お題 れいむ
やわらかい朝に
起の章 カオス
腰のあたりが痛くてたまらずに麻美は目を覚ました。
こたつにはいったまま寝ていたせいで、身体を少しでも動かすと筋肉がばりばりと音をたてるような気がした。
窓の外では雀たちがせわしなく鳴いている。厚手のカーテンに遮られてよくわからないが、夜は終わったらしい。わずかな光が布をとおして部屋に入り込んでいた。
痛む腰の下に手をあてがい、身体をゆすってみるとおもいのほか気持ちがいい。ひとしきり 身体をゆすって、仰向けの体勢のまま頭だけもちあげ、こたつの上に置いてある時計をみてみる。
六時四十分。
もうそろそろ会社に行く用意をしないと遅れてしまう。
遅刻はしたくない。
給料がカットされるのはかまいはしないが、上司の嫌みはききたくなかった。無能なくせに、男だというだけで一定の年数がたつと役付になっていく不条理な世界。
“私の方が仕事が出来る”
たとえそれが誰もが認める事実だとしても、世の中の仕組みはそうそうかわらない。能力主義の世の中になってきたとはいえ、末端の組織までいきわたるにはまだまだ時間がかかるのだ。
麻美は、嫌みをいう上司の顔が脳裏にうかんで鼻にしわをよせたが、あることをおもいだして口元をほころばせた。
寝ころんだまま、となりの部屋にあるベッドをみてみる。
「うふふっ」
口からでた笑い声が自分でもおどろくぐらいにおおきかったので、あわてて手で口をふさいだ。それでもこらえきれずに「クックッ・・」と声を殺したまま笑ってしまう。
今日は気分良く仕事に向かうことができそうだ。
麻美はすばやく立ち上がり、洗面所に向かった。歯をみがき、顔を洗い、それから部屋に戻って化粧をして、身支度を整えた。
「えっと、バックは・・」
室内をみまわすと、ベッドの脇に脱ぎ捨てた服の下から、使い慣れたバックの持ち手がのぞいていた。
鼻歌まじりに近づきバックを引っ張り出して出かけようとしたが、振り返り、ベッドにかけてある毛布の端っこをつまんで持ち上げてみた。
短くカットした髪が見えた。
もう少し持ち上げてみる。
鼻の線がとおった、ほりのふかい端正な男の顔がのぞいた。
“・・・いったい何人の女をだましてきたのかしら?”
麻美は子供のように可愛いらしく笑うと、不思議そうに首をかしげた。
毛布を胸のあたりまであげてみた。
男の胸から包丁の柄が生えていた。
シーツは赤黒く染まっている。
「行ってきまーす」
はしゃいだ声で麻美は男に向かってそう言うと、ふたたび男の頭がすっぽりと隠れるまで毛布をかけなおし、玄関へ向かった。
承の章 HARU
『行ってきまーす』
なんだかやけに嬉しそうに麻美が出ていくのをベッドの横から達也は眺めていた。
昨日何が起きたかはっきりとは覚えていない。
でも、今しがた見た光景に達也は愕然としていた。
一体僕に何が起こったのだろう?
昨日は・・・確か陽子とデートの日だったよな、うん、そうだ。長い期間かけて徐々にガードを切り崩していって・・・そうだ、ようやくホテルに行くところまでこぎ着けたんだ。
そんでいざ入るぞ!ってところで・・・そう、麻美と鉢合わせたんだよな。うんうん、あれは失敗だった。でもまさかあんなところで会うとは思わなかったもんな。
それから・・・大変だった・・・。ホテルの前で修羅場。麻美は泣きわめくし、結局陽子は怒って帰るし・・・。あの時、陽子を追っていればよかったのかな?
んで、しかたなく麻美を家まで送って・・・。よってけというから家に入り込んで・・・。
あれ?そのあとは・・・?
