『手びき』の感想
ひと月半と難産気味でしたが、みなさん、お疲れさまでした。
お題
神は細部に宿ると言います。
「手引き」より「てびき」のほうが肉感的な気がする、でももう少し守備範囲を広げたくて、「手びき」としたのではと思います。
が、しかし、私の先の発言(#684 【4章小説ガイド】)コメント末尾で『手引き』と記してしまっています。
七月頃の出題で、微妙な味やこだわりを出題者である私自身が失念していたんです。
細部はごまかしも効かないようで、赤恥です (^^;
起の章
「まさみ」が、最初の謎でした。
相手は保護者である女性、たぶん母親であろうと想像しましたが、「まさみ」は少年か少女か。女性名、男性名どちらともとれそうです。
語調から、現在は男性、かつての少年とみなしましたけれど、曖昧さは、れいむさんの仕掛け、布石なのでしょうね。
次に、灰になってしまった母親らしい人の読書傾向ですよね、謎は。
書棚にあるものがそのままその人の頭の中ということはまず無いでしょうが、それなりに人柄は表わすと思います。
正直、故人はユニークすぎる気がしました。他人である私はほとんど無関心かもしれません、立ち会っていたとしても。
こだわる人がもしいたとしても、身内の一人二人だけでしょうか。
ですから、筋としては破綻していませんが、入り込みづらいところがありました。
第三の謎は、つまり、なぜ彼はこだわるのか、ということです。
母親を愛していた、他人の入り込めない、言葉にしづらいほどの情感があった、ということは十分あるでしょうが、なぜ彼女の遺したものの間接的な部分にこだわるのか。彼女が読んでいたのだとしても所詮、書籍自体は他人の書いた文章のはずです。
承の章
そして、私が指名を受けました。
第二と第三の謎はあとの方々にお任せと深くは触れませんでした。
まさみの心情がどうも不可解である、マザーコンプレックス、死者の呪縛、近親性フェティシズム等理由付けはできそうなんですが、ちょっと濃すぎる気がして(笑)
まさみの会話相手、つまり、残る二人の家族である姉=清美と、父のそれを記しました。
まさみの受け答えは、想像で補ってもらうというつくりです。
やはり謎は解き明かすほうへ行って欲しいので、周囲から、まさみの現在の姿を彫り進んでみようと思いました。
今が見えてくれば、過去の靄もうすくなりそうな。
・・ですが、まあ、類型的な引きこもり青年になってしまったようで、起の章の懐の広さに「もたれて」書いているとも言えます。
派生して少し述べますが、捕まえてみれば裁判官、学校教師なんて事件が後を絶ちません。
美少女アニメを現実にしようともくろんだ、なども耳新しいニュースでしょう。
変態と言ってしまえばそれまでですが、私は、極端に特殊な人たちが引き起こしているとは思えません。内や外のいろいろな要因で人には振幅が起こり、傾斜がつけば人はなんにでもなれる、と思うんです。
あるいは、裾野があるから突出もある。
あれらは、私たち、私のことでもあると感じます。
ただ、変態性向というのは男のものという気持ちが、私は強いです。
時代によって移り変わるだけのことであり、性差の消失する傾向からいえば、いずれ女性変質者がメディアを賑わす、とも考えられるでしょうが、何か根本的なところで女性は違うのではという気持ちが残ります。
今後の研究課題でしょうか (爆)
転の章
HARUさんも、まさみは男性とみなしたようです。
承の章の父の勧めで、外国に旅立ったあと、という展開でしょうか。
あの父親の勧めは、引きこもり青年に広く世間を見せ、苦労させ、現実認識を持って欲しいという親心。これに、おそらく自身も青年期に海外を巡って得るところがあったという懐かしさなども加味されていると思います。
が、暗い層には「やっかい払い」というつもりがあったかな、という気がします。
野垂れ死ぬならそれでよい、日本にとどめて変態事件を起こされるよりよっぽどマシというような (笑)
肉親も半ば予想したとおり、旅先で、まさみは面倒を起こすようですね。
「おかしい人」がとんでもないことをする、という進行は、ありえないことではないです。
ただし、そういう単純な図式にもたれすぎている、という感触はありました。
(人のことはあまり言えないですが)
誰を殺すのか、どういう事情の流れがあったのか。
「なるほどそりゃ殺すしかないや」とか「そんなつまらないことで。短絡だよなあ」とか慨嘆するというのが、そういうお話を読む醍醐味でもあるわけで、ほんの少しでいいので、想像のきっかけになるような具体的な語彙が混じっていればと思いました。
まあ、たぶん「短絡」のほうであろうとは思いますが。
結の章
この章の主人公は記されているとおり、女性です。
海外にいる「まさみ」が女性だったということでも通らないことはないのですが、流れからいって、日本に残っている姉=清美のことである、と考えたいです。
弟が外で迷惑をかけている頃、内でも、しっかり者のはずの姉が凶行を遂げている。そういう構図とすれば、血脈や宿業ということ、一編の姿ということでも、収まりがつくようです。
この姉弟の、殺人の動機が、どうやら無目的に近いものがあるようで、「手びき」「マニュアル」というテーマがあらわになってくるというつくりですね。
何かをするために手段を探すのではなく、手段があるからそれをする、という姿。
主体性のない、極端な事例とは思いますが、現世を映しているということでは全く違和感はありません。
根が深いもの、見たくないものを暴いている、いわゆる「痛い」作品になったと思います。まだまだ深く刺していける厚みは残るとしても。
(一例ですが、少し連想してみれば、携帯電話やパソコンを入手し、ホームページを立ち上げたり掲示板を運営したり。本当にそれがあなたのしたいことだったのか、と、問われていることに気づきますよね)
結びにある刑事たちの事例によって、この一編が社会を覆いかえすようなまとめぶり、斬新とまでは言えないでしょうが、確実にじわっと迫るものがありました。
私たちは、お話として、彼や彼女を眺め、こまったちゃんだ、などと思うわけですが、まさかと思ったまさみや清美が実際に生きていることを明日にでも知るのかもしれません。報道されるのを私たちは見るし、読むし、気がつけば友人や家族(あるいは自分)が似たようなことを口走っている。
過去の時点での未来、つまり現在を思えば、繰り返されてきた「進歩の態様」に沿っています。
救いは、どこかにあると思うんですが、そういうことも、どこかの「手びき」に書いてありそうです。