜ!」
ドスの利いた声が少し興奮気味でいる。
「・・・・・・・」
「どうした、修司さん。5千万じゃ不服かい?」
「5千万?」
「ああ、じゃ、待ってるぜ」
「あ、待ってくれ!」
電話は切れた。なんなんだ!。自分の言いたい事を勝手に言ってさっさと切ってしまう。
うん、何か音がする。テレビの音量を下げ聞き耳立てると片隅の段ボール箱がさっきよりはっきりした
緑色を発していた。俺は思わず後ずさりした。
段ボール箱は少しずつであるが動いている。背筋に冷たいものが走る。慌てて玄関に立ててあった金属
バットを掴み身構えた。しかし、箱は何もなかった様に元の場所に戻っていた。
”ルルルルルルルー”
「わあ、驚いた。電話かよ」
息を整え気を静めると受話器を掴んだ。
「おい、修司さんよ。どういうつもりだ!」
「何の事ですか?」
「俺たちみたいな危ない商売をやってる者の一番大切な事は信用じゃないのか?」
「信用?」
「そうよ。さっき言った様に金はこれ以上出せねえよ、あんたもそれで納得したんだろう」
「俺はあんたなんか知らないんだがな」
「ああ、分かったよ。心配してるんだな。大丈夫だよ、金と物をいっしょに手にいれようとは思ってねえよ。
あれはテレビドラマの見過ぎだ。裏切ってあんな事やったらあんたと俺の次の商売ができねえじゃねえか?」
「言ってる意味がよくわかんないんだが?」
「俺たちは初めての取引だから無理もねえが、しかし、裏の商売じゃ買い手も売り手も多くはねえ、そん
な事したら大事な顧客をなくすだけじゃなくこの世界じゃ相手にされなくなっちゃうからな。それはあんた
にもよくわかってるじゃねえか?」
相手は気をもんでるらしい、声がさっきより荒げになってきている。
「・・・・・・・・・」
「ああ、分かったよ。アイツの言うとうりだ。あんた、なかなかのやり手だな。もうひとつ乗せるよ。
しかし、これが最後だぜ。必ずもってこいよ!」
「ちょ、ちょっと待て!、さっきから何言ってるか意味が分からん。あんた人を間違えてないか?」
「・・・あんた中田修司さんだろ?」
「そうだが」
「恵子の友人だよな?」
「恵子?、恵子さんは今何処にいるんですか?」
「何だ、とぼけんなさんなよ。じゃ待ってるぜ」
「ちょっと待った。恵子さんは今何処にいるんですか、預かり物があるんですが?」
電話の向こうで数人の話し声が聞こえる。どうやら仲間がいるらしい。何やら相談してる。
「修司さん、はっきり言ってあんたよっぽど切れる男かそれともなければただの馬鹿だな?。物は持って
るじゃねえか?」
「ええ?、只の段ボール箱?」
「ふふふ、只の段ボール箱ね?、じゃレイの所で1時間後」
それだけ言うと電話は切れた。しばらくその場に立ちすくんで頭の整理をした。物は箱、そして恵子さんが
何らかに絡んでいることらしい。おっと、レイの場所って何処?。
転の章 カオス
そのままの姿勢で3分ほど考えてはみたもののいくら考えても「例の場所」なんて思い浮かばない。
うーん、どうしたものか。
しかし、恵子さんはなんでこんなモノを俺に預けたのかな?どうやらいわくありげというか、さっきからの電話といい、 やばそうなモノのような気もするし。もしかして犯罪に関係するんだろうか。・・・恵子さんが犯罪に?
恵子さんの顔を思い浮かべてみたが、裏社会のイメージはどうにも浮かばない。明るく、屈託のない笑顔はいくらでも思い出す。 悪の道・・・そりゃないよな。うん。絶対にない。巻き込まれることはあっても巻き込むことは断じてない。
・・・ちょっと待て。
そりゃイカンじゃないか。
まずいぞ、助け出さないと。
想いを告げられなかったとはいえ、仮にも好きになった相手だ。
助けないと・・・・・どうやって?
俺は部屋の中をうろうろ動き回り、全ての根元である箱を手に取り途方に暮れた。
「どうすりゃいいんだよーーーー!!!」
思わず叫んでしまった。何事も声に出してしまうとすっきりとする。
「・・・・・・・・」
「んっ!?」
何か聞こえたような?
耳を澄ますと、車の走る音と、何を言っているのかわからないような数人の小さな話し声。どちらも外から聞こえている。
いやいや、もっと近くから聞こえたはずだ。しかし、部屋中を見回しても音の主はいない。
どこだ?