そうか、陽子と出来なかったもんだから麻美と・・・。
でも、『そんな気分じゃない!』とか言われて・・・んで無理矢理・・・。
その後、胸に妙な感触がきてそのまま意識がなくなり・・・。
朝、達也が起きると窓際にいた。
こたつでは気持ちよさそうに麻美がすやすや・・・。
無理に起こすのも気が引けたためそのまま寝顔を眺めていた。
数分後、腰の当たりをさすりながら麻美が起きたので、
「おはよう、外は気持ちいいぐらい晴れてるよ。ところで・・・昨日はごめん、どうかしちゃってたん・・・」
しかし、麻美は目の前に居る達也を無視して体を揺すり、時計を見、そして・・・ベッドの方を見て笑った。
「ふふっ、そうか、昨日あれだけいやがりながらも満足してたんだな♪・・・覚えてないけど。」
だが、達也の言葉はまたしても無視された。そして、身支度を整えだした。
「おい、麻美!さっきからなんで俺を無視するんだよ!いい加減にしないと・・・また襲うぞ!!」
言った瞬間、麻美は振り向いた。顔に微笑を浮かべながら・・・。
「なんだ、襲って欲しかったのか?へっへっへ・・・んじゃ・・・えっ?」
嬉しそうに襲いかかる達也を無視し、麻美は鼻歌交じりにベッドへと向かう。そして毛布をつまむと・・・そこには男が!!
「あ、麻美!!そ、その男は誰だ!!まっ、まさかお前・・・俺が気を失ってから他の男と・・・。」
呆然としながら恐る恐るベッドへ近づく。麻美はさらに毛布を持ち上げる。そしてそこには・・・。
「な、なんだ・・・俺じゃないか・・・。」
ホッと胸をなで下ろす・・・が・・・。
「えっ?な、なんでそこに俺がいてここにも俺がいるんだ?」
達也は何がなんだかわからずうろたえるばかり。
麻美はもう一人の達也の毛布を持ち上げる。もう一人の達也の胸には包丁が刺さっていた。
「な、なんで・・・。包丁なんか刺さってたら死んじゃうじゃないか!!」
麻美が出かけ、ようやく落ち着きを取り戻したのはゆうに3時間は経過した後だった。
「状況から考えると・・・やっぱり俺は麻美に殺されたんだな・・・。んで、今の状況は・・・幽体離脱ってやつか・・・。」
転の章 花島賢一
ドーン、ドーン。
外で音がした。何かイベントや小学校の運動会の合図に使う花火のような感じがする。
窓を空け顔を出そうとしたが手が透けているのが自分でも分かる。当然の如く。そう、壁や窓を簡単にすり抜けられる。
どうやら幽霊の伝統みたいな技だ。しかし、外は雲一面じゃないか?。
「え!」
声が勝手に出た。麻美が雲の上を走ってる、それもすごい速さで、彼女人間か?。ここは何処?。
ドーン。ドーン。
また、音がした。しかし、花火は何処?。太陽が見えないわりにはとても明るい。蛍光灯のようにやわらかな光が雲らしきも
のやそれ以外に散りばめている様に見える。
遥か先にワインレッド色の透き通った色合いが、地平線らしき所からまるで宇宙全体に向かって放されそうになってる一筋
の光が微かな放物線を描いている。
俺は恐る恐る雲らしき真っ白な一面に足を下ろした。どうやら幽霊に成りかけの頃は足が付いてるみたいだ。
なんて言って良いか分からない感覚だ。そう、下から強い力で体全体を浮き上がらせてるみたいな。
歩いてみると以外に快適だ。走ってみた、何か風になったみたいにとても素早さを感じる。みるみるうちにさっきの謎の色の
場所にたどり着いた。
人が数十人、いやもっと、数百人ぐらいか集まっている。いや人じゃないものも人間界で言う『悪魔』、『天使』、『鬼』、『神』
釈迦やキリスト、おまけにマリアまで絵で見ただけだからよく分からないが多分そうだと思う。
彼らは少し高い壇上に立っていて何かを待ってるみたいだ。周りの人間もよく見ると体に色が付いている。黒、白は当たり前
だが赤?緑?、ピンク?、人間界と違っている。また、壇上の人、いやもの達も白だの黒だの黄色、青なのカラフルだ。
やがて壇上の中央に七色に光り輝く大きな光の球体が現れ、それを中央にして何やら会議を始め出した。
「おはー」
耳元で囁いたのは麻実である。