まさか・・俺はクチの開いた箱を見つめた。
「ぎゃっ!」
「にゃー」
俺は尻餅をついたまま、きょとんとしたニャー子の姿を見ていた。ニャー子はお行儀良く前足をそろえて少し離れた位置に座っている。
猫が足下にすり寄っただけで、腰砕けになったのは初めての経験だ。
「タイムリーな奴だな。びっくりさせるなよ」
「にゃー」
なんだか返事しているみたいだな・・・。
「餌はいらないのか?」
「・・・・・」
黙ってる。そして、そのまま立ち上がり玄関に向かっていった。
その姿を見送り、突っ立っていると「にゃー」と、玄関から声がする。
・・・開けろってことかよ。なんて奴だ。
箱を小脇に抱えたまま玄関に行き、扉を開けてやると、ニャー子は表へ出てこちらを向いて座った。
そして右手を頭の高さまで上げると、手首を器用に曲げた。
招き猫???
「こいっ、て事?」
俺はどうにかしている。思わずニャー子に聞いてしまった。
「にゃー」
しかも返事が返ってきた。どうなってんだ?
車の往来が激しい国道沿いの歩道を猫が歩いている。そのうしろを段ボール箱を抱えた男がついて歩いていく。
はたからみれば、こういう光景は奇妙なんだろうな。さっきすれ違った女子高生二人組は、指をさして笑っていたし・・。
ニャー子は大きな交差点にさしかかると、信号が赤なのを見て立ち止まった。俺はその後ろに立って、同じように待っている。
隣に派手な服を着たおんながきて、ニャー子の姿をみると。
「あら、賢いわね。どこに行くの」
と、言った。服と同じように派手な化粧をみると、信号の向こうにある繁華街の飲み屋にでもご出勤なのだろう。
俺はおんなに聞こえないように両手で抱えた箱の中に向かって「どこに行くかは、こっちが聞きたい」とつぶやいた。
おんなは一瞬ぴくりと身体を震わせると、俺の顔をみてニヤリと笑って言った。
「恵子さんのところよ」
信号は青にかわり、おんなはスタスタと歩いていく。
俺はそのまま立ちつくしていた。
結の章 和香
重たくなったような気がした。
差し上げてみると空箱の軽さのままなんだが、ちがう。
信号を渡らずに、そこにしゃがんでしまった。
ニャー子が、せかすよう戻ってきて、鳴いていた。
恵子さんとの約束は一週間のはずだ。
何千万円に、惑わされてしまったか。
なにより、さっきから、いやな予感がしきりにする。
普通ではないことだけは言えてる。
「ニャー子、この箱の中におはいり」
にゃ?
「帰るんだ。さあ」
にゃにゃああ。
きつい目で叱りつけると、あきらめたらしく、膝にぽんと乗って飛び込んだ。
ふたをした。
それからは、妙な電話も来ず、怪異も起こらなかった。
平穏な昼と夜を繰り返した。
帰宅すると、箱を開けてみる。
たいてい、居着いてしまったニャー子が寝ころんでいて、陶然と見上げた。
「ほら、缶詰買ってきたぞ。食うだろ」
テレビにもあきてしまうと、ニャー子が入ったままの箱を放り上げたりして遊んだ。
目を回しているというより、うれしそうだった。
※
前の週と同じ曜日に、どうしようかとすこし迷ったが、箱を玄関の前に置いておいた。
帰宅時にはなくなっていた。
手紙が、扉の下の隙間に挟んであった。
『修司さん。
一週間、親身に守ってくださって、ありがとうございました。
修司さんのひいおばあさまは、この世界では高名な巫女だったんです。やっぱり血は争えないですね。
わたしのこと、とっくにお気づきだったでしょうけれど、おかげさまですっかり元気になりましたよ。
血なまぐさいこともお好みではなかったようですね。頭が下がりますわ。
恵子
P.S.
猫ちゃんがなついてしまって。
しばらくお借りしていきます。次にお会いできるときまで・・ 』
※
何日かした夕方、玄関先に、また箱があった。
やんなっちゃうな、という気分がよぎった。
恒例のように手紙つきだったので、ドアを開ける前にまず読んでみた。
『こんちはです。
えーと、このまえ電話したものどもでやす。
恵子さんにさんざん痛めつけられちまいまして、もうダメそうでして、おちからにおすがりいたしやす。
へへ、恵子さんのご紹介でんす。どうかよろしゅうおたのもうします。
治療代は、中に。この前の金額とお詫び料も足してありますんで、なにとぞよしなに。
先生へ
眷属一同』
(おわり)
(^^)
それでは、4章小説次回作品(第三十二作目)のお題担当の方を指名させていただきます。
れいむさん
よろしくお願いいたします。