「どう、調子は?」
「どうって?、ここは何処?。天国?、それとも夢?」
「彼方の第二の人生の始まりよ」
「第二の人生?、なにか良く分からん」
「もう、これ取りなさい」
彼女は胸に刺さった包丁を取り除いた。
「あれ、何にも感じないや、やっぱ夢か」
「違う!、彼方は死んだの。多くの女を騙した罪に神の名により私が実行したの」
間違いを正す先生みたいな陽気さと態度。彼女こんなに饒舌だったっけ?。
「じゃ、天国か?、何かへんてこなとこだな?」
自分が殺された怒りとかは不思議に出てこない、それよりも摩訶不思議な世界に入り込んだ自分が子供心の再発を感じていた。
「何で皆体の色が違うんだ?」
「ここは修行の場!」
「修行?。何の?」
「人になるか?、悪魔になるか?、物になるか?、天使になるか?、自分次第」
「何でそんな事が必要なのかい?」
彼女が今場所の事情を良く知ってる事が不思議に思えた。
「再び生命を受けたときに役に立つのよ。だけど悪い事をしたら人間にはなれないわね」
「誰がそんな事決めるの?。神様?。それとも。。。」
「人間が言う宇宙の法則なの」
「宇宙の法則?」
「そう、命は動くもの、動かないものも全てが命」
「。。。。。。。」
達也にはとても難しいことに思える。もともと、人間は何故生まれて死ぬかは明快に答えられる人などいるはずがない。
ただ、自然の摂理に沿ってるだけで答えを見つける前に死んでしまう。今の達也がそうである。俺は何故殺されなければ
ならなかったのだろう?。
ドーン、ドーン。
また、音がした。
「さあ、行こう、会議が終わったみたいよ。何かおふれがあるかもしれない」
麻美が催促した。
結の章 和香
・・・・・・・・・・
「もしもし」
・・・・・・・・・・
「もしもし。お客さま?」
・・・・・・・・・・
「お声が聞こえないようですが」
・・・・・・・・・・
「それでは、電話を切りますので」
・・・・・おれだよ・・・・・
「・・・・・」
・・・・・げんきか・・・・・
「あなたとは、もう終わってるはずです」
・・・・・はは・・・・・
「どこからかけてるのよ、達也」
・・・・・前にも言っただろう。 天国だよ・・・・・
「ふうん。どう、そっちは」
・・・・・へへ、おれモテモテだぜ。 こっちでも・・・・・
「そう、よかったじゃない」
・・・・・はやくこいよ。 あ さ み・・・・・
「もうかけてこないで」
「先輩。いたずらですか」
「もう何年も前の知り合い。しつこいのよ」
「ストーカーじゃないっすか。訴えちゃえばいいのに」
「警察って無能だから」
「まあ、そうですけどねえ」
「なんだか、おうちに帰りたくないよう。若槻くん、今夜、お泊まりさせてくれない?」
「ええっと、おれ、一人暮らしですよ、先輩」
「うん」
「ほんとにほんと?」
「冗談だよ」
「でしょうね」
「でも、飲みにいこ」
「そうか、天国があるんだから、人を殺してもいいんだ」
「そうですよ、大賛成、あはは」
「殺された人は殺されるほどわるいわけじゃないんだから、どちらかといえば被害にあったことになっておかげでお釣りがでるんだから、迷惑じゃないんだ」
「むずかしいけど、すごいです、先輩」
「ほんと僕なんかでいいんですか」
「なんかってことはないよ。若槻くん、わりと色っぽいじゃない」
「ええー、そんなこと言われたの初めてです。生きててなんもいいことなかった。外れクジばかりでした。こんな日が来るなんて、ああ」
「若槻くんも天国に行きたい?」
「行きたい。先輩にあこがれてました、泣きたいぐらいうれしいです」
「そんなふうに言ってくれて、あたしもうれしい・・」
「愛しています」
「すてきな朝を迎えましょ・・ この部屋で」
(了)
それでは、次回作の「お題」の担当ですが、
カルマさん
を指名いたします。ご希望もあったようですし。
# お題ですから、どうってことはないと思いますよ (^^)
あ、それと、出題時に、アクティブメンバーの中から次の人(起の章担当)を指名することも、お忘れなく。
では、よろしくお願いいたします